14話:情熱と冷静の狭間【side 陛下】
美しいミラに見惚れ、言葉を失い、エッカート公爵から声を掛けられる事態になってしまった。
背後でわたしを見守るルーカスは、かなり驚いている。
それは……そうだろう。
これでもわたしは既に一国の主、国王なのだ。自身の婚約者に見惚れ、言葉を失うなど……。
だが驚きは終わらない。
ミラが……自身の手の甲への口づけを許してくれたのだ。
彼女の青紫色の瞳が「そうしていい」とわたしを促していると分かった時。
それはまさに天にも昇る気持ち。
わたしとの関係は取引と思っているだろうに、スキンシップを許してくれたのだから。
「陛下。手の甲へのキスは、社交辞令の挨拶でも行われることですよね?」と、ルーカスは言い出しそうだが、関係ない。わたしが特別に感じていることなのだ。
何よりミラは六歳で皇族と婚約している。
彼女の手の甲へのキスは、その婚約者だった第二皇子以外は許されていないはず。
いくら挨拶ではあっても、未来の第二皇子妃には遠慮すると思う。
せいぜい握手とハグ、チークキスだ。
事実は不明。でも勝手に脳がそう理解し、わたしにとてつもない喜びをもたらしてくれる。
恭しくその甲へキスをした時。
これが彼女の素肌だったら良かったのに――そこは男の本能として思ってしまう。
グローブ着用の文化を広めた奴は誰だ?
帰国したらグローブ撤廃の法案を……いや、落ち着こう。
落ち着こうとするが、落ち着けるわけもなく。
自分達も用意した馬車に乗るから、君たちも行きなさいと、これまた公爵に促されてしまう。
ミラをエスコートして歩き出す時は、もう自然と彼女の腰に手を添えてしまうが……。
決していやらしくならないようにしたいと思った。
本当は今すぐ抱きしめたい気持ちでいっぱいだったが、そこは我慢する。
あくまでエスコートの一環で、そこに手を添えていると分かるように、そっと触れているが……。
それだけで胸が高鳴ってしまう。
第二皇子のバースデーパーティーで、彼女を抱きとめたことが、とても懐かしく感じられる。
あの時は、ミラへの恋愛感情を強く意識していたわけではない。もし意識していたら、力の限り抱きしめ、彼女の香り、その柔らかい体を感じたいと……。
「陛下。馬車へ乗るのも手伝っていただけますか?」
本来は御者が手伝うことをわたしに頼む。
その意図は、もう少しわたしと触れあう時間を持ちたいということでは?
嬉しくなり、喜んで手伝い、馬車に乗り込んだ。
本当は隣に座りたかった。
だが自制し、対面の席に腰を下ろした。
今、隣に座ったら、間違いなくミラを抱き寄せてしまいそうだった。
「陛下は髪の分け目を変えているので、普段と雰囲気が違いますね」
「それを言うならミラの方こそ。……あ、わたし達は婚約しているのでファーストネームで呼ぶことにしました」
するとミラは少し頬をピンク色に染め、「当然のことです。ファーストネームで呼んでいただいて構いません」と応じてくれる。
そこに安堵した瞬間。
「陛下とは一目惚れで婚約に至ったという前提です。それを疑われないようにするため、その……陛下が嫌でなければ、適度な触れ合いは持った方がいいと思います。先ほどのように腰を抱き寄せていただいたり、肩を抱き寄せるぐらいは、婚約者であればおかしくないかと……」
ミラからこんな風に言ってくれるとは!
しかも「陛下が嫌でなければ」と言ってくれたが。
嫌なわけが無かった。
今、隣の席に座っていたら、「では早速」と肩を抱き寄せていたかもしれない。
いや、いくら何でもそれはダメだ。
自分の地位を踏まえ、さらにミラから幻滅されないためにも。紳士らしく振る舞うことは忘れてはならない。獣ではないのだ。本能のままに動くわけにはいかない。
そこでミラに気づかれないよう、深呼吸を一つして、朗らかに応じる。
「それは名案ですね。そうすることで婚約者として、お互い自然に見えます」
「そう言っていただけて安心できました。……今日はちゃんと陛下が求める悪女を演じますので、ご安心ください」
この言葉には、つい微笑みそうになる。
こんなに清らかな姿で悪女? ご冗談を。
そう思うが口では「ええ。楽しみにしています」と答えている。
できれば悪女になるのは、二人きりのベッドの時で……と考えてしまうのは、わたし自身そういう年頃なのだから、仕方ない!
ともかくミラとは、いろいろな意味で距離が縮まったと思う。
まだ取引相手としか見られていないが、スキンシップを許されたのだ。人は接触により、相手に気持ちを許し、親近感を覚えるはず。
ミラとわたしはまだ始まったばかり。
取引の関係であることを、ミラが忘れるように。彼女の気持ちがわたしへ向くように。
前進あるのみだ。
お読みいただき、ありがとうございます~
【お知らせ】読み切り特別編の公開開始☆彡
『私の白い結婚』
https://ncode.syosetu.com/n9568jp/
王命で騎士団長に嫁ぐように命じられるが、妹は断固拒否。
そこで私は妹の代わりに“野獣”と恐れられる騎士団長に嫁ぐことになり――。
本編完結済。
ライル&アイリのエピソードがスタートです!
併読されている読者様、ぜひお楽しみください♪
ページ下部にバナーございます~






















































