24:第16階層攻略戦⑤ 胡蝶の夢を破る時・中
思い出せ
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『…Pkyakyakyakyakyakya!!!!』
イマジナリーパピヨンの発狂攻撃がフロア全体に降り注ぐ。防御支援スキルやダメージ軽減のポーションを飲んでいてもだいぶ…キッツイな…!!
戦闘開始から大体1時間くらい、HP変動による行動変化がもう起こったっていいだろっ…!?やっぱ昨日話してたことは杞憂じゃなかったか…!黒織姫を収納し、黒鉄剣と風雷の斧を取り出し構えると…
『後方支援隊のカーラです。パーティーメンバー全員に通達、代表の再使用時間が終了。これより大規模な攻撃が行われます!10カウントで盾役と遊撃隊は戦闘範囲から離脱してください!!!10、9、8…』
と、念話が飛んできた。しかし今か…!僕の<インフィニットジャンパー>の再使用時間とギリ噛み合ってないから跳躍でのかなり難しい…『隠形術』の『影移動』でどうにかできるけど、今これ使ったらMPすっからかんになるけど…背に腹は代えられないか…
ドポンッ…と影の中に沈み、姐さんの影から地上に出る。姐さんは特にビックリすることもなく後方へ全員確認のサインを出した。
そしてユーリィと他3人が詠唱を完了させ、上空の魔法陣からスキルを放つ!
「<能天使ノ呼声・雷炎虹光>ッ!!!!!」
「「「<大天使ノ呼声・暴風の矢>!!!」」」
フロア内に灼熱の光と暴風が降り注ぐ。イマジナリーパピヨンが地上に落ちたのか爆音と同時に突風が襲ってきた。が、怯まず地を駆ける。落ちてきたのなら翅を切り落とせるチャンスだ!即座に前衛全員に念話を飛ばす。
『彼方です!イマジナリーパピヨンが地上に落ちたのを視認しました!翅をここで落とします!!』
簡潔に伝えた後、再使用時間を終えたスキルを再使用。さっきの攻撃の合間にMP回復しておいてよかった。幸い今こちらにヘイトが向いていないから『致命の一撃』の使用条件が整ってる…なら利用しない手はない!
ぐるりと後ろ側に回り、黒鉄剣を中段に構える。狙うはさっき僕が傷をつけた右側の付け根部分、今の僕の最大火力をぶち込んでもう空中に逃げれなくしてやるっ…!
呼吸を整え、走り出す。放つは<ストライクエッジ>から進化した<バイパースラッシュ>。突き刺しから変化した捉えることのできない蛇の一撃。スキルモーションが開始された瞬間、剣身が揺らぎ始め視認できなくなる。そして獲物を捕らえるが如く傷口へと斬撃が伸びる。
『致命の一撃』の効果と重なり合いクリティカルが複数回起こり、蛇の牙が翅を根元から嚙みちぎる。
しかしその代償として黒鉄剣が砕け散る。むっ、耐久性には自信があったけど流石に最後まで耐えれなかったかぁ…。左手から徐々にポリゴン状になっていく黒鉄剣を見届け、インベントリから風雷の斧と丸盾を取り出し反対方向へ走る。
瞬間、大音量のアナウンスがフロア内に響き渡る。
『イマジナリーパピヨンのHPが50%以下へ到達しました。』
『それに伴いイマジナリーパピヨンの行動が変化します。』
ようやくか…!ここからが本番と言っても過言じゃない位に難易度が跳ね上がってくるんだ…!もう一回気合い入れなおさないと!!
「お前ら!ここからよりギミックが厄介になる!集中切らすなよ!!!」
ユーリィの号令が響く。周りのメンバーも深呼吸し倒れこんでるイマジナリーパピヨンをにらみつけ、武器を構え直す。ここからのヤツの動きは単純になるが、短いスパンで広範囲発狂攻撃とデバフを付与する音波攻撃を交互に繰り返す行動しかしない。それを耐えつつ、その行動の合間にさっきの総攻撃を何回かぶつけて削っていけば勝ち目はこちらに大幅に傾く。
ゲームの時なら単純作業で片付けられるが、今は現実。精神と肉体の摩耗がある。なるべく短期決戦で終わらせたいが…
『し、しししs、んんせ……逕ウ隲九r蜷ヲ螳壹@縺セ縺吶?ら筏隲九r蜷ヲ螳壹@縺セ縺吶?………の申請を承認、イマジナリーパピヨンの行動『病の音色』を『胡蝶の夢』へ強制進化。………成功。イマジナリーパピヨンの基本行動を更新。………成功。』
は?
えっ、はい?今なんて言った?基本行動の更新?固有スキルの進化だと………!?
「代表…これはっ!?」
「………っ!各員撤退だ!転移鏡の用意をしろ!!!」
ユーリィは声を荒げて命令を飛ばす。が、全員困惑しているようだ。かく言う僕も半分パニックになりかけてる。こんなギミックなかったろコイツ…!?それに『胡蝶の夢』だぁ…!?僕でも聞いた事ないスキルに進化なんて…!
「お、開放!階層入口前っ!!」
みんなが転移鏡を使い入口に戻ろうとする。が…
『error。現在このエリアは転移不可能エリアとなっています。』
「なっ…!?」
ふ、ふざけんなよっ!?転移不可能エリアなんて前はなかったろ!?
「なんでっ…なんで使えないのよっ!?、開放!開放!!開放っ!!!」
「くそっ!一体どうなってんだよ!」
ヤバいどうする…!立ち向かおうにも未知のギミックに裸一貫で突っ込むのは流石に無謀にも程が…あ……れ?なん…だ、これ?
途端に意識が暗転しかける。まるで体全体に鉛がまとわりついた感覚に陥る。
「カナッ!大…じょう、ぶ…か!?」
「せ、んぱ…」
お、かしい…なん…なんだこ、の眠気は…!?
「…ク……ソ…が……!!」
「も…う、お…起きて、らん…な……..い…カナ…タ!」
「……っユー、リィ…美鈴……!!」
瞬間、意識が深い深い微睡みへと落ちていく。
『イマジナリーパピヨンの究極技能、『胡蝶の夢』が発動しました。』
♢
「あ、れ…ここは…?」
目を覚ますとそこは何故か妙に見慣れた風景だった。こんな場所記憶にないはずなのに、妙に安心感がある。てか…なんか忘れてるような…?
起き上がり、付近を歩いてみる。屋敷なのかな…?めちゃくちゃ広い庭や数えるのもバカらしくなるくらいの畳の部屋。なんだって僕はこんなところに…?
「…!」
なんだか…懐かしい香りがする。いつ嗅いだんだろうか…ずっとずっと昔、覚えてないけど僕の心に刻み込まれているような…?香りのする部屋は小走りで向かう。近づくにつれ涙がこぼれ落ちる。…なんで忘れていたんだろう…これは……!!
「母さんっ!!!」
懐かしい後ろ姿を見つける。あの時のままだ、何も変わってないっ…!なんでここに母さんがいるのか理解できないが、そんな事はどうでもいい。
『あら、おはよう彼方。ほら早く座って座って!』
「あ…」
言われるがままに席に着く。トン、トン、トン、と包丁で野菜を切る音が静かなキッチンに響く。涙も止まりだんだんと心が落ち着いていく。
あぁ…心地良いなぁ…ずっとここに居たいなぁ…
▽
「さて…俺はなんで実家にいるんだっけ?」
それに身体がちっこくなってら……とりあえず居間にでも行ってみるか。…なんか忘れてるような…?まぁいいか。
歩き慣れた渡り廊下をスタスタ歩く。…頭痛ったいな。二日酔いみたいだ。あれ…どっちだ?忘れるわけねぇのに…
奥に進むが見慣れた場所に出ない…風景は実家なのにまるで迷路だ。
『……くーん。』
ん?誰かに呼ばれたか?
『峯吉くーん!こっちだよー!!』
「は…?」
なんでこの声が聴こえるんだ…!?ありえないだろ…!!とにかく声のする方へ走る。障害物なんて気にしてられない。とにかくいち早く向かわないといけないと俺の本能が鼓動し続ける。
そして後ろ姿を見つける。なぜここに居るのか、一切疑問を持つこともなく叫ぶ。
「春風さんっ!!!」
『やっほー!…ってどうしたの?なんで泣いてるのよ?』
「あぁ…!!」
見間違える訳がないっ…!あの時のままだ…
「はっ、春風さん…!なんでここに…いやっ、それより…」
『なんでって…変な事聞くのね。理由なく会いに来ちゃダメなのかしら?それにほら、前に峯吉くん言ってたでしょ?次会うときはお茶しませんか…?って!』
「たっ…確かにそう言ったけど…あの後春風さんは…!」
『んもぅ!今日の峯吉くんちょっと変だよ??さっ、早く行きましょ?』
「はっ…はい!」
瞬間、俺の脳内に浮かんでいた疑問は蜃気楼の様に消え去った。確かにそんな事はどうでもいい。早く追いかけないと…
○
思い出したくない。
せっかく記憶から消えていたのに。
せっかく忘れられて新しい自分になれたのに。
どうして…またこんなやつと顔を合わせなきゃいけないんだ。
「俺はっ…私はっ…!」
『どうした?早く立たないか。それでも私の息子なのか?このような事も出来なければお前は生きている資格もないのだぞ?』
「うるっ…さいんだよ!!僕はっ、いや俺様はもうお前の言う事なんてどうでもいいんだよっ!!!」
『…?ほら、変な事言ってないで構えなさい。お前は私なのだから、こんなとこで躓いている場合ではないのだぞ。』
「違うっ!!」
『いいや?違わない。…何度も言わせるな、構えろユリウス。私を怒らせるな。ほら…』
何度も繰り返す。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も…
夢だと分かっているのに、ここにはもう居ないはずなのに。今目の前にいるのは偽物で、本物は殺したはずなのに、楔のように俺の奥底に埋まり続けている。
「ごめんなさい…ごめんなさい…やりますから…もう何も言わないでください…」
何度目かも分からない、ばきっ…と心が砕ける音がした。
□
「……全員寝ていますね。」
女は一人座りながら呟く。女以外に意識のある者は、正面に翅を片方必死に羽ばたかせている蝶しかいない。
ピリリリリッ…と電話が鳴る。
「はい。」
『私だ、イマジナリーパピヨンの調子はどうだ?』
「ええ、大成功…といったとこでしょうか。特に不具合なども起きておりません。」
『そうか…ならいい。』
ブツッ…と電話が切れる。
「データだけ持って帰ってこい…ね。簡単に言うわ…まったく。」
ポツリと言葉がこぼれる。
「まぁ…いいわ。こいつは未完成も未完成の試作品を投与しただけの個体。この効果ももう少ししたら切れるでしょうし。」
女は一人不敵に笑う。




