15:新天地へ
ファーケルグへ向かう当日、空港のビュッフェで呑気に昼飯を食べているとユリウスさんからメールが届いた。内容としては集合場所のターミナルの位置情報と集合時間だ。あと3時間後か…2人を迎えに行けるな、こんくらい時間あったら。
2人に集合場所をメールを飛ばし僕もそこへ向かう。そこまで遠くないし歩いて行こうかな。荷物を受付に預けて動き始める。
「あっ!彼方!!!」
「時間通りか、待ってたぜ。彼方。」
「どうもお待たせしました。八千代先輩、羽曳野さん。」
そう、僕が声をかけたのはこの2人だ。羽曳野さんは成長タイプのCランクで、Cの中でもずば抜けた実力を持ち瞬間的にならSランクに匹敵する火力を出す事ができる。アタッカーとしての立ち回りも申し分無く光るものがある。
八千代先輩は僕のバトルスタイルのお手本の様な人で動けるタンカーだ。それもAランク。元々剣道の名人でそちらで培った経験値がとてつもなくその引き出しから予測と対策を練るスタイルだ。
この2人が入ればある程度回るだろうしいいパーティだと思う。あと強いて言うなら後方支援できる人がいたら小隊ができるだろうしそこはユリウスさんと要相談かな。
「で?ファーケルグに何しに行くんだ?旅行って訳じゃ無さそうだが」
「えと…お2人の腕を見込んで改めてお願いします。階層攻略に参加して欲しいんです。旅費と報酬は僕から前金で2億出します。」
「そ、そんなにお金あるの彼方!?一体何者…?」
「あぁ…そういや言ってなかったっけ?僕、Xランクなんだよ。『天衣無縫』ってやつ。」
「「!?」」
お、見慣れた反応。
「お、お前があの『名無しの7位』!?」
「彼方前にCって言ってたよね!?一体どういう事なの!」
「それはですね…」
かくかくしかじか………
「なるほどな。まぁ目立つのが苦手な彼方からしたら公表はしたくないわな。」
「そんな事があったんだね…」
「まぁ…そんなに重く受け取らないでください。で、お2人ともこのお話受けてくれますか?正直、やりたくないなら断ってくれても構いません。…どうでしょう??」
出来れば断ってほしいかな…。危険な事に巻き込みたくない。でも、参加してくれるなら命を賭けて絶対に守り抜く。何が何でもね。
「…わかった。俺は行くぜ。折角後輩が頼ってくれたんだからな。断る理由はない。」
「ウチも手伝うよ!今度はちゃんと一緒に戦うから!!!」
「ありがとう…!2人は僕が必ず守るから。改めて…僕に力を貸してください。」
「そんなに重くなくていい。金もそんなにいらん。いつも通り軽く行こうぜ、カナ。」
「そうだよ!いつも通りでいいんだよ!彼方!!!」
本当にいい仲間を持ったなぁ…僕は幸せ者だ。ちゃんと期待に応える働きをしてみせる。絶対に…!
「来たか…彼方、俺様の力になってくれよ。……ほう、そこの2人もなかなかの実力者だな。いい人材を連れてきてくれたな。」
「はい、お力になれるように頑張りますよ。あとそれと…」
「ん?どうした。なにか頼みがあるのか?」
「えぇ、そちらの『クラン』から後方支援ができる方をおひとり、僕のチームにお借りしたいんです。行けそうですか?」
「それくらいなら構わん。腕利きの奴を紹介してやるよ。」
「ありがとうございます。」
頼んでみるもんだな…。好感度が高くてよかったよ。
「それと、俺様からもひとつ頼みたい事がある。」
「できる範囲でならなんでもやりますよ。で、どんな頼みなんですか?」
「俺様専用の武器を作ってくれないか。素材はこちらで準備してある。」
「それくらいなら任してくださいよ。とびきりの業物を作ってみせます。」
「ありがてぇ。それじゃ、早速向かうとするか。」
そしてユリウスさんのプライベートジェットに乗せられ、ファーケルグへと向かった。ハワイ周辺らしいので大体7時間くらいだとか。
「八千代先輩、羽曳野さん。これを」
「なんだ?小太刀…か?」
「ウチのは…ガントレットとブーツ?」
「はい、2人の武器と防具です。さっき作ってきました。」
「…さっき作ったにしては、出来が良すぎない?」
「あぁ、刀の焼き入れがしっかりとなされている。一体何時間かかったんだよ?」
「ほんの数時間程度ですよ。そこまでの業物でもないですし…」
「いやいやいや!彼方お前これオークションで買ったら多分700万はするぞ!?」
「ほんとよ!こんな高級品受け取れないよ!!」
Bくらいのランクで700万もするのか…。もしかすると、今の世界って…
「先輩、質問なんですけど…今鍛冶師ってこの世界に何人います?ランクも込みで、知ってる範囲で教えて下さい。」
「確か…大体100人程度だったはず。ランクは半数がC〜Fで、A〜Bがほんの数人だった。Sにはいなかった…うん、いない。最高でAが1番上だ。」
「そうよね、ウチもSの鍛冶師なんて聞いた事ない。市場とか売店で売られているのは、C〜Fの鍛冶師が作った魔力が通っていない物とか、通っていてもほんの微量しかない物が大多数を占めてる感じ。BとかAが作った物とかは基本的にオークションでしか売られてないからね〜。」
やはりか…道理で東海支部の鍛冶場が綺麗すぎた訳だ。鍛冶師の人口がホルダーの人数に対して見合ってないんだ。需要と供給のバランスが全然保たれてなくて粗悪品しか市場に出回ってないのか。なるほど、だからユリウスさんが僕を欲しがる訳ね。ようやく合点がいったよ。
「まぁ、武器は受け取ってください。僕からの気持ちですんで、しっかり使ってやってくださいね。」
「そこまで言われたら断れねぇな、ばっちり使いこなしてやるよ。」
「うん!ありがとう!!」
その後は八千代先輩と羽曳野さんの自己紹介であったりとか、ユリウスさんと階層攻略についての話し合いを行った。あちら側も第16階層の情報は把握済みだったので共有してくれるとか。…まぁ全部頭に入ってるけど。
第16階層のボス「イマジナリー・パピヨン」
・90秒間隔で広範囲攻撃を連発してくる。
・基本的に空中にいるので近接武器持ちの攻撃が届かないので遠距離持ちがメインの攻撃隊になる。
・HPが半分以下になると地上に降りてくるが発狂攻撃を連発。
・常にデバフ付きの鱗粉を撒き散らす。耐性薬を用意していないと詰み
絵面だけでも酷いなこれ…ギミックが序盤のボスのそれじゃないでしょ。まぁ…実直に攻略したら大した脅威じゃないしな。攻撃力が格段に高いって訳でもないし、デバフさえ警戒しとけばなんとかなるでしょ。
「ふわぁぁ……それじゃ今日はもう休ましてもらいますね」
「あぁ。……最後にひとついいか?」
「?いいですけど…」
「お前、『ユートピア・エンド』ってゲーム知ってるか?」
「まぁ…知識としては。…あれですよね?攻略難易度が半端じゃないクソゲー。確か、今の世界ってそのゲームがモデルになってるんでしたっけ?」
一応全クリ済というのは伏せておく。この世界で生きていくためのアドバンテージを投げ捨てる訳にはいかないしね。
「そうだ、俺様はゲーム時代に第25階層までは攻略できたんだがな。そこで諦めちまったんだ、ストレスに耐えれなくてゲーム機ごとぶっ壊しちまったからな。正直あともう1人一緒にやってくれる奴がいたら愚痴を話し合いながらコツコツできたかもな。」
「へ、へぇ〜…」
いやでもそれが妥当な感情だと思う…。僕だって何回泣いてキレた事か…。思い出したくもない思い出ばっかだよ。
「なぁ…彼方、改めて言うぜ。俺様のクラン『アシェンプテル』に入れ。お前の鍛冶師としての腕が俺様には必要だ。俺様の力だけじゃ半分も攻略できない。だがお前が共に歩んでくれるなら最後まで攻略できる気がするんだよ。勘だがな。」
「……僕の事をそこまで評価してくれるのは本当にとてもありがたいです。でも、もう少しだけ待ってください。まだ僕には『魔王』に並べるだけの実力はありませんから。その日が来たら、改めて僕から言いますよ。」
知り合ってまだ数日だけど、この人になら最後までついていってもいいって思ってる。面白そうなのもあるけど、ユリウスさんがそこまで評価してくれてるならその気持ちに応えたい気持ちもあるしね。
「…わかった。いくらでも待っててやるよ。」
「ありがとうございます。それでは、失礼します。ユリウスさん。」
「ユーリィでいい。丁寧語もいらん。」
「……わかったよ。ユ、ユーリィ…。」
「あぁ。」
読んでいただきありがとうございます。