46話:まずは…… 【side 陛下】
「陛下、ミラ様は……すごいですね」
「わたしの見立て通りだろう? マダムも令嬢も全部返り討ちにしている」
「ええ。驚きました。いまや陛下の婚約者は“悪女で才女”だと評判になっています」
窓から眼下を見下ろすとパーゴラが見えた。
そこではミラがお茶会を開いており、今日も令嬢達をぎゃふんと言わせている。
「本当は陛下もお茶会に参加したいのでしょう?」
「それが分かっているのに、手にしているその書類の束はなんだ?」
「陛下は国王ですからね。すべきことは山とあります」
だからこそ、この窓から見える場所で、ミラにはお茶会をするように頼んだ。せめて執務の合間に様子を見守ることができるようにと。
「それで、護衛はちゃんとつけているのか?」
「はい。騎士の中から選りすぐりの精鋭三名をつけています。今もほら、少し離れた場所に控えていますよね」
ルーカスの言葉に窓の外を見て、確かに隊服を着た騎士三名を見つけることができた。
令嬢とマダムの表立った嫌がらせは、口頭だけで済んでいると思ったが。
先日、庭園で薔薇を見ていたミラの頭上に卵が降って来たのだ。
「運動神経がいい……というわけではないのですが、第六感なのでしょうか? 察知する力はあるようで。何かの気配を感じ、咄嗟に避けました」
ミラはそう言って微笑んだが……。
卵は頭上から降って来た。
ということは宮殿の三階から投げた者がいるということだ。
卵と言えど、その高さから投げれば速度もつく。卵は割れるだろうが、当たった方も相当な衝撃を受けるはず。
「避けた瞬間、後方頭上を見たのですが、窓から消える人影は見えた気がするのですが……詳しい人物像は浮かびません。男女の区別も難しく……」
ミラは残念そうに答えたが、卵が直撃しそうになった当事者なのだ。人影に気付けただけでも僥倖だろう。
その後、三階の捜索を行ったが、犯人は挙がっていない。いずれかの妙齢の令嬢を持つ高位貴族の差し金だとは思うが……。
「陛下、護衛で騎士をつけてくださるだけで十分です。求婚状を送ってきた貴族全員を呼び出し聴取するなんて……やり過ぎかと。これも嫌がらせの範囲内です。伯爵令嬢の時とは違います。本気で私を排除したいなら、言い逃れができつつ、殺傷性の高いプランターなどを落としますよね? 卵は直撃すれば、衝撃もあります。髪もドレスもベトベトで気分も最悪なものになるでしょう。ですがあくまで嫌がらせです。既に王宮で暮らす陛下の婚約者を害することは……さすがにしないかと」
ミラがそう言うので、護衛の騎士を三名つけるにとどめたが……。
本当は十名ほどつけると言ったが「陛下、大仰過ぎます」と断られてしまった。
だがもしもミラに何かあれば……。
徹底した捜査をするだろう。非情だと言われても、拷問さえ厭わない覚悟だ。
それぐらいミラを心配している。
ゆえに。
「ルーカス、婚儀は三か月後に挙げたい」
「陛下、それは無理です。一世一代の大舞台なのに、ミラ様に既製品のドレスを着せるおつもりですか!? 美しさが半減ですよ。きちんとあの抜群の体に完璧にあうドレスを仕立てるべきです。それに祝いの席の食事は、最高級の食材を揃えたいですよね? 何より各国から非難されます。急すぎて都合がつけられないと。平民の結婚でさえ、半年後なんですよ」
ミラが王妃になれば、もはや手出しはできない。
なぜなら王妃を手に掛ければ、その貴族は破滅を免れないのだ。一族郎党残さず全員斬首刑に処すことが、我が国の法律では明示されている。
「それに陛下、ミラ様にまだ正式なプロポーズもされていませんよね?」
「それは……仕方ないだろう。プロポーズはムードが大事だと言うが、溜まった執務に追われているし、ディナーの席には貴族が同席したがるし……」
オレガン公爵とその娘が、ディナーに参席するのを許した結果。他の貴族が「ずるい」と言い出したのだ。自分達も陛下とその婚約者とディナーを食べたいと。
おかげで連日ディナーには貴族が同席するため、ミラと二人きりの食事を楽しめるのは、朝食しかない。
朝食でプロポーズ……朝なので清々しいが、だからと言ってあえてこのタイミングでプロポーズはしないだろう。
純潔かどうかを気にしない平民が、睦まじく同じベッドで朝を迎え「僕達結婚しよう」というならまだ分かる。
だがそうではなく、朝食の席でプロポーズは……。
「ならば次の舞踏会がチャンスではないですか? 陛下の婚約を祝い、ミラ様のお披露目ともなる舞踏会。それならば二人きりになれるチャンスもあるはずです。その頃には指輪も……手に入りますよね?」
「そうだな。王家では代々受け継いでいる婚約指輪があるが、サイズ調整はどうしても必要だからな。それは帰国してすぐにオーダーしており、最優先で作業させている。舞踏会には間に合うだろう」
「ではそこからですよ。結婚式はまずプロポーズしてからにしてください」
悔しいがルーカスの言う通りだった。
ミラ、早く君にプロポーズをしたい。
窓から見えるミラの姿に、想いは募る。






















































