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嫌なヤツ……

 ヘイズ王立警察からの帰り、私はロベールの家に立ち寄った。

 ロベールは改めて説明するまでもなく、私の彼氏……のはず。

 本人からそう聞いたから、私の妄想ではない。


 ロベールの家に入ったら、弟のトミーが走ってきた。


「お姉ちゃん! 僕、新しい魔法ができるようになったんだ。見たい?」


 トミーは嬉しそうに私に言った。覚えた魔法を私に見せたくて仕方ないらしい。


「トミー、すごいわねー。私に見せてくれる?」

「いいよー」



 トミーはそういうと人差し指を立てて集中した。


 人差し指の先から小さな炎が出現する。火魔法だ。

 この年でここまで魔法を使いこなせているのは珍しい。トミーは魔法の才能がありそうだ。


「ほら! ロウソクだよ!」

「すごーい! トミーは火魔法が得意なの?」

「そうだね。お母さんが料理する時に使ってたから覚えたの」


 子供は普段の生活の中で成長していく。遊びながら魔法を覚えていく子供も多い。

 トミーは母の手伝いをするために火魔法を覚えたのだ。

 私はこの魔法を応用する方法を教えることにした。


「じゃあ、これはできる?」


 私はそう言うと、右手の五本指を広げた。


「はい、親指」というと親指に火が灯る。

「次は、人差し指」人差し指に火が灯った。


 これを繰り返し、「最後は小指ね」と言って小指に火を灯した。


 五本指全てから火が灯っている光景を見て、トミーは「すごーい!」と驚いている。


 さっそくトミーはチャレンジした。2本までは火が灯ったけど、3本目になると失敗した。

 まだ、多くの魔法を同時発動できない。でも、2本は立派だ。

 才能があるから、すぐに5本もできるようになるだろう。


「練習したらできるようになるよ。これができたら、次の魔法を教えてあげる」

「ありがとー!」


 私がトミーと遊んでいたら、ロベールがやってきた。


「デイジー、あまり危ない魔法は教えないでね」


※「デイジー」はマーガレットの愛称です。他には「マーゴ」、「マギー」などがあります。


「オホホ、何のことかしらー」

「5つの炎を同時に扱えるレベルになったら、中級魔法、いや上級魔法も使えるようになるよね」

「そうかもね。将来有望じゃない!」

「この前、マフィアの倉庫が地獄絵図になったのを忘れたの? 同時に複数の魔法を使うと、ああいうことになるんだよ……」

「同時に複数魔法を使えるのと、実際に使うのは違うわ。魔術師としてのモラル(倫理観)が重要なのよ!」

「デイジーがそれを言う?」

「ぐぬぬぅぅぅ……」



「さあ、ミートパイができたわよ!」


 いいタイミングでロベールの母親がやってきた。小言は忘れて一口いただこう。ロベールの母親のミートパイは絶品だ。


「いただきまーー「手、洗った?」」


 トミーだ。

 私は気付かれないように魔法で手を消毒した。


「ほら、魔法で消毒してるから大丈夫!」

「いま魔法使ったでしょ? 無詠唱でも分かるよ」

「オホホ、違うわよー。トミーも魔法で消毒できるでしょ?」


 ――鋭いなーー


 子供の成長は早い。これらからは気を付けよう。


 **


 私たちが食卓でミートパイを食べていたら、来客があった。

 トミーが玄関に掛けていく。


「お母さん、パオラって女の人が来たよーー」

「ああ、私の幼馴染ね」

 そういうとロベールの母は席をたって、パオラを迎えに行った。


 私たちが食卓にいるから、ロベールの母はパオラを隣の部屋に案内した。

 私たちがミートパイを食べていたら、隣の部屋から二人の話し声が聞こえてきた。

 さすが貧乏男爵家、壁が薄い。話が家中に筒抜けだ。


「モニカ、考え直したらどうなの? こんな貧しい男爵家なんて捨てて、子爵家の後妻になればいいじゃない」

「だから、興味がないって言っているでしょ」

「こんな貧乏男爵家はロベールにあげればいいのよ。弟と妹は孤児院に戻せばいいわ」

「そんな……」

「とにかく、子爵家のあなたが男爵家に嫁いだのが、間違いだったのよ」

「そんなことない。あの人と結婚したことを一度も後悔したことはないわ」

「口ではそういってもね。ボロボロの服を着て、化粧もしていない。装飾品も安物しかないわよね」

「ほっといてよ! お金は重要じゃないわ」


 パオラが「あなた、嘘つきね」と笑っているのが聞こえた。


「そんなに強がって。あなたもこんな指輪をしたいでしょ?」

「だから、要らないわよ。もうこれ以上話すことはないから帰ってもらえるかしら」

「まぁ、いいわ。後悔しても知らないわよ!」


 そう言うとパオラはドアを乱暴に開けて出ていった。パオラが去った男爵家を静寂が包み込む。


 ロベールの母は苦笑いしながら食卓に戻ってきた。


「お母様、話を聞くつもりはなかったのですけど、聞こえてきました。あの方はお知り合い?」

「えぇ、幼馴染のパオラよ。昔からあんな性格で、私たちをいつも振り回していたわ。意地悪もたくさんされたかな」

「そんな感じですね。それにしても、後妻になんて失礼な話です。なりたくなければ、ならなくていいですよ。ロベールはもうすぐ子爵になります」

「マーガレット様……」

「私のことはデイジーと呼んでください」

「ありがとう、デイ…ジー…照れるわね…」

「それよりも、パオラはガラン子爵夫人ですよね?」

「そうよ」

「付けていた宝飾品や服は、子爵夫人には買えないくらい高価なものでした。なぜあんなに羽振りがいいのかしら?」


「詳しくは知らないけど、ガラン子爵の評判はよくないの」

「どんな噂を聞きますか?」

「詳しくは分からないけど……侯爵を剥奪されたハリス元侯爵とやり取りしていると聞くわ」


 ハリス元侯爵とは私の元婚約者ハーバートの家だ。人身売買の罪で侯爵位を剥奪された。ハリス元侯爵はマフィアとも深いつながりがあるから、ガラン子爵を巻き込んで犯罪行為をはたらいているのかもしれない。


「それは興味深い……」

「パオラは妻を亡くした貴族に後妻を紹介することで、手数料を貰っているみたいなの。小遣い稼ぎね」

「他には?」

「他には分からないけど……何かしていてもおかしくはないわね」

「へー、ガラン子爵か……調べてみたらいろいろ出てくるかな?」


 私が考えていたら、「おねーちゃん、悪い顔してるよー」とトミーが言った。


 子供はよく見ているな……


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