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お嬢様のサイズでは窮屈なんです

 私たちがヘイズ王立警察に到着すると、署長のジャン・ロッシが待っていた。アンが詐欺に遭いそうだったことを、フィリップに事前に連絡させていたからだ。


「マーガレット様、またしても警察の捜査が行き届かず、ヘイズ王立魔法学園にまで被害者が出たとのこと……」


 ジャンは私を見るなり謝罪した。警察の不手際を私から父に伝わると困るのだ。


「未遂ですから、特に大丈夫ですよ」

「そういっていただけると……大変ありがたく……」

「それよりも、ヘイズ王立魔法学園にはヘイズ王国の貴族子女がたくさん通っていますから、詐欺集団からの手紙を受取っている生徒がいると思います。その点は今、生徒会から全校生徒に通知を出して調べています」

「そうですか、ありがとうございます」


 私は本題を切り出す。


「父にマンデル共和国の警察に捜査協力を要請することは伝えておいたわ。今日にも手配してくれているはずだから、マンデル共和国での捜査は問題ないと思う。ただ、大々的に捜査するのは避けた方がいいわね」

「ありがとうございます。さすが、マーガレット様です!」


「それで、一つお願いがあるのだけど」

「何なりと! 何でしょうか?」

「来週、修学旅行でマンデル共和国に行くのだけれど、詐欺師が手紙に書いていた住所がホテルのすぐ近くなの」

「そうですか」

「正式な捜査ではなく、差出人の住所を調べに行こうかと思うの。誰か警察官を同行させてもらえないかしら?」

「もちろん、大丈夫です。それで、修学旅行に紛れ込むとしたら、生徒か教師に変装する必要がありますね。どのような警察官がよろしいですか?」

「そうね……生徒に変装しても違和感のない警察官をお願いしようかしら」

「それであれば……」


 ジャンは一人の女性警察官を連れてきた。年も若く、美人だ。スタイルもいい。きっと、ヘイズ王立魔法学園の制服も似合いそうだ。


 ――でも、誰かに似てるんだよな……


 そう思いながらミシェルを見たら、凄い形相でその女性を睨んでいる。


「おねえ……」

「あら、ミシェル。久しぶりね」

「久しぶりじゃねーよ。この前貸したニット返せよ!」

「あー、ごめんごめん。今度持っていく」

「今度っていつだよ?」

「今度は今度よ」

「ははーん、いつもの返す返す詐欺だろ。警察は詐欺師を逮捕してくれないのか? おまわりさーん、ここに返す返す詐欺師がいますよー」

「呼びましたか? おまわりさんでーーす!」

「お前以外のおまわりさん呼べ!」


 相変わらず口の悪いミシェル。警察でも暴言を吐く。しかも、相手は警察官。


 あたふたするジャンは二人に尋ねる。


「二人はお知り合いでしたか?」

「姉です!」

「妹です!」

「仲の良さそうな姉妹で……」


 ジャンは平気で嘘を吐く。ジャンは二人の雰囲気に気圧されて言葉を発しない。

 しかたなく、私は代わりに説明することにした。


「はじめまして。私はマーガレット。こっちはロベール。えーっと、あなたはミシェルの姉の?」

「エレーヌです。お嬢様、はじめまして。ミシェルがお世話になっております」

「こちらこそ。それで、エレーヌはマンデル共和国から届いている詐欺集団からの手紙のことは知っているかしら?」

「もちろんです。私も捜査員の一人ですから」

「それは良かった。来週、私たちはヘイズ王立魔法学園の修学旅行でマンデル共和国に行くの。宿泊するホテルが手紙の差出人の住所のすぐ近くだから、何か調べられないかと思ってて」

「プライベートを装って潜入するわけですね。それで、私は何を?」

「学園の生徒に変装してもらって、私たちと一緒に調査をしてほしいのよ」

「あー、そういうことですか。旅費や宿泊費は出るんですよね?」

「もちろん出すわ。制服は私のを貸そうかしら……」


 エレーヌは私のことをジロジロと見ている。


「失礼ですが……お嬢様のサイズでは窮屈だと思います」

「えぇ? 身長は同じくらいじゃない」

「いえ、そこではなく……お嬢様のサイズでは私には窮屈なんです」

「サイズ?」

「だから……貧乳……いえ、胸がキツイ……かと」


 ――貧乳……


 たしかに、エレーヌは私よりも立派な双丘をお持ちだ。

 ミシェルが横で笑っている。「パット入れますか?」というジェスチャーをしながら。


 ――あいつら、私をバカにしてやがるな……


 私の体から炎が立ち昇っていく。


「デイジー、どうしたの?」異変に気付いたロベールが私に尋ねた。


「どうもしないわよ」

「だって、炎が出てるよ。何かあったの?」


 ロベールは炎が燃え広がらないように、空気中に水分を送り込んでいる。しかし、その水も一瞬にして水蒸気となり簡易サウナが誕生する。


 部屋中が熱気と湿気に包まれていく……


「おねえ、早くお嬢様に謝って!」

 ミシェルは姉に小声で囁く。


「えぇっ、何を?」

 意味が分からないエレーヌはミシェルに尋ねる。


「貧乳!」

「貧乳?」

「これ以上お嬢様がイライラしたら、きっと私たち…」

「丸焼けになるな。噂通りの……脳筋だな」


 エレーヌは笑顔で私に話しかけた。


「お嬢様、誤解されているようですが……」

「へぇ、誤解? 何が?」

「私は『お嬢様の胸は美乳だと』申し上げました。私やミシェルのような品の無い乳ではなく、お嬢様のは品の良い美乳です」

「品の良い美乳……」

「そうです、美乳です!」


 ――美乳、美乳、貧乳……似てなくもないか


 徐々に私の怒りが収まり、部屋の熱気が下がっていく。

 貧乳問題を解決したエレーヌは制服の確保に動く。


「ミシェル、あなたの制服貸しなさいよ!」

「やだよー。どうせ、コスプレしたいだけだろ」

「ちょっとくらい遊んでもいいでしょ?」

「えぇー? コスプレして彼氏と……ああ、汚らわしい。私の制服がけがれる!」

「なんて言い方を……そんなことしないわよ……多分」

「多分ってなんだよ? 多分って。そんなことする奴に制服を貸せねーよ」

「貸してよー」

「やだ! お嬢様の制服を直して着ろよ!」


 修学旅行に同行することになった警察官エレーヌ。ただ、制服が用意できそうにない。


 しかたなくジャンが「経費で制服作っていいから、それを着て修学旅行に参加しなさい」と提案して落ち着いた。


 さて、来週は修学旅行。


 詐欺集団の捜査はあるけど、楽しみだな!


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