12:図書館迎撃戦 その6
難産
…無理だろ。なんで『カタナ』がここにいんだよ…!?恐怖よりも困惑が勝って声が出ない、だってラスボスだぞ!?こんな急にエンカウントとかありえないだろ!?
現状の戦力で勝てるわけ無いし、逃げ切れる可能性もほぼゼロに近い…………せめて羽曳野さんだけは逃がさないと、勝てない戦いに挑んで無駄に命を散らして欲しくない。
正直僕の命を全部賭けてギリギリ…。でも…この子はこんなとこで死ぬべきじゃない。僕なんかの命で助けれるなら、賭ける理由には充分だ…!
「彼方…?」
「…逃げろ」
「え?」
「早く逃げろっ!!!!あんたじゃこいつに勝てないっ!!!邪魔なんだよっ!!!」
「な、何言ってんの!!!ウチと彼方ならさっきの戦法使ってあっという間に倒せるでしょ!?なんでそんな事言うの!!!」
「だから邪魔だって言ってんだろ!!!頼む…!!頼むから逃げてくれっ…!!理由は後で必ず話すから…!!!今は逃げてくれっ!!!!」
「っ…!!!わかった…。けど!!絶対、ぜ〜ったいに帰ってきなよ!!!その後でその言い訳とやらをじっっくりと聞いてあげるんだからっ!」
そのまま振り向かず、足音が消えるまで待ち『カタナ』の前に立つ。今僕が使えるもの全部使っても戦いになるかどうか…
でも、それでもほんの少しだけ僕にもアドバンテージはある。それは僕がこいつの行動パターンを全て網羅しきっている事だ。何千回とこいつに殺されてきた経験が今になって武器になるとは…初めて『ユートピア・エンド』をやっててよかったって思えたな…
「…ふぅ。よしっ、『出力増加Ⅲ』『身体強化Ⅲ』『反応速度上昇Ⅳ』『思考速度上昇Ⅳ』『集中力上昇Ⅳ』『気配遮断』〈ダブルアップギア〉〈プライマルアーツ〉〈スピリットルーティン〉」
体内の魔力が異常なほど躍動し、どこかの神経が魔力の流れに耐えきれずイカれたのか鼻血や目から血が溢れ出てきた。
だがそんな事気にしてられる余裕もなく一気に飛びかか________あ?
ぞぶんっ、と鈍い痛みと共にそんな音が聴こえた。
『カタナ』はいつの間にか僕の後ろにいて、口周りが少し赤黒くなっていた。口元には人の腕のようなものが。………あれは僕の……腕??
「ッッッッ!?!?!?」
痛い痛い痛い痛い痛いいたい痛い痛いイタイ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイ痛いイタイ痛いっっっっっっっ!!!!!!!!!!!
なんで?右腕がない?いつ?どうして?
声にならない絶叫をあげ、もがき苦しむ。意味がわからなかった。そこにあるはずのものが急になくなり、理解する暇もなく襲ってくる激痛。思考を加速させてしまっているので余計に痛みの波が収まらず終わらない地獄を味わっている。終わらせて欲しい、殺して欲しい、早くこの地獄から抜け出したい。
だが僕の本能が『死』を許さない。立て、と身体に命令する。彼女が逃げ切るまで命を投げ捨てるな、と。もう一度魔力が躍動し始める。後のことはもうどうでもいいから持てる手段を全部使ってヤツを殺せっっっ!!!!!
「がぅあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!!!」
ナイフを拾い上げ、走る。同時に〈波長視〉を起動。攻撃のモーションだけは絶対に見逃すなっっっ!!!!
避ける、避ける、避ける、避ける。
邪魔な思考は捨て、今は避けつつ近づくことしか考えない。次第に頭がクリアになっていくが、それに伴い『カタナ』の攻撃が速く、鋭くなっていく。余計なかすり傷は無視する。そして〈月兎飛び〉を起動し、一気に懐へと潜り込む。ヤツに効く一撃をぶち込むには今のスキルじゃ圧倒的に役不足でしかない。だから…
「〈リベンジ・アサシネイト〉!!!!」
HPが低い程火力とヒット量が大幅に上がる上級のスキル。強制取得ししたと同時に右側の視界が消失…気にしない。吐血…気にしない。前回とは比べ物にならないほどの頭痛…気にしない。
「死ぃね゛ぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
刃を再装填し、2回目の跳躍。身体を回転させ足に刃を突き刺し、そこから更に『縮地』で背中へ向け跳躍。このまま更に切り伏せるっ!!
こいつの弱点として上げられるものとして、極端な視野の狭さと触覚の鈍さがある。なのでコイツの視覚外と背に回り込むことが出来れば常にダメージを与え続けられる。それに僕が背中に乗ったのはダメージを与えるためじゃない。本命は……『カタナ』の視界を奪うのと牙をへし折る事だ。
『カタナ』の牙は『ユートピア・エンド』内に存在する最高級の鉱石『白雪の麗鉄』に匹敵するスペックを持っている。上級鍛造術を上手く使えば「黒織姫」に使える刃にできるかもしれない。
______走り出す。僕を探しているのか首を左右に振っているが問題は無い。そして頭に辿り着き、もう一度強制取得を行う。今でも痛みで発狂しそうだが、次の強制取得で恐らく僕の意識は吹っ飛ぶかもしれない。それでもっ…!
「〈刻印断・北斗〉!!!!!」
名前の如く、北斗七星を象った神速の14連撃が『カタナ』の両目を斬り裂き、視力を奪う。聞くに耐えない汚い絶叫が図書館に響き、『カタナ』が暴れ狂う。だがその隙を逃しはしない!!!
再度〈月兎飛び〉を起動し、『カタナ』の正面へ回り込む。今にも途切れそうな意識を死ぬ気で留めてもう一度…!!!!
「〈バーサークペネトレイト〉!!!」
バキンッ、と左腕から鈍い音がしたと同時に『カタナ』の牙が折れた。
発動した瞬間に意識が数十秒無くなったのか、目を開けると互いに地面に突っ伏していた。
早く…立たないとっ…でも、身体が…言う事を…聞か…ない…!!立てっ…!早くアイツを殺しきらないと…!!!動けっ………!!!!!!
「『性能臨界Ⅲ』!!!!!!」
残りの魔力を全て使い、なんとか立ち上がる。この30秒でどこまでできるか…やってやる。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ!!!!!!」
歯で刃を取り出し装填、『カタナ』に向かって走る。あちらも立ち上がろうとしているが、最初の〈リベンジ・アサシネイト〉が今になって効いてきたのか足が動いておらず、未だに動けていない。一気に近づき何度も斬る。斬って、斬って、斬って、斬って………
途中から意識も時間の概念もなくなり自分が何をしているのかが分からなくなっていった。 ただ朧気に腕が動いている感覚しかなく、次に意識が戻ると、左足と横っ腹が無くなっていた。
もう痛みを感じる事すらなく、自分の命が風前の灯だと言う事を理解できた。自分の僅かな呼吸音しか聞こえず、身体も1ミリも動かす事が出来ない。
ようやく…死ねる、のかなぁ…。羽曳野さんは、逃げれたかな…。せっかく…先輩にも、会えたのに…また悲しませちゃうなぁ…。最後に…お父さんお母さんにもう一度…会いたかった…。あぁ…でも、やっぱ死にたくないなぁ…!
「ごめんなさい………ごめんなさい…」
駄目だ…も…う意、識が……
「よう。いつかの子じゃないか。」
…?
「あら〜結っ構死にかけてるじゃないか。おーいこっち生存者いるぞ〜!!」
「あ…」
「でも、今動かしたら間違いなく死ぬな…。しゃーねぇな、久々にやりますか!!!」
だれ、だ…?わかん、ない…?
「告げる。其は奇跡の代行者。消えゆく焔を繋ぐ担い手。生命の起源を与えられし我が主よ、奇跡をここに。掲げられし十字架を否定せよ。命を肯定せよ。進み続ける因果を我が正しく。故に、『奇跡・修復の息吹』」
黄金色の奔流が彼方を包み込み、癒す。まるで時間を巻き戻しているかのように。
「ふぅ〜疲れた!!!回復の奇跡なんで何年ぶりだろうな。……ん??」
ガロロロロロロロ……ガルゥアアアアアアア!!!!!!!!
「うわっ!?こんにゃろう、まだ生きてんのか!?また暴れられても困るからな、さっさと俺が終わらせやるよ!!!」
「其は祝福を否定し、罪を肯定する!〈反転・聖十字の雨〉!!!」
数億の十字架を模した剣が『カタナ』に突き刺さり、数分もしないうちにその巨体は崩れ落ち赤黒いポリゴンとなって砕け散った。
「……手応えがなかった。アイツがほぼ削りきってたのか。」
「月夜会長。負傷者全員、搬送完了しました。」
「おう、お疲れさん。後処理終わったら現地解散でもいいぞ。」
「かしこまりました。それでは」
「さて、俺も帰りますか……ん?電話か。」
『もしもし??どうしたんだよいきなり』
『病院!!!!教えて!!!!!!』
『うおっ…!?なんだいきなり!?』
『いいからっっっっ!!!!!!!!』
『わかった、わかったから!!ギルドの本部だよ!すぐ近くの!!』
ブツっ…ツーツー……
「ったく……しかし、『白銀姫』があそこまで感情的になるとはな。アイツ一体何者なんだろうか…?」
読んでいただきありがとうございます。
戦いのシーンが短いかもしれませんが一応カタナ戦は終了です。申し訳ないです。