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ラッキーアイテムは黒猫です

 屋敷に戻った私は、国際ロマンス詐欺の捜査をマンデル共和国で行うため、父に相談することにした。私が外出している父の帰りを待っていたら、ミシェルが嬉しそうにやってきた。


「お嬢様、今月の占い見ました?」


 ミシェルの手には雑誌が握られている。ミシェルは占いが大好きだ。


「見てないわよ。それにしても、ミシェルは占いが好きねー」

「年頃の女の子はみんな読んでますよ」

「へー」

「私の恋愛運はモテ期到来。ラッキーアイテムはブルーの耳飾りです」

「だから、その耳飾りなの?」

「そうですよ。お嬢様は……恋愛運は普通。ラッキーアイテムは黒猫ですって」

「黒猫? 猫ってアイテムなの?」

「知りませんよー。でも、お嬢様は黒猫がいれば運勢が上がるそうですよ」

「黒猫ね……」


 ラッキーアイテムの黒猫に困惑する私。黒猫なんて……どうすればいいのか。ぬいぐるみでもいいのだろうか?


 黒猫に悩む私をよそに、占いの話に飽きたミシェルは話題を別に移した。


「そういえば、修学旅行に持っていく水着、どっちがいいと思います?」


 ワンピースタイプとビキニを交互に翳しながら私の前に立っている。


 ミシェルの双丘は私のよりも大きい。私に意見を聞きながらも、胸を強調できるビキニに決めているに違いない。きっと私は着れないだろう……ビキニを。


 ワンピースを勧めたら、私がミシェルの双丘に嫉妬していると思うかもしれない。

 でも、ビキニを勧めたら、私がミシェルに敗北したと思うかもしれない。


 ――ぐぬぬぅぅぅ………


 行くも地獄、帰るも地獄。いや、ワンピースも地獄、ビキニでも地獄だな。


「ミシェルはどっちがお気に入りなの?」

「どっちもですよ! どっちもお気に入りだから選べないんです!」


 ミシェルにしては珍しくまともな発言だ。嫌味を感じない。

 今回は公爵令嬢として、ミシェルのために助言しよう。


「ミシェルはスタイルがいいから、ビキニがすごく似合うと思うわ。修学旅行で男子生徒の視線を集めるでしょうね」

「ええ? そうですか? でも、恥ずかしいし……どうしようかな……」

「たしかに、男子生徒にジロジロと体を見られるのは恥ずかしいわね」

「お嬢様も一緒にビキニを着るのはどうですか?」

「私?」


 ――ミシェルと並んで歩くと見劣りするわね……


 ダメだ。ミシェルの隣でビキニを着るわけにはいかない。

 私はそれっぽい理由で断ることにした。


「残念だけど……私は公爵令嬢だから、人前で肌を露出してはいけないの」

「そんなことないですよ。奥様もこの前プールでビキニを着ていましたよ」

「母は私と違ってスタイルが良いので……」

「あらっ、お嬢様もスタイルいいですよ。絶対にビキニが似合いますって!」

「でも、胸がペッタンコでしょ」

「あー、そんなことですか。いいもの貸してあげますよ」


 ミシェルは水着と一緒に持っていたものを私に差し出した。


「これは?」

「パットです。水着の中に入れたら大きくなりますよ」

「はぁ? それって詐欺じゃ?」

「何を言っているんですか……みんなパット入れてますよ」

「そうなの?」

「そうですよ。もちろん、奥様もパット入れてます!」

「えぇ?」

「自信持ってください!」


 パットを手に持った私は、どれくらい胸を大きくすればいいのか分からない。


「ちなみに、私はパットを何枚入れたらビキニ着れるかな?」

「うーん、お嬢様はかなりの貧乳なので……」

「ちょっと、ミシェル!」

「失礼しました。2枚……いや、3枚は必要ですね」

「3枚か……」

「試してみます?」


 そういうとミシェルは私にビキニの水着を渡した。


 ――試すだけなら……


 これからの人生で一度や二度はパットを使うことがあるかもしれない。

 その時の練習だと思って……私は試してみることにした。


 私がビキニに着替えるとミシェルが重ねたパットを胸部分に入れていく。


 1枚……2枚……3枚……お皿を数えているみたいだな。


「はい、完成!」


 ミシェルはそういうと、私の前に姿見鏡を持ってきた。

 たしかに……パットの威力はすごい。私のものではないような双丘が鏡に映っている。


「うぉぉぉーーー。ジャンプしたら揺れるーーー!」

「実際には本体ではなく、中のパットが上下しているだけですけどね」

「うるさいわね! 一回やってみたかったのよ……」

「それにしても、うまくできましたね。誰もニセ乳だとは思いませんよ」

「よしっ! これでロベールも悩殺ね!」


 たしかに遠目からでは本物に見える。でも、近くでジッと見られたら?


「でもさ、近くで見たら偽物だってバレない?」

「まぁ、かなり近寄ったら判るかもしれません」

「ちなみに、どれくらいまで近寄ったら判る?」


 ミシェルは目を細めながら私に近寄ってくる。


「あー、この辺りですね。貧乳のカーブとビキニのカーブに違和感がありますね。何ていうか……貧乳に『何か』が載っている……そんな感じがします」

「イチイチ、貧乳って、うっさいわねー!」


 ミシェルと私の距離は約1メートル。

 そうすると……1メートル以内に男を寄せ付けなければバレない。


 ――でも、ロベールは1メートル以内に入ってくるわね……


 私は気になることをミシェルに確認する。


「ちょっと質問なんだけど……」

「何ですか?」

「一度ロベールの前でニセ乳を使ったら、私はこの先ずっとニセ乳で通さないといけないのかな?」


 ミシェルはニヤニヤしている。


「まさか……隠し通せるとでも?」


 ――そうよね……


 もし、ニセ乳がバレて蛙化現象が起きたら……


 私はパットを使うかどうか、再考することにした。


 **


「そういえば、修学旅行の行先はマンデル共和国だったわね」

「そうです。マンデル共和国のビーチエリアですよ」


 ――マンデル共和国……っん?


「マンデル共和国って、詐欺集団の! 手紙の差出人の住所から近いのかしら?」

「えぇっと……ホテルがここで……手紙の住所がここだから……近くですね。徒歩でも行けますよ」

「本当? 警察も正式な捜査ができないから時間掛かりそうだし、様子を見に行ってみるか」

「マイケルに会えるかもしれませんね」

「そうと決まれば、ロベールに言っておかないといけないわね」

「もう夜が遅いから、明日にして下さいね。今から押し掛けられても、ロベール様が迷惑しますから」

「分かってるわよ、うっさいわね!」


 それにしても、修学旅行と詐欺集団の捜査。忙しくなりそうね。


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