17:特殊個体と違法登録者
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さて、どんな敵なんだろうか…。おっ、あれかな?確か…あれだ、『コボルトハンター』だ。それも『特殊個体』じゃん!
『特殊個体』とは、魔力を過剰に摂取した事で進化した固有の名前を持つ個体だ。主な違いとしては単純な力はともかく、プレイヤーと同じ思考とスキルを使う特性を持つ。倒す事でその名前とよく似た特別な常時発動のパッシブスキルを取得できる。ついでに経験値も美味い。
えーと、名前は…『大祭曲戯』ね。ゲームの時はエンカウントした事ある…な。その時は確か手も足も出ずにボコボコにされた気がする…。前情報やギミックもなんも分からんけど今なら倒せるでしょ。
早速『幻影』を発動。やって欲しいのはもちろんヘイト誘導で。命令を行い、別行動に移る。大した効果時間じゃないから迅速に行かないと!
…引っかかったっぽい。よしっ、やるか!
この前は黒織姫を使ったから今回は黒鉄剣使いますか。ズシッとした重量感が右手にきた瞬間、〈シャドウランナー〉と〈プライマルアーツ閃〉を起動。間合いを詰め特殊個体以外を一気に叩き斬る!
「〈剣舞・烈風〉!」
黒剣に風を纏わせ、一閃。敵を壁へと吹き飛ばし再起不能にする。が、落ち着く暇なく特殊個体のやつが『幻影』を倒しこちらへと向かってくる。チッ、予想よりかなり早いな!体勢を立て直さないと!
〈衝振脚〉で一瞬怯ませ〈インフィニットジャンパー〉を起動、某配管工兄弟お馴染みの壁キックの如く一気に壁を昇る。相変わらずピーキーなスキルだけど慣れればこんなもんよ!
「くそっ、嫌な間合いにいやがるな。」
ここから加速跳躍で近づいても地面に顔面ダイブしそうだしな…くそっ必要経費だ!
加速跳躍+『縮地』で間合いを詰める。どうせ顔面ダイブになるなら全力で加速して体当たりしてやるよ!!
「どりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
鈍い轟音が鳴り響き、互いにバウンドしながら地面にぶつかる。ってぇ…!受け身失敗した…!あっちはどうなった!?…まだピンピンしてるじゃねぇか!チッ肩なんか回しやがって…ならこっちももう一手切ってやるよ!
「『焃血支配術Lv.1』起動!!」
MPの代わりにHPが減り、空中に血を媒介にした剣が生まれる。これが焃血支配術の1つ目の力、『焃血剣』だ。切りつける事で敵にデバフを付与できる能力を持ち、自分の思考で操作する事ができる。タイマンでの戦闘なら擬似的に2対1を作り出すことが可能だ。
あちらも2本目の棍棒を取りだし、距離を詰めてくる。こちらも〈重刃・狂桜無尽〉を起動し、相手に向かっていく。スキルとアビリティのアドバンテージを最大限使ってこのまま削り切る!!
『焃血剣』がヘイト管理しつつ、僕はこっそり『気配遮断』を発動。デバフがどんどん蓄積されていき『大祭曲戯』の動きが鈍くなっていく。……今だっ!
「『堕落の剣』!」
片手持ちから両手持ちに替え、『焃血剣』と同時に叩き切る。さらに間髪入れずにスキルを起動!
「〈刻印撃・五芒星〉!」
星型の5連撃をお見舞いし、ヤクザキックで吹っ飛ばす。クリティカルの手応えは何回かあった…殺しきれたか?
「ギッ…ギギッ…!」
くっそ、まだ生きてやがる…!立ち上がった瞬間に黒剣を『大祭曲戯』に向かって投げつけ動きを阻害する。そして、黒織姫を取り出し走りながら居合の構えをとる。これで終わりにしてやるよ!!
間合いに入る瞬間に〈オールインフルスロットル〉を起動。緩急を生み出して隙作る!
コンマ数秒の緩急、あちらはモーションに入った瞬間に気づいたのか表情が歪むが、気にしない。刹那、鞘から引き出し、斬る。音速に近い速度で行う抜刀、数瞬遅れて風を切る音が静寂を破り、響く。
鞘へ納刀した瞬間、大祭曲戯が砕け散る。その音が聞こえた瞬間、足の力が抜けたのかそのまま座り込む。はぁ…精神使ったなぁ〜。すっごい疲れた……。
それにしてもなかなか厄介なヤツだったな…いやらしい動きばっかだったよほんと。pvpでもやってた感じだわ。ノーダメではあったけどスキル使った後のポジションとかリキャストタイムを合わせる事とかなんも考えてなかったからそこは要反省せねば…。
さて、リザルトとしては…レベルアップはしてなくて例の常時発動のスキルだけかな、収益としては。なになに…『多彩極技は自身の攻撃系のスキル対して威力補正がかかり続ける。』だと…!?
これが常時発動って大当たりにも程があるだろこのスキル!
具体的にどれくらい威力上がってるかまた検証したいけど…まずはみんなと合流しないとだな。えーと今の位置は…ちょっと離れたけど走ったら5分くらいかな。八千代先輩ももう着いてるだろうし、さっさと行きますか。
「こちら八千代…申し訳ありません、対象を見失いました。」
『…君ほどの実力を持った者が撒かれるとはな。で、どうだった?『天衣無縫』の様子は。』
「正直に言うのなら…あまりにも規格外ですね。我々公安の監視対象になりうる存在かと。」
『確か君は彼と知り合いだったな?君の知見に情は入っていないだろうね?』
「……もちろんです。八千代の名にかけてそのような事は一切ありません。彼が国家に仇なす存在になるなら自分がどんな手を使ってでも止めてみせます。」
『そうか…では引き続き監視の継続を。彼は『例の事件』の重要参考人でもあるからな。』
「えぇ、分かっています。」
ピッ…
「くそっ…なんで八千代なんかに生まれちまったんだよ俺はっ…!!」
「あっ!彼方こっちこっち!!」
「羽曳野さん、それに姐さんも…あれ、先輩は?」
「峯吉ちゃんならまだ来てないわよ?彼方ちゃんと一緒に来ると思ってたわ」
「座標連絡したんだけどなぁ…何処にいるんだろ?」
念話も通じないし…もしかして戦闘中なのか?とりあえず『幻影』で先輩を探させるか。
「いや、彼方ちゃん使わなくて大丈夫よ。ほら」
「あ!先輩!大丈夫でしたか!?」
「いやすまねぇ、道中でコボルト共とエンカウントしてな…」
「大分攻撃くらってるようね…ちょうどいいわ!アタシが回復してあげる♡『グローリアヒール』!!」
水色と黄緑色の粒子が僕らを一斉に包み込む。おおっ、HPと傷がみるみる回復していくぞ。さすが姐さん、最上位のヒーラーっていうのは伊達じゃないな。
少し休憩した後、異獣と頻繁にエンカウントできるという穴場、俗に言う『モンスターハウス』へと向かう事になった。確か15階層のモンスターハウスは…あぁ、あれだコボルトと前に僕が戦ったサイレントウルフの群れだ。現状広範囲を殲滅できるのは羽曳野さんのみ…僕もできるっちゃできるけど『剣舞・烈風』だけだしなぁ…
「…おい彼方、何悩んでるんだ?そろそろ行くぞ?」
「あぁ…すみません、今行きます。」
まぁ、そこは着いてから考えますかね。最悪挑まないっていう選択肢もあるし。
「「「「えぇ……」」」」
件のモンスターハウスに着くとそこには異獣1匹たりともおらず、すっからかんの空間だけが残されていた。もし僕らの前に人が出入りしてたならもうリポップしてもいいはずなのに…何があったんだ?ゲーム時代とリポップのルールが違うのか?いやでも…
「あるはずの魔力の痕跡がない…?」
「確かにそうね…もし仮に人がいたとしたら必ずあるはずの…魔力を使った形跡が。」
「ど、どういう事なの?ミケ姉?」
「ホルダーってスキルとか使うとなんか身体から抜けていく感じあるでしょ?あれが魔力。人から出た魔力ってある程度の期間大気中に浮遊してるの。それが一切見つからないのよ。アタシたち以外にこの階層に入場しているのは確か…4グループ程だったわ。そのどれもがここに辿り着いてここを攻略していたはずよ。なのに…」
「…そのグループの中に『違法登録者』の集団がいたって事か?」
「えぇ、十中八九ね。痕跡を消すなんて面倒なことやる輩は奴らしかいないわ。」
『違法登録者』とは、ギルドに名簿を登録していない非合法のホルダーのことを指す。ギルドが確認している人数はおおよそだが5万人程。その中にはXが2〜3人含まれているらしいとか。それもユーリィや雨音姉ちゃんに近しい実力を持っている噂もある。う〜む非常に関わりたくない人達だ…。
「で?どうする彼方。流石に撤退するか?」
「アタシも撤退に賛成ね。」
「ですね…今回は一旦帰りますか。それに帰りにコボルトがリポップしてるかもしれないからそっちで動き確認するのでも大丈夫でしょ。」
「だね〜。ウチもそれでいいかな〜。」
そんなこんなあって無事1階層まで戻ってこれた訳だけど…正直やっぱ不完全燃焼な感じだなぁ…。姐さんと羽曳野さんはギルド本部に用があるそうなのと、先輩はカーラさんにお呼ばれしているらいしので一旦別行動をとることに。う〜ん僕はどうしようか…ちょっと疲れてるけど別にまだまだ元気だし…もう1回塔に入ろうかな。鉱石とか欲しいし…
という訳で再び塔へ入場、今度は11階層へ行く事に。ここは鉱石や色々なアイテムが売られている市場の様な階層だ。序盤は大変お世話になるはずなのだが、ゲーム時代は全ての商品の金額がインフレを起こしており、寄ったところで何も買えないしドロップ品を売ったところで対した金額になる訳でもないクソ仕様だったせいで、ろくに使った事のない施設だった記憶が…
現実と交わった事でインフレは解消しているらしく妥当な値段だったり品質もかなり良くなっているっぽい。
……それにしてもNPCというか、塔の住民もこんなに事細かに再現されてるんだ、見た事ある人らばっかだ。あっ、あいつ僕をぼったくったヤツじゃん。まぁ今更そんなこと掘り返しても仕方ないんだけどね…。
そんな事考えながら目当てのショップに向けて歩き出した。あそこなら多分欲しいもの買えるかもしれないしね。
読んでくれてありがとうございます。