34話:痛快【side 陛下】
「失礼します」
「ルーカス。どうだった、ミラは温室や美術館を見て、喜んでいたか?」
「いえ、それが……」
ルーカスが苦笑している。
重鎮達との会議の後は、個別のミーティングがいくつも設けられていた。それをこなし、ティータイムは騎士団の団長とお茶を飲むことになった。
見るからに偉丈夫な騎士団長。その手に繊細な作りのティーカップを持つと……まるでおままごとのオモチャのようにカップが見えてしまう。
やはりティータイムは、白魚のような手をした令嬢が、優雅にティーカップを持つ姿を眺めながら、極上の紅茶を味わうのがいい。そしてその令嬢といったら……ミラしかない。
だが目の前はいかつい騎士団長。
「陛下、自分の顔に何かついていますか?」
「いや、何もついていない。それより、国境警備の件だが……」
こんな感じで会議やミーティングをこなし、ようやくひと段落できた。
自室へ戻り、夕食のために着替えをしようとしたところ、ルーカスが部屋にやってきたのだ。そしてミラの様子を尋ねると……。苦笑して驚きの事実を話しだす。
「なるほど。昼食は牛飼いの一家と摂ったと。しかも野菜を食べ喜んだ……驚きだな。公爵令嬢なのに」
「でもそれがなんというか、とても自然でした。すぐに牛飼いの一家とも打ち解け、『美味しいです』と心からの笑顔でしたし……。やはり格下男爵令嬢を蔑むなんてしない方だと再認識できました」
「昼食後はどうした?」
「今度は騎士団の武器庫を見たいとおっしゃられまして……」
ミラは本当になんて面白いのだろう。騎士団の武器庫を見たい令嬢は、この国広しと言えど、ミラぐらいだろう。ルーカスの報告を聞くにつけ、宮殿の敷地の案内は、わたしがすれば良かったと思ってしまう。
「武器庫へ向かうため、中庭へ向かったのですが、そこでちょっとしたトラブルがありました」
「トラブル……?」
「はい。中庭で、ハイネン伯爵令嬢とその取り巻きの令嬢と遭遇したのです」
ハイネン伯爵からは求婚状が届いていた。そしてこの家門は伯爵家の格付けでは最上位。公爵家相手でも怯むことはない。
「厄介な相手と遭遇したな。それでミラは?」
「ハイネン伯爵令嬢はなぜか中庭で花に水やりをしていたのです。そして撒いた水がはね、ミラ様のドレスに飛び散りました」
「なるほど。ミラが自分達のところへ来ると分かり、早速仕掛けたのか。しかも直接ミラに水を掛けるのではなく、はねた水でドレスを汚す……あくどいやり方だ」
ルーカスは同意を示し「こういう時の令嬢は、見た目からは想像もつかない行動をとります」と言うが、まさにその通り。
ハイネン伯爵令嬢は、金髪碧眼で、ドールのような令嬢として知られていた。まさにミラを貶めた、オリヴィア・ペーシェント男爵令嬢と似ている。多くの男性が「可愛らしい!」と喜ぶ容姿をしており、舞踏会でも常に令息に囲まれ、ちやほやされていた。
「意地悪でドレスを水で汚すようなことをする令嬢には見えない……だろうな。それにわざとではなかった。すぐに謝罪し、ドレスが汚れたミラを、笑ってみていたのか?」
「そうです。その上でハイネン伯爵令嬢は、自身が名乗っていないことに気付き、『私が誰だか分かるかしら?』と問い掛けたのです」
ハイネン伯爵家は国内では有名だ。だが国外でその名を知られているかというと……。
皇族になるため教育を受けたミラでも、さすがに知らないだろう。
「当然答えることは」「できたのです」
「!? ミラはハイネン伯爵令嬢のことを知っていたのか!?」
ルーカスはコクリと頷く。
「『存じ上げています、ハイネン伯爵令嬢』とミラ様はきっぱり言い切りました。出鼻を挫かれたハイネン伯爵令嬢は、その後が続きません。一方のミラ様は、こう言ったのです。『あなたのお父様は輸入した羊毛で作ったジャケットに、堂々と家門の紋章をつけていらっしゃるでしょう。アルセス王国では産地を含め、国内製造された物に対し、家門の紋章をブランドロゴとしてつけることを推奨しているのに。図々しい伯爵がアルセス王国にはいたものね、と覚えていましたわ』と」
これには思わず声を出して笑ってしまう。
貴族令嬢は持ち物に家門の紋章をいれている。
ミラはハイネン伯爵令嬢が謝罪しながら差し出したハンカチに刺繍された紋章を見て、ピンと来たのだろう。
「それでハイネン伯爵令嬢は反撃できずで終了か?」
「いえ、そこは見た目に反した勝気な性格のようで『帝国では格下の男爵令嬢を虐めていたと聞きましたが、まさに噂通りですね。お父様のことをバカにするなんて! 本当に悪魔のような悪女ですわ』と言い出しました」
「なるほど。それでミラは?」
ルーカスはその時のことを思い出したのか、なんだかニヤニヤ顔になる。
「ミラ様は『ええ。私は悪女です。ですからハイネン伯爵令嬢が、わざと水をかけたことも、小物の行動にしか思えません。気にする価値もない。それに伯爵家の序列ナンバー1でありながら、家門の紋章を推奨されない方法で使うなんて。貴族の恥だと思っているのに、忖度して誰も指摘できないことを、ズバリ口にした迄です。この件を、悪女に意地悪されたと広めたいなら、ご自由にどうぞ。でも話せばご自身の父親の恥を広めるだけですよ』と言ったのです。……正直、痛快でした。ハイネン伯爵令嬢は退散ですよ」






















































