3:夜闇の廃校 上
ようやく主人公が本格的に戦い始めます。
背負っていたリュックを狼たちに投げつけ、校舎の中へ。何か武器っぽいもの探さないと…!あるとしたら、体育館とか家庭科室とかか?そんなことを考えながらとにかく走る。この廃校の構造なんて微塵も分からないのでとにかく狼から逃げながらしらみつぶしに探すしかない!
が、いくら走り回っても武器になりそうな物は見つからず、離れの体育館でようやく見つけたボロボロの木刀(小太刀)をゲット。頼りないけど無いよりマシか?
現状手元にあるのは木刀、スマホ、家庭科室で見つけたマッチ棒数本のみ。あまりにも頼りないが逃げ切るためにはこいつらで何とかするしかない…!スマホのカメラで奴らの動きを見ようとピンチアウトすると…
ヴォン……
「!?」
こ、これ「ユートピア・エンド」のUIか!?そういやゲームもピンチアウトでメニュー画面開く仕様だったな…カメラのあれで反応するとは…それにこのデータ、僕があの夢で設定したアバターのデータそのまんまじゃないか!?…動かせる。あ!あの最後のアナウンスの意味ってもしかして…そういうことだったのか!?
…試しに小石使って噓かほんとかやってみるか。
「『精密鑑定』、『鑑定力補強』」
その瞬間、目の前にその小石の情報が浮かび上がってきた。
Name:その辺の小石
Rank:F
説明:どこにでも落ちているごく普通の小石。投擲時、クリティカル発生率が少し上昇。後30回使うとRankが上がる。
…なるほど。ほんとに僕あのアバターになっちゃったんだなぁ…。でもこれなら狼共を撃退できる!
ゲーム内での動き方は全部覚えてるし、こうなりゃ当たって砕けろだ!!
異獣には明確な自我はなく、彼らの存在する理由は『食らうこと』しかない。何かを考える以前に計り知れない飢餓感が思考を蝕み、次第に餌を追い求めることしか考えられなくなる。そんな中、突然たくさんの人間が溢れている世界に意図せず交わった事により彼らはか細い糸で繋ぎ止めていた思考を捨て、本能のまま餌へ飛びつき、肉も骨も血も内蔵も食らいつくし、最終的に「世界崩壊」を引き起こすのだが…。
彼らの初陣は一人の「ホルダー」に蹂躙される黒星から始まる。
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よしっ、まずはこの木刀を使えるようにしないと…
「『出力増加Ⅲ』、『魔力浸透Ⅱ』、『性質変換』」
淡い赤色が木刀を包み込み強化を施す。ズッシリと重量感が増した感じがした。鑑定してみると…
Name:頼りない木刀+
Rank:E→D+
説明:半世紀以上前に使い捨てられた木刀。性質変換により一時的に普通の刀と同等の切れ味を持つ。使うたびに耐久値が1%減少する。
本当に頼りないなぁ…。だけどあいつらを殺るには充分だ。準備も整ってる、自分の理想の動きもできる。すぅっ…!!
「かかってきやがれ!狼共!!!」
そう大声で叫ぶと狼共が音に気付いたのか一気にこちらへ向かってくる。
「...ふぅ。『身体強化Ⅲ』発動」
全身に力が漲り、そのまま一気に狼の方へ駆ける。
上がりすぎた身体能力に振り回されそうになるが、気にせず突っ込む。スキルのモーションは全部頭に入ってる!あとは無理矢理実行に移すだけだ!
そして、1匹の狼が僕に飛びかかってくる。勝負は一瞬、木刀を相手に向け…
「〈ストライクエッジ〉!」
交差した瞬間、横へ回り込み木刀を狼の横っ腹に連続で突き刺す!!
ダダダダッ!!とマシンガンのような音を鳴らし狼を壁へ吹っ飛ばす。
よっしゃ!!成功!と思う間もなくもう二匹突っ込んでくる。
片方を木刀で受け、もう片方を足で蹴っ飛ばす。
「っっぶねぇ……じゃなくて、次だ!」
後ろへ飛び、体制を整え直し蹴っ飛ばした方へターゲットを向ける。
「〈剣舞・微風〉!」
木刀を逆手持ちにし連続で切りつける。
赤黒いダメージエフェクトが飛び散り、狼がポリゴンとなって砕け散った。
「あと…二匹…!」
まだ試したい事もあるけど、如何せん頭が……割れるように…痛いっ…!やっぱり〈スキル〉の強制取得が響いてるのか…!?
「ユートピア・エンド」には裏ワザとして「強制取得」というものがある。〈スキル〉には決められたモーションがあり、発音と同時にプレイヤーにそのモーションを強制させるというものだ。「強制取得」は取得していないバフ系以外の〈スキル〉のモーションを自身の身体能力だけで完璧に寸分違わず再現する事でシステムが「取得していた」という誤認識を起こし無理やり取得するというバグがある。
本来見つかった瞬間にシステムが修正するはずがどういう訳かバグを修正出来ず、結局サービス終了まで放置され、彼方の遊び道具になってしまった。
もしかしてと思って試してみたら、案の定修正されてなかったのはいいけど…取得したと同時にくるこの頭痛…あ、あまりにも痛すぎるっ!!!鼻血も出てきたし…くそっ、集中力が削がれる!が、そうも言ってられない。残りの二匹はコンビネーションを使ってきて現状は防御で手一杯になっている。
現状で僕が取得できたのは〈ストライクエッジ〉と〈剣舞・微風〉のみ。どちらも単一かつ近距離にしか対応できないスキルなので、二匹のコンビネーションを崩したとしても、もう片方に首元をガブリッとされてお陀仏だ。
とりあえず一瞬でもいいから、こいつらのコンビネーションを乱して撤退しないと!やるしかないか……!
「〈衝振脚〉!」
ダンッッ!!と強烈な足踏みをし、その場に衝撃波を起こす。狼たちはほんの数秒たじろぎ、その間に撤退っ!
体育館からグラウンドの倉庫裏に何とか逃げ切れた。が、さっきの数倍くらい頭痛が酷くなりほんの少しでも気を抜いたら意識をなくしそうだ……!!
「はぁっ…!はぁっ…!し、しんどいっ!さっきのが結構響いてるな…」
今これ以上強制取得をやったら当分の間動けなさそうだ……あいつら僕が弱ってるのに気づいてるな…?あそこからピクリとも動こうともしない。餌が力尽きるまで待ってやがる…。
とりあえず次の手を考えないと……………いや待てよ!?確か才能に……あった!!『隠形術』!!
…そういやすっかり忘れてた。でもこれならあいつらを倒せる!
「『気配遮断』、『幻影』、『隠密歩法』、『静音』、『影移動』」
スッ…と消しゴムツールで消した様に自分の気配が薄れていくのが分かる。そして目の前には自分と瓜二つなもう一人の「彼方」が現れる。
「君はあそこの狼の注意を惹くだけでいいから、OK?」
『…カシコマリマシタ』
そう言って影は迂回して体育館に向かっていった。
準備は整った…
よしっ、第2ラウンド開始だ!
読んでいただきありがとうございます。