第5話
遡ること二週間前、もう夏休みも近づくころ。文芸部員三人━━━━清水、川崎、伊藤はいつも通り思い思いの場所で読書にふけっていた。
その時、コンコンとノックとともにガラリと入ってきたのは体にガッシリとした男子生徒と、丸メガネの女子生徒。
「あら、どちら様で?」
と聞く川崎先輩。
「こちら生徒会庶務の岩本と酒田です。」
丸メガネの女子生徒のこと岩本は続けて、
「第93期生徒会におきまして、毎月提出いただいている部活動報告書をもとに部活監査を執り行わせていただきました。その結果、活動不十分と判断されました。このままでは文芸部は廃部もしくは同好会の格下げを免れかねません。」
横の男子生徒が顔をしかめ、煩わしげにこう言う。
「要するに、ちゃんと部活動すれば部は健在ってこと。ちゃんと活動しろよっていう忠告みたいなものだ。それじゃあ」
岩本と酒田はそう言って帰っていった。
「ってな話があったんだよ。なんかいい案ある?」
休み時間、清水は友人の正宗に聞く。
「案って」
本を読みながら答える正宗はつまらなさそうに聞く。
「おい、今の話聞いとったんか。だから、なんか良さげな部活動ある?」
「それならアルぞ、フフン」
上から降ってきた声の主は、見上げるような高身長に分厚い胸板の大男。この男、野球部部長の藤村だ。
「おう、藤村か なにかあるのか?」
巨躯の男のこと藤村はニヤリと笑い、
「アルぞ、だがなあ、うん」
「何だよもったいぶって。」
清水は苛立ちを隠せない。
「今、文芸部の部費、どんくらいアルのだ?」
「かなりあるぜ」
と清水。
「合宿でもいっとけば十分なんだがナァ。ちなみに野球部はこの夏休みに天龍で合宿ヤルぞ」
「ほんじゃ俺等もそうするか」
そして今に至る。夏休みが始まって3日目。清水・川崎・伊藤の三人は天竜の広大な山々が目の前に広がる、『自然の家』にきていた。ここは人口減少に伴い廃校となった校舎を利用し作られた施設である。
三人は、目の前に広がる樹海の中に、ポッカリと空いた穴のように横たわっている都田湖を目の前にして、自然の大気を体いっぱいに吸い込んだ。
やっぱり自然は最高です。空気は美味しいし、風はひんやりとしていてとっても気持ちいいです。さて、今日から2泊3日、私たちはここで文芸部の合宿を行います。
基本的に部屋に閉じこもり長編なら1作品、短編なら3作品を目標に執筆。書き上げた小説は、小説家サイトに投稿するそうです。
でもその前に、映画です!
清水先輩が、登山バッグから取り出したのは、数枚のDVDと大型DVDプレイヤー、それにジュースを3本。
「清水、今日の映画は何見るの?」
と川崎先輩。
「一応複数枚持ってきているぞ。まあ、予定では今日は2本ぐらい見ようかな、って感じだ。まだ丸々2日残ってるしな。ところで伊藤ちゃん、何かみたいのこの中にある?」
そう言って清水はポンポンと10枚ほど並べて見せる。
わぁ、全部戦争モノじゃありませんか。でもよく見ると全部どこかで聞いたことのあるものばかりです。きっと名作なのでしょう。そう言えばお父さんが戦争モノ、好きでしたっけ。
「そうですね。私これが良いです。」
杏奈が手に取ったのは、『Tears Homeland』。
これです。お父さんが大好きなやつです。私も横で一緒に見ました。
二次大戦末期の東部前線。前線がずっとソ連側に押しこまれていた東部前線で、ソ連軍がついに開戦時のドイツとの国境線まで前線を押し込んだところから始まり、最後はベルリン陥落で終わる映画です。
主人公を含む全ドイツ兵は、最後、必死の防戦を試みるも、ベルリンの国会議事堂に赤旗が揚がるのを涙をのんで目の当たりにするのです。
最後がとってもアツくて、悲しくて、大泣きしました。
清水先輩は、私から『Tears Homeland』のカバーを受け取ると、ニヤッと笑い、
「伊藤ちゃん、話分かる人じゃん。」
カバーからディスクを取り出し、プレイヤーの中に入れると、机の上に置き、角度を調節する。
「うん、これでよし」
映画の冒頭特有の鮮やかな朝日の景色が、映し出されフッと画面が暗くなった、その時、まばゆいばかりのひかりが画面から踊りだし、3人をとりまく。
皆、眩しすぎて腕で目を覆いながら、立ち上がり離れようとした。が、凄まじい力で画面に引きつけられると、綱で引かれた子羊のようにそのまま3人とも吸い込まれてしまった。
「えええ~っ、何なのよこれ!」
そう、そこは別世界だった。