42話:何を望むのか?【side 陛下】
オレガン公爵が「分かりました。娘では友人は無理なのでしょう。ではエッカート公爵令嬢の侍女にしていただくのはどうでしょうか? 侍女という立場であれば、アンリエッタの身分と教養でも問題ないのでは?」と言った時。
さすがに驚いた。
もうチェックメイトであり、オレガン公爵は降参すると思ったのだ。
ミラの友人になるのは無理だと理解した。ならばミラの侍女になりたい……?
最初はわたしの婚約者にさせることを望んだ。だがそれがダメだと分かると、わたしの婚約者となったミラの友人にすることを願った。それも無理だと判明すると、今度はミラの侍女にさせたいと。
オレガン公爵は一体何を望んでいるのだ?
いや、彼が何を企んでいるのか、理解できない。
「侍女……だと?」
「ええ、侍女です。いかがでしょうか、陛下」
「……そんなこと突然言われ、ここで判断できるわけがない。それにディナーはもう終わった。隣室で飲み物でも用意させるから、そこでもう少し話をしよう」
この提案にオレガン公爵は応じ、ミラと計画していた通り、隣室に移動することになる。
わたしはオレガン公爵と一人掛けのソファにそれぞれ座った。ミラとオレガン公爵令嬢は、わたし達とは少し離れた場所のソファに腰を下ろした。
絶妙な距離があるため、それぞれ話をしても、聞こえることはない。勿論、大声で話せばそれは別だ。だがお互い、そんな怒鳴り合うようにして会話するわけではない。
ということでメイドがコーヒーを運び終えると。
令嬢二人の前では抑えていた、怒りを込めた声で、オレガン公爵に尋ねた。
「最初は嫁にしろ、婚約者が別に決まったとなったら、今度は友人にしたい。それを断られたら、侍女にしろ、だと? 一体公爵は何をしたいのだ?」
「まあまあ陛下、落ち着いてください」
この状況で落ち着けとはよく言えたものだと思うが。
クールダウンは必要だった。
ゆえに深呼吸は密かに行う。
「ガゼリン公爵が失脚したことで、我が公爵家にチャンスが巡って来たと思ったのですよ。どうしても王家とのつながりを持ちたいと思ったゆえです。一番はアンリエッタを陛下に嫁がせることでした。ですがそれもままならない。ならばせめて王妃となる女性の友となれば、我が家の名誉や立場も良くなるでしょう」
「既に公爵家である時点で王家とのつながりはある。それにオレガン公爵家は代々政治への興味が強かったわけではない。叔父上がいないからとはいえ、焦って慣れない政治の立ち回りをしなくてもいいのでは?」
「そんな風に言えるのは、陛下が国王という立場だからですよ。公爵家をものともしないハイネン伯爵がいる。他にもこの機会にのし上がろうとする貴族は沢山いるのですよ、陛下」
ここに来てチャンス到来となり、欲が出た、ということか。
その気持ちは分からなくないが……。
「ディナーの席で、自身の娘がどんな状態だったか分かっているのか?」
「ええ。あの子は陛下の婚約者のように、機転が利くタイプでもなく、積極的な人間でもありません。わたしの指示の元、従順にする方が、あの子は生きやすいのですよ」
「本気でそう思っているのか?」
オレガン公爵は「ええ」と悪びれもせずに頷く。
完全に娘のことを、駒としか考えていないようだ。
同じ公爵家でも、ミラの父親とは全然違う。
彼もまた政治力に長けているわけではないが、商才があり、そちらでは成功、財を成している。ミラのことは皇族に請われ、泣く泣く第二皇子の婚約者に差し出していた。だが親としてミラを心から大切に思っていたし、決して政治の駒にしようとは思っていなかった。
だがオレガン公爵は、説得したところで自身の考えを変えるつもりはないのだろう。
つまり娘をなんとか王家に近い場所へ潜り込ませるまで、諦めるつもりはないと。
この状況をミラはどう思っているのだろうか。
同じ公爵令嬢であるアンリエッタが置かれている状況。優しいミラなら同情するはずだ。
つまり。
ミラはオレガン公爵令嬢を自分の侍女につけることを認める可能性が高い。
「オレガン公爵。あなたが今をチャンスと考え、なんとしても王家と深いつながりを持ちたいと考えていることは理解した。だがもう少し、自身の娘のことを親身に考えるべきでは?」
「考えているからこそ、ですよ。あの子の器量では、いずれかの家門に嫁入りしても、お飾りで終わりかねない。ですが王妃殿下の侍女になれば、少しは役に立てるでしょう。それにあの子の自信にもつながるはずです」
やはりわたしの説得は無駄なようだ。
オレガン公爵の娘への考え方は、昨日今日でできたものではないのだろう。
ミラの方はどうなのだろうか。
少し離れた場所に座るミラを見た。






















































