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第一話

とある貴族の屋敷にて――

「アリシア、なあ……俺、そういう柄じゃないんだけど……」

見た目と噛み合わない口調の少女が、鏡の前で悶々と悩んでいた。

鏡に映る少女の目は海のような深い青。腰の辺りまで伸びた髪は銀糸のようで、光をキラキラと反射している。角はなく、牙もない。耳は丸く、肌は白い、人間の少女。

「どうしたの?勇者ちゃん」

少女の肩には、小さい女性が座っていた。女性の背中からは薄く透ける青い羽が生え、時折少女の肩をはなれ、顔の周りを飛んでいた。

「ちゃんって呼ぶのやめろよ、キーちゃん」

キーちゃんと呼ばれた女性が少女の頬をつつく。

「ええ~。でも、勇者ちゃん可愛いもん」

「可愛いとか言わないで欲しいなあ……俺さ、多分キーちゃんより年上よ?」

「それは魂の話でしょう?肉体的には、貴方の方がずうっと子供よ?」

「だからだよ……自分より若い子にちゃん付けで呼ばれるのって結構恥ずかしいんだよ……」

少し顔赤くし、机に突っ伏したアリシアの頭の上にキーが立つ。

「じゃあせめて口調だけでも変えてみたら?貴方、いくら前世が男だからといっても、今は女の子なのよ?」

「前世も女なんだが……」

「あら、そうだったわね。忘れてたわ」

けろりと言うキーに、アリシアは溜息をついた。

「……キーちゃん……ほんと、そういうとこ……」



今世の俺の名前はアリシア。俺には、いわゆる前世の記憶というものある。思い出したのはほんの数年前。俺は、その時の魔族の頂点――『三代目魔王』として君臨し、人間界との平和を図り、そしてこの世を去った、『魔王アルテミシア』だった。ちなみに、前世の俺は黒髪に赤目、黒い角と鋭い牙を持つ、龍族の魔物で、それなりにイケメンだ(重要)。書物にはただの黒龍としてしか描かれていないが、龍の血自体はかなり薄かったから、人間形態を取ることの方が多かった。


そんな俺だが、奇怪なことに、今世は人間として産まれた。かつての俺自身については、家にあった歴史書を漁ってもわずかに記載があった程度だが、間違いなくここは俺がかつて生きたのと同じ世界であるという確信は得られた。


なぜか。それは、俺自身が『勇者』となったからである。


勇者は人間界に必ず存在し、その証は体のどこかに浮かぶ炎の文様。俺は首にあり、消そうとしても消えない。前、間違えて深く削り過ぎて死にかけた。人間はやはり脆い。

勇者は通常の人間より生命力が強く、ちょっとやそっとじゃ死ぬことはないが、それでも脆いものは脆い。龍族なら、首の一つや二つ、簡単に再生できたというのに。


『付き人』のキルリアは、妖精族だ。本人は年下扱いされるのを嫌うが、年下は年下。扱いは変えられない。『勇者』には必ず『付き人』がつく。『付き人』は人間だったり、妖精だったり、動物だったり、精霊だったり様々だが、皆一般人とは比べものにならない知識と、不思議な力を持つ。また、守秘の誓いが課せられており、勇者個人のことを他の人間に話しすぎると、自爆して死ぬ……らしい。俺は知らないが。


「なあ、キーちゃん」

「なあに?勇者ちゃん」

「……もう、いっか」

諦めた。


「ところで今の勇者って何するんだ?」

昔は、少し上等な兵士程度の扱いだったが、今はどうなのだろうか。

「う~ん、主に戦争に行ったり、国政に関わったり……ああ、あと魔界に視察に行ったりかしらね。一般人は魔素が濃すぎると死んでしまうから」

「ふ~ん」

魔界に行けるというのなら好都合だ。今の俺は、前世の記憶にいくつか空白がある。前後のことを考えるに、おそらく魔界でのことだろう。いくらか、思い出せるようになるかもしれない。

「どうせだし、今の魔王の顔でも拝みに行ってやるか。なあ、今の魔王って何代目だ?」

『えーと、勇者ちゃんは、3代目だっけ?』

「ああ。まあ、どうせ百年も務めてはいなかったがな……」

『今の魔王は4代目よ』

「へ?」

まさか、俺が死んでから生まれ変わるまで百年程度しか経っていないのか?いや、そんなことはあり得ない。今の文明から見るに、軽く千年は経っているはずだ。西暦でも、それは確認できている。

「キーちゃん、それって『4代目』って名前だけであって実際にずっと4代目、俺の次が担ってるって訳じゃないよな?」

『いえ、言葉の通りよ。そのまま。勇者ちゃん――3代目魔王が死んでから1562年間、魔王はずっと一人』

「うそだろ……」

いくら魔族といってもそこまで寿命が長い訳がない。俺が死ぬ前に魔王の座を託した者がどんな者だったかは覚えていないが、少なくとも吸血種などではないはずだ。あいつらは寿命だけで言えば不死身に近いが、その他においてあまりにも弱い。日光で死に、銀の武器で死に、十字架っぽい形状のものをぶつけられただけで死に、暇になりすぎても死ぬ。今ではもう絶滅したかも知れない。

「まさか、賢者の石の開発にでも成功したって言うのか?」

賢者の石――それは人類最大の悲願にして永久に不可能とされた代物。土塊をも金に変え、喰った者には永久の命を与うるとされる、神秘の石。

「ちょうどいい。魔界、行けるなら行ってみるか」

思い立ったが吉日。勇者全員に無料配布される亜空間化された鞄に少しの魔道具を詰め込み、大剣を一振り腰に差して家の扉を開いた。『アリシア』は親と兄弟に、「不吉だから、塔から出てこないで!もしくは死んで!」と言われたから置き手紙も書く必要がないだろう。なんて便利な家庭なのだろう。


「えっ!ちょっと!」

キーちゃんが急いで付いてくる。俺もそこまで鬼ではないので(魔族ではあるが)、少し立ち止まって待ってあげる。

「じゃあ行こうか、魔界へ」

「ちょっと!もう少しちゃんと準備した方がいいんじゃない?」

キーちゃんは心配性だな、と小言を聞き流しながら俺の――()魔王アルテミシアにして、()勇者アリシアの冒険は始まったのであった。


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