44話:暴いて欲しい【side 陛下】
「オレガン公爵の目的は、ミラの侍女に娘をすることだけではないのですか!?」
ディナーの後の歓談も終わり、オレガン公爵とその娘が帰った後。
ミラとわたしは、彼女の部屋の前室のソファに対面で座り、それぞれの成果を報告することになった。前室は応接室のように使われるし、二人ともまだ寝間着というわけでもない。さらに婚約しているのだから、王宮の応接室で話す方が不思議に思われる。
よって前室で話すのは当然だが……ミラの居室に足を踏み入れるのは、緊張するが、嬉しくもあった。それを許されている唯一が自分であること。それが誇らしい。
そこは誇らしい気持ちになるが。
公爵と話した結果、わたしの方は……残念ながら成果はない。
唯一分かったことは、オレガン公爵が何としてもこの機に王室とさらなるつながりを持ち、貴族社会で一目置かれる存在になりたい……という野心の持ち主ということぐらいだ。しかもその執念は相当なもので、一切揺らぐことはない。
そんな収穫ではと思い、先にミラから報告してもらったが……驚いた。
ミラはオレガン公爵令嬢の胸の内を、ちゃんと聞き出していたのだ。
そこで分かったこと。
それはオレガン公爵の目的が、娘を王室の内部に食い込ませること以外に、まだ他にあるということだ。それが何であるのか。ミラにわたしは尋ねたところだった。
「侍女として私に仕えるようになったら、さらに何かを命じるのではないかと、アンリエッタ嬢は感じているようです。ですがそれが何であるかは……アンリエッタ嬢にもまだオレガン公爵は話していないようで……」
そこでミラは期待を込めた目でわたしを見る。
「陛下の方でオレガン公爵から何か聞きだせたことはありますか?」
「いや、ミラ、申し訳ないです。オレガン公爵はなかなかの老獪で、本性を見せずで……むしろミラがあの短時間で『アンリエッタ嬢』『ミラ嬢と』と呼び合う仲になり、彼女の本心まで聞きだせたことに驚きました」
「それは……私は個人的な趣味で心理学の本を読んでいたので、少しその理論を応用しただけです」
そこでミラが話したことは……驚きだった。
名前の呼び方も、親しくなったのでファーストネームで呼び合っているからだとわたしは思っていた。だが違う。親しい関係を作るために、先にファーストネームで呼び合うことにしたというのだ。
さらに自身の胸まで活用し、相手の安心感を引き出すとは……。
他にもいくつも心理学の手法を応用し、オレガン公爵令嬢と打ち解け、その本心を聞き出したのだ。
このことを知ると、ミラに対する尊敬の念は強まる。さらに恋心も強まってしまう。切なる願望として、ミラのことが欲しくなっていた。それは男としての願望であり、国王としての想いでもある。
ミラのような逸材、そういるわけではない。この国のためにも彼女が必要だ。
もう言ってしまいたい。
取引は撤回で、純粋にミラのことが好きであり、心から婚約者になって欲しいと。わたしの生涯を共にするパートナーになって欲しいと。結婚して欲しいと言いたい気持ちでいっぱいだった。
「陛下、どうされましたか?」
「いや……その……ミラの有能ぶりに驚いていました。もしかするとミラがオレガン公爵と話していたら、その本心を暴くことができたかもしれないと思い……」
場が整っていないので、ここでプロポーズはできない。ゆえに熱い想いは呑み込み、ミラの素晴らしさを口にすると……。
ミラはふわっと優しい笑顔になる。
「それはどうでしょう。この世界で、子供は親の所有物という価値観が根付いています。さらにオレガン公爵は、女性を自身と同等とは考えていません。この二つは昨日今日の価値観ではなく、幼い頃からそうだと思い、育っています。今日のような短時間で、そこを変えることは無理です。ゆえに私がオレガン公爵と話しても、その本心を引き出すことは難しかったと思います」
この世界……なんだかミラは、まるでここではない世界から来たような話し方をする。一瞬、そんなことを思いながら。今の言葉から導かれたことを、わたしは口にする。
「ということは……オレガン公爵令嬢とミラは、同じ公爵令嬢。幼い頃からの英才教育や政略結婚など、置かれた境遇や立場が似ていた。ゆえにオレガン公爵令嬢は、ミラに共感しやすかった。だからこそ全てを打ち明けたと?」
「その通りです、陛下。カウンセリングもそうですが、相談者と相談を聞く相手の信頼関係は、とても重要視されます。そこの信頼がないと、相談者は全てを打ち明けることがありませんから」
「……なるほど。なんだかミラは、その道の専門家に思えてしまう」
するとミラは「とんでもございません」とたおやかに笑うが……。
「……わたしの本心を知りたいと思うことは、ないのですか?」
「えっ……」
「わたしはミラにだったら、本心を暴かれても構わないのですが」
心臓が激しく鼓動していた。
ミラが暴いてくれるなら、わたしのこの想いは今、この場で彼女に伝わる。あくまでこれは引き出された気持ちの結果であり、ちゃんとしたプロポーズは後日だってできるはず。
「陛下は最初から、ご自身の一番重要な秘密を打ち明けてくださりました。私が意図して行ったことを、自然にできていたのです。そんな陛下が私に本心を隠すなんて、しないはず。私は陛下を信じています。よって暴くような本心は、ないと思っていますよ」
陥落だった。ミラに。
彼女を想い、全身が燃えるように熱かった。






















































