23:第16階層攻略戦④ 胡蝶の夢を破る時・上
「よし…お前ら準備はいいな?」
ユーリィが扉の目の前で呟いた。それに対する返事はなくただみんな真剣な表情で答える。今のみんなのテンション感はメラメラと闘志が燃えているというより、静かに鋭く燃えている蒼い炎といった感じだ。
「よし…いつも通り陣形は魚鱗の陣で行く。遊撃部隊はすぐに散らばって手筈通りに頼む。補助部隊はバフの準備はできてるな!?」
「はい!詠唱完了しています!<支援強化:獅子の咆哮>!」
パーティの付与師が手を天に掲げると上空に獅子を模した幾何学的な魔法陣が浮かび上がり、僕らに強化が施される。さらに続けて何回も強化スキルを重ねてようやく準備万端といったところだ。
「よし…じゃあ開けるぞ。ヘイトがこっちに向いた瞬間に俺様が最大火力をぶち込む。その後各自行動開始してくれ。」
「「「応っ!!!!」」」
ユーリィが扉に両手をつけると、周りの装飾に光が灯り扉が徐々にポリゴン状になっていく。扉が消えるとそこには中央に巨大な樹がある広場だった。樹の正面にはケミカルな色の蛹が静かに胎動していた。蛹はそのうち胎動が収まり、真ん中からパキっと音を立て割れていく。紫とピンクが混じりあった翅が蛹から姿を現し…
瞬間、本体を覆っていたものが翅の羽ばたきではじけ飛び、階層主が姿を現す。
『階層主 出現!!』
『第16層ボス《イマジナリーパピヨン》が 現れました。』
「<力天使ノ呼声・虚数魔導撃>!!!!」
何十もの魔法陣が空へ浮かび上がりそこから雨のように砲撃が降り注ぐ。同時に僕らも散開、まずはこちらで一気に翅を削る!
「正面組はタゲ集中系のスキルでヘイト管理を!先輩と美鈴は左の翅の方に回って!右は僕と姐さんで落とす!」
「「了解っ!!」」
全体に簡潔に指示を飛ばして行動開始する。幸いユーリィの最初の一撃がかなり効いたのかボスは未だにギミックを発動しておらず回り込むのは容易だった。
「姐さんバフお願いします!『出力増加Ⅲ、身体強化Ⅲ』。<インフィニットジャンパーLv.2>、<クリムゾンアンブレイカブル>、<プライマルアーツ閃>起動!!!!」
「まっかせて!<プレシャスフォーチュン>!!」
自分にいつも通りの強化を施し、姐さんからクリティカル率上昇の強化をもらう。即座に上へ跳躍、『風雷の斧』を取り出し翅の付け根へ投擲っ!!!
付け根部分で風と雷の爆発が起こる。斧が手元に戻ってくると同時に即収納。僕のエース武器である『黒織姫』を取り出す。逆側でも先輩と美鈴がゴリゴリ削っているようだ。負けじとこちらも再度剣を構え補助系のスキルを起動する。<焃血支配術Lv.2>、<重刃・狂桜無尽>、<瞬光視界Lv.2>。そして技能の合体で新たに獲得したVITを下げる代わりに自身を中心とした半径1メートルの円の範囲内のみどこへでも瞬間移動できる<ファントムブリンク>。
起動を確認した瞬間<抜刀「綴」>の構えを取り、跳躍。こちらを視認した刹那、翅の根元を斬る。切断までとはいかなかったけど傷口ができたっぽい。そこへ『焃血剣』を突き刺す。ボスモンスターにデバフが加算されていき、動きがコンマ数秒だけ遅くなる。…まだまだここからだ。イマジナリーパピヨンの広範囲攻撃まであと30秒くらいか…。幸いもうちょいでユーリィの<天使名>スキルの再使用が可能になる。そこでまた大規模な攻撃がくるからそこまでにこいつを地に落として広範囲攻撃をキャンセルさせる!!
♢
「羽曳野!!」
「分かってる!<マス・ストライク>!!」
メキッ…!!と豪快な音を立てイマジナリーパピヨンの腹部をふっとばす。女子が武器持って出る音か…あれが!?
「ちょっとーーっ!!うーけーとーめーてーー!!」
っとやべぇ!そんなこと考えてる余裕なかったわ!!俺は即座に羽曳野を空中でキャッチし攻撃範囲内から離脱する。
「…峯吉さん、絶対変なこと考えてたでしょ。」
「いやぁすまんすまん…それよりも殴ってみた所感は?」
「うーん…なんか毛布のクッションみたいだった。多分打撃に耐性かなんかあると思う。このまま続けるなら峯吉さんメインのほうがいいんじゃないかな。」
「なるほどOK、じゃあタンク部隊への攻撃が終わった瞬間にその斧で俺をぶん投げてくれ。」
「了解!」
さて…上空に投げられた後だが、どこを狙うかだな。まぁでも翅が無難だよなぁ…。彼方も翅狙ってるっぽいしな。でも根元より翅脈の部分の方が脆そうだに感じるな。とりあえず目標は決まった。よしっ…後は実行するのみだ!
「…というわけで結構上の方まで頼むわ。着地はこっちで何とかするから羽曳野は俺を上にやったら即離脱、タンク組と代表に念話でさっきの所感を報告。その後は彼方のアシストに回れ。こっちは俺が沈める。」
「わかったけど…本当に峯吉さん一人で大丈夫なの?それに着地も何とかするって…」
「大丈夫大丈夫、心配しなさんな。お前はお前の心配だけしとけ。」
「…うん。じゃあいくよっ!!<アックスストレート>!!!」
「よろし……ぬう゛おおおおおおおあああぁぁぁっっっ!!??」
な、なかなかキッツいがっ…!!上段の構えを崩すなよ俺っ…!!!加速が終わり自由落下になった瞬間、俺は足を天に向けるように身体を反転させる。いい感じに斬ってくれと言わんばかりの切れ目が視界に移る。
「…殺刀三式『払』!!!!」
技能ではなく自分自身に刻み込まれた『型』を放つ。どういう訳か俺は技能を使用する為のMPのステータスが無いらしく、代わりに身体能力の上昇と自分が修めていた『八千代流刀術』が異獣…もといモンスターに効く様にチューニングされてたらしいのだ。…別にそれがデメリットかって言われると、まぁそこまで大差なかったといった感じだ。最初だけは上がりすぎた身体能力に振り回されただけで慣れたらいつも自分がやっていたことと何ら変わりなかった。
だから…こんな状況でもさして問題ではない。空中にいようとも、天地が反転していても…自分に染み付ききっている動作をなぞるように…斬る。
切り傷をつけた感触ではなく確かに切断しきった感触。五体投地で何とか着地した後、上を見上げる前に…目の前に翅の一部がドサッと落ちてきた。
「うん…まぁまぁだな。」
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