51話:彼女の献身【side 陛下】
「例え娘であろうと、悪いことをしたなら罰せられて当然です。切り捨てるわけではなく、罪を償うべきだと思っているのだけですよ」
オレガン公爵のこの発言に、ミラの表情が凍り付いていた。
椅子から立ち上がったわたしは、ゆっくり彼女の肩に手を置く。するとミラは自身の手をわたしの手に重ね、その青紫色の聡明な瞳をこちらへ向ける。
わたしは頷き、扉付近にいる護衛の騎士に声を掛けた。
「待機させていた者を部屋に入れてくれ」「御意」
騎士が扉を開けると、オレガン公爵は怪訝そうに後ろを振り返り――。
わたしとミラに、公爵は背中を向けている。
よってその表情は窺えない。
だがさすがに驚愕するだろう。
なぜならそこにいるのは――。
「アンリエッタ、入って頂戴」
ミラの声に、涙目のアンリエッタが部屋へと入って来た。
扉のすぐそばに控えていたのだ。
これまでのすべての会話を聞いていたはずだ。
父親が……自身を切り捨てたことも、もう分かっている。
そのアンリエッタの手には、紙がぎゅっと握りしめられていた。
「ミラ様、重要な証拠となる書類をお持ちしました」
「ありがとう、アンリエッタ。あなたの献身に感謝するわ」
「いえ、ミラ様付きの侍女として、当然のことをしたまでです」
オレガン公爵は、さすがに顔色が変わった。
地下牢にいるはずの娘が、わたしの執務室に現れたのだ。しかも「重要な証拠となる書類」を持参している。
さすがにこれは、顔も青ざめるのでは……?
「陛下、こちらの書類に書かれている件、私から報告させていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、ミラからの報告を聞かせてください」
そう言って再び椅子に腰を下ろす。
オレガン公爵から少し離れた位置で、アンリエッタは待機している。だが公爵とは目を合わせようとしない。そして公爵は今、奥歯を噛み締め、ミラを睨むように見ていた。
何を言い出すのかと、細心の注意を向けているようだ。
「エルガー帝国の国旗が描かれ、そこにカジノ・ペイトンと書かれています」
チラッとミラが、オレガン公爵を見る。
公爵の顔色が遂に青ざめた。
「そして借用書と書かれていますね」
ミラが凛とした声で、借用書に書かれていることを読み上げ始めた。
「この度、当カジノは以下の金額を特別に貸し付けることを、ここに記します。貸付金額7千万G、借用人ジーク・ダン・オレガン。借用内容は、負け分2千万G、新規貸し付け5千万G、上記の総額として、7千万Gを今回特別に貸し付けます。借用人は、以下の条件に同意し、期限内に返済することを誓約します。返済期限は、エルガー帝国歴1817年4月30日、利率50%。この借用書は、借用人の署名と日付をもって、正式に効力を発します。日付は3月30日、そしてジーク・ダン・オレガンの名で署名が入っています」
「ありがとう、ミラ。その書類はわたしが預かろうか」
オレガン公爵は宙の一点を睨み、歯を食いしばっている。
遂に尻尾を掴んだと、わたしは嬉しくてならない。
「我が国では公営競技として競馬、ゴールドミリオンを認めているが、カジノは法律で禁止している。だがどうやらオレガン公爵は、エルガー帝国でカジノを楽しんでいるようだね。帝国はカジノが合法だから」
「陛下、確かに帝国ではカジノは合法です。合法ですので、貸付の利率も法律で規定されています。リスクヘッジで通常の貸付より、高めに設定はされていますが……それでも15~25%の範囲です」
「なるほど。ミラは帝国出身だから詳しいな。ではこの利率50%は、どう捉えればいいのだろうか?」
そこでミラは悪女らしい微笑みを浮かべる。
それは実に蠱惑的でゾクッとしてしまう。
「それは違法カジノ、闇カジノの利率ですね」
「なるほど。アンリエッタ、借用書はこれ一枚かな?」
「いえ、複数枚ありました。厳密に管理されているので、持ち出すことができたのはこの一枚だけですが」
「アンリエッタ!」「きゃあ」
「ルーカス! 護衛騎士!」
オレガン公爵が遂に牙を剥き、実の娘であるアンリエッタに殴りかかった。
すぐにルーカスと騎士が動く。
アンリエッタのことは、わたしとミラで背中に庇う。
「公爵、気でも触れたか!? レディに手をあげるなど、言語道断! しかも実の娘に対し、何てことを! 恥を知れ!」
「うるさい! 若造が偉そうに! 従順だったアンリエッタをたぶらかしたな!」
これまで掴みどころのない老獪だったオレガン公爵が、本性を剥き出しにした。
ルーカスと護衛騎士に押さえられ、うつ伏せで絨毯に倒れた公爵は、わたしへの暴言とアンリエッタを侮辱する言葉を吐き続ける。
「そのうるさい口を一度閉じろ。もしくは一生閉じられないようにされたいか?」
剣を抜き、その口に向けると、ようやくオレガン公爵は黙った。
「不敬罪を問い、即刻この場で処刑することもできる。だがそれではお前は、自分の罪を後悔することもしないだろう。しっかり裁判をして、お前の恥を世間に知らしめようではないか」
オレガン公爵は何か言いたげだが、剣先はその舌の上に載っているので、さすがに何も言えない。
「まだ分かっていないようだが、この部屋に入った時からずっと。わたしとミラの手の平の上で、オレガン公爵、君は転がされていたんだよ」
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