39話:本気で……
「ミラ、宰相スタンレーのテスト、見事クリアでしたね」
「はい。……学校の必要性は本当に私の思うところです。そこに嘘偽りはありません。ただ、宰相スタンレーから合格をもらえるよう、少しズルをしました」
「ズル? どんなことを?」
「宰相スタンレーの経歴について調べました。勤勉な努力家であると分かったので、彼が好むような真面目な女学生のような装いをしました。メイクも髪型も。そこは本人にも見抜かれてしまったかもしれませんが。それに彼がケーキを食べるのに合わせ、私もケーキを食べたり。全力で媚びてしまいました」
私が自分のズルを打ち明けた瞬間。
ふわりとイグリスが私を抱き寄せた。
王宮にある部屋に戻るためエスコートされ、歩いている最中だった。後ろにはルーカスや侍女もいるのだ。
ビックリしてしまう。
「ミラ、服装やメイク。行動を合わせるなんて、誰もが普通にしていることです。誰かに好かれたいと考えたら、君と同じような行動をとるでしょう。人によってはもっとあからさまな行動だってとるんです。お金を渡したり、女性をあてがったり。ですからそんなズルだと卑下する必要はありません。何より学校の必要性を本気で考えているのですから、ミラは。大切なのはそこ。だからこそスタンレー宰相も君を認めたのです」
見上げるイグリスは瞳を輝かせ、私を認める発言をしてくれる。
これには本当に嬉しかった。
だがしかし。
こんな風に抱き寄せるのは……。
心臓がトクトクと喜びを表現してしまっている。
抱き寄せられるのは、驚いたが嫌ではない。
嫌ではないのが困ってしまう。
本気でイグリスのことを……。
「ミラ」
視線を伏せていた。
だからだろう。
イグリスが私の顎をくいっと持ち上げた。
心臓がドキッと反応している。
「今日の君を見て、改めて思いました。わたしは」
「陛下!」
イグリスが甘い表情から一転、片眉をくいっと上げ、声の方を見た。
私も驚き、そちらを見る。
ルーカスの制止を振り切り、こちらへ歩いて来るのは、赤に近いブラウンの髪の男性だ。長身で体つきもいい。
「オレガン公爵、今はプライベートな時間だ。何用なのですか!?」
「陛下、申し訳ありません。ただ、どうしてもお話をしたく」
オレガン公爵は深々と頭を下げる。
本当は「邪魔をするな」とイグリスは言いたのだろうが、どこの国でも同じ。
公爵に対しては強く出にくい。
「今宵のディナーに、私の娘も同席させていただけないでしょうか」
「な……わたしはこの通り、婚約者を迎えた。その件はもういい加減終わりにしていただきたい。先王は既に亡くなっている」
「ええ、分かっていますよ、陛下。そちらの婚約者は他国の令嬢。友人がいないですよね。ぜひ我が娘を婚約者の友人にしていただければ」
そう言ってオレガン公爵は私を見た。
一見すると柔和そうな顔をしているが……そのヘーゼル色の瞳の奥には、野望が見え隠れしている。
「ディナーはミラと二人で食べる。それに娘を紹介するなら日を改めていただきたい」
「陛下」
「どうした、ミラ」
「せっかくですのでオレガン公爵の娘さんにお会いしてみたいです。私はディナーに同席いただいても構いません」
これにはイグリスは驚くが、私としては妥当な判断だった。
ここで断っても、どのみちオレガン公爵令嬢とは会うことになるだろう。
ディナーを断っている。
そうなると次は昼食やティータイムで会うことを提案してくると思うのだ。
おそらくティータイムで会うとなれば、イグリスが同席できない可能性が高い。
ならばイグリスもいるディナーで、そのオレガン公爵令嬢と会ってみようと思ったのだ。
「いいのですか、わたしと二人きりではなくて」
「陛下とはこれから先、何度も二人きりでディナーはできますよね?」
少し甘えるように、その胸に手を添えた。
イグリスは私の手を優しく掴み、手の平へキスをしながら、上目遣いでオレガン公爵を見る。
「ミラに感謝することだ。オレガン公爵とご令嬢が、ディナーへ同席するのを許可する。時間は十八時。遅れることがないように」
イグリスはぴしゃりとそう言うと、私の手を取る。
「ありがとうございます、陛下! エッカート公爵令嬢」
頭を下げるオレガン公爵を一瞥すると、イグリスは私をエスコートして歩き出す。
しばらく歩くとイグリスはこんなことを話しだした。
「オレガン公爵の娘とわたしは同い年なんです。そしてわたしの父上は……先代国王は、わたしが生まれた時、オレガン公爵と口約束で『お前の娘とわたしの息子を将来婚約させよう』と言ったらしく……。確かに侍従長や乳母も聞いていたので、それは事実なのでしょう。ですが口約束で、婚約は成立しません。特に王族の婚姻は厳密です。ミラとの婚約も何十枚も書類にサインしたでしょう。それを以てしての婚約です。よってオレガン公爵が何を言おうと気にしないでください」
これには「なるほど」と思いつつ、それでも友人として娘を紹介したいとオレガン公爵が食い下がるのは、なぜなのかしら?と私は考えることになる。
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【完結】一気読みできます
『ボンビー男爵令嬢は可愛い妹と弟のために奮闘中!』
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●こんなお話●
男爵家の当主である私(女)。
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とても貧乏で使用人を雇うお金もない。
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菜園を耕し、家畜を育て、家事も自分達でしている状態。
それでも可愛い妹と弟のために、私は奮闘していたが……。
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