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修学旅行にやってきた!

 翌週、修学旅行でマンデル共和国にやってきた私たち。マンデル共和国は外貨獲得のために観光産業に力を入れており、旅行者はいろんな観光施設を巡ることができる。


 私たちは歴史的建造物を見学している。マンデル共和国の言語はヘイズ王国と同じだから通訳は必要ない。学生は自由に見て回ることができる。

 マンデル共和国の国教はヘイズ王国と同じだ。ただ、信仰対象が微妙に異なっている。

 多神教だから同じ宗教の中に複数の神がいる。ヘイズ王国では男性神を信仰していて、マンデル共和国では女性神を信仰している。


 そんなことはともかく、私はすごく機嫌がいい。だって、ロベールと一緒に観光地を回れるから。

 ロベールと私は違うクラスだから本当は別々に回らないといけない。でも、教諭に「詐欺集団の捜査があるから」と説明したら、すんなりと同行を許可してくれた。

 どうやら、教諭陣は私の持っていた警察手帳に怯んだらしい。念のために持ってきて良かった。


 私とロベールが女性神が祀られている宗教建築物を歩いていたら、前からやってきた老婆が私の前に跪いて祈り始めた。他にも数名、私の前で祈っている。


 ――なに? どうしたの?


 意味が分からない私は老婆に「どうしたのですか?」と尋ねた。


 老婆は私の顔を見て「マリア様、私共を祝福下さい!」と祈っている。


「マリア様って、この国の女神様だよ」とロベールが教えてくれた。


 パンフレットには私にそっくりなマリア像が掲載されていた。どうやら、老婆は私を女神マリアだと思っているようだ。

 気まずいので「私はマリア様ではありませんから」と言いながらその場を離れた。


 人ごみを抜けて逃げるように歩いていたら、女性の声が聞こえてきた。


「スリよーー! 誰か、捕まえてーーー!」


 観光地あるあるだ。

 有名な観光地では観光客をターゲットにしたスリ、置き引きが多い。

 休暇で気が緩んでいる者、観光に熱中しすぎる者など、ここにはスリが狙いやすい人たちで溢れている。


 私が声のする方向を見ていたら少年が観光客の間をぬって走ってくる。


「ロベール」と私が言ったら、「分かったよ……」と返事するロベール。


 スリの少年が私たちの近くを通った瞬間……私は足を横に出した。

 スリは転ばないように私の足を飛び越えたのだが、ジャンプするタイミングを狙ったロベールが手を伸ばしてスリを捕まえた。


「ナイスキャッチ!」と私が褒めたらロベールは嬉しそうだ。


 ロベールから逃げようとジタバタするスリの少年。私は子供から盗んだ財布を取り上げて、女性の方へ「捕まえたわよーー」と叫んだ。


 しばらくしたら財布を盗まれた女性がやってきた。うちの制服を着ているからヘイズ王立魔法学園の生徒だ。

 修学旅行で浮かれていたのだろう。生徒会長としてちょっと恥ずかしい……


「マーガレット様! マーガレット様が捕まえてくれたのですか?」

「そうよ。それにしても、観光地だからって浮かれすぎじゃないかしら?」

「すいません」

「気を付けるのよ!」

「ありがとうございます!」


 女子生徒はクラスの方へ走っていった。


「うちの生徒に被害が出なくて良かったじゃない」とロベールは言うのだが、このスリの少年をどうしたものか……。警察官は近くにいないけど、このまま逃がすわけにはいかない。


 ふと横を見たらエレーヌと目が合った。制服を着ているから、学園の生徒の中に溶け込んでいる。


「この子、どうしたらいい?」

「そうですねー。いいこと考えました」


 エレーヌはニヤニヤしているから……良いことではない。

 エレーヌはスリの少年に話しかけた。


「私は警察官だ。聞かれたことに正直に答えろ。いいな?」

「警察官? 学生服着てるよね?」


 エレーヌは警察手帳を少年にチラッと見せる。少年は「チッ」と舌打ちした。


「潜入捜査中だからこの服装をしている。これ以上は説明しない」

「分かったよ」

「お前の名前は?」

「……」

「黙ってたら分からないだろーー!」


 エレーヌが少年を殴ろうと手を振り上げた。他にやり方はないのだろうか?


「ルッツ」と少年は小さく言った。

「歳は?」

「10歳」

「お前の仲間は近くにいるか?」

「僕が捕まったから逃げたと思うよ。逮捕されるのやだもん」


 エレーヌはニヤッと笑った。何か善からぬことをしようとしている。


「実はあの男も警察官だ」

 エレーヌはロベールを指さした。


「警察官……なの?」

「そうだ。お前、さっきあの男を殴ったよな?」

「僕……殴ってないよ」

「いーや。私はお前が殴るのを見た。公務執行妨害だな。窃盗罪に公務執行妨害かー」

「公務執行妨害……」

「お前は2年くらい刑務所から出てこれないなー。かわいそうだなー」

「ちょっと……スリで2年って……」

「だーかーらー、お前は警察官を殴っただろ! 2年ぶち込まれて当然だ!」

「……」


 ルッツは黙ってしまった。エレーヌはまたニヤニヤしながら言う。


「ただ、お前が協力するんだったら、見逃してやってもいいぞ」

「本当?」

「ああ、本当だ」

「協力する」


「協力する? 口のきき方には気を付けた方がいいな」

「協力させてください!」

「そうか。じゃあ、ある建物に潜入して、中で何が行われているかを私に報告しろ。そこに出入りしている奴らもだ」


 ルッツは考えている。きっと危険な仕事をさせられようとしている、と自衛本能が働いているのだ。


「危なくないの?」

「危ないかもしれないなー。やめるか?」

「うーん」

「嫌ならやめてもいい。でも、私の依頼を断ったら懲役2年だ」

「そう……だよね」

「どうするんだ? 私はどっちでもいいぞ。お前が選べ!」


 ルッツは考えた末に「……うん」と呟いた。


「なんて言った?」

「やり……ます」

「聞こえねー!」

「やります!」

「よーし! いい子だ!」


 エレーヌはルッツの頭を撫でながら子供に地図を見せている。捜査対象の場所と捜査方法を指示しているようだ。


 軽い罪を犯した子供を脅して捜査に利用するエレーヌ。汚いやり方だ。


 とはいえ、地元の子供を使って調べるのは悪い案ではないかもしれない。

 今回はフィリップが同行していないから、敵の情報を探るための人員は必要だ。


 貴族夫人・令嬢に送られてくる写真はフィリップの昔の写真だ。被害者を説得するためには、フィリップ本人が出向いて詐欺集団の犯行の内容を説明する必要があるのだ。

 だから、フィリップは今、ヘイズ王国内の銀行から怪しい外国送金の連絡がある度に、警察と一緒に被害者の元へ駆けつけている。


 フィリップを見た被害者たちは涙ながらに「ジョー、生きていて良かったわ」とか「スミス、私の元へ来てくれたのね」とか「ポール、愛してるわ」とか言いながらフィリップに抱き着く。フィリップの手を握り、フィリップに抱擁し、フィリップにキスして……セクハラのような事態が発生している。


 これは重要な任務だ。でも、フィリップに身体的、精神的な負担を強いていることは否定できないのだが……


 それにしても、ルッツをただ働きさせるのは可哀想な気がする。だから、「調べてきたらご褒美あげるよ」と伝えた。


 ルッツは喜んでいるが、エレーヌは「そんなことしなくていいですよ」と不満そうだ。


「私が褒美をあげると言ったら、あげるの!」

 そう突っぱねた。


 これでも私は公爵令嬢。国民は搾取するものではなく、守るものだ。


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