黒猫ポリス!
衛兵5人を吹っ飛ばした私。衛兵たちは突風が発生した方向を見た。
「何者だ?」
一斉に茂みの方を見る衛兵たち。私が茂みに隠れているのがバレた。
今はロベールが一人で事件を解決しようとしている。
なのに……私が正体を明かしていいものか?
私はアジトに侵入したのと同じ黒いスーツを着用している。さらに、正体がバレないようにサングラスを掛けている。そして、肩の上には黒猫。
――変装グッズは揃っているわね
私はロベールに手柄を立てさせるために正体を隠すことにした。
茂みを出て衛兵の方へ歩いていく私。衛兵を正面に捉えた私は大声で名乗りをあげる。
「私は黒猫ポリス! 黒猫ポリスだニャー!」
「黒猫ポリス?」
「聞いたことあるか?」
衛兵たちはざわざわしている。
それもそのはず。私も「黒猫ポリス」なんて聞いたことがない。
肩に乗ったマリオは「ニャー、だってー」と笑っている。
たしかに、「ニャー」は無くてもよかったかもしれない……とはいうものの、幸いにも私の正体は衛兵にバレていない。
私はこのまま黒猫ポリスを演じることにした。
黒猫ポリスとなった私は前に進みながら風魔法で衛兵たちを吹っ飛ばした。
「何が起きたんだ?」
「魔法?」
「詠唱してないぞ!」
何が起きているか理解できない衛兵たち。黒猫ポリスを恐れてチリジリに逃げていく。
烏合の衆となった衛兵たちをロベールが捕獲していく。
「最初からこうしていれば良かったんじゃない?」
「いやー、なるべく被害を小さくしようとしたら……申し訳ない」と謝るロベール。
私がパオラを探していたら、屋敷の中に入っていくのが見えた。増援を呼びに行ったのか?
しばらくすると、小太りの中年男と白銀の鎧を装着した3人の兵士が現れた。
顔は分からないが、高そうな服装をしているから中年男がガラン子爵だろう。
――そして、白銀の鎧……
既視感のある鎧だ。あの鎧に似ている。
私がシュミット子爵家の倉庫を地獄絵図にしたときの……思い出したくない黒歴史。
パオラは私たちに向かって叫ぶ。
「子爵家に踏み入るなんて汚らわしい。貧乏人は出ていきなさい!」
自分は金持ちだと叫ぶパオラ。
でも、私は公爵令嬢。あなたよりももっとお金持ち。
あの兵士たちを倒した後、サングラスを取って驚かせてやろう。
私がそう思っている間もパオラはロベールに叫んでいる。
「ロベール、よく聞きなさい! この鎧は貧乏人には買えない、とても高価なものよ」
「はあ……」
「この鎧は全ての魔法が効かない。最強の鎧なのよ!」
――知ってる……うるさいな
ロベールがバカにされてイライラする私。
当のロベールはヘラヘラ笑っている。母の幼馴染だから気を遣っているのか?
「この鎧の兵士は貧乏人には倒せないわ! 貧乏人は出ていきなさい!」
半笑いで話すパオラに怒りを覚えた私。パオラの方へ歩いていく。
「じゃあ、試してみたら?」
(地獄の烈火)
白金の鎧を纏った3人兵士に向けて中級魔法を3つ放った。
爆風で庭の芝生、木々が吹き飛ぶ。パオラも衝撃で吹っ飛ばされた。
まだ、白金の鎧は無傷だ。さすが最強の鎧。
「ほらー、効かないんでしょー。もっといくわよー」
(地獄の烈火)
私は炎を3つ追加した。
私がこの中級魔法を同時発動できるのは20個までだ。だから、残りは14個。
死なない程度に手加減しないといけないけど、まだ白金の鎧を纏った兵士は無事だと思う……大丈夫だよね?
「きぃあぁぁぁぁーーーー!」
悲鳴を上げて逃げるパオラ。しかし、炎の壁が逃げ道を塞ぐ。
気絶していた衛兵たちも目を覚まし、我先に門のところへ走って行く。
屋敷にも炎が燃え移った。使用人たちも屋敷から出て門を目指して逃げていく。
――なかなか降参しないな……もう一発いくか
(地獄の烈火)
白金の鎧を纏った兵士は動かない。少し不安に思う私。まだ生きてるよね?
庭は9個の火柱に包まれた。かつて綺麗に手入れされていたであろう庭が、焼き尽くされていく。屋敷の壁はドロドロに溶けて中が丸見えになった。
一方、命からがら門のところまで逃げたパオラとガラン子爵、衛兵、使用人。だが、敷地には結界が張られているから外には出られない。
結界を壊そうと剣を振るい、拳を血まみれにしながら叩く衛兵たち。
それでも結界は破れない。
「いやぁぁぁぁーーーーー!」
どこからか聞こえてくる女性の悲鳴。
「命だけは!」
「小さな子供がいるんです!」
「殺さないで下さい!」
「黒猫ポリス、お願いです!」
涙ながらに私に向かって「助けて下さい」と叫ぶ衛兵と使用人。だが、パオラの謝罪は聞こえない。
――謝れば許してあげるのに……
ところで、白金の鎧を纏った兵士は大丈夫なのだろうか?
私はマリオに「ちょっと確認してきて」と指示した。マリオは炎を避けながら走って行く。
「気絶してるよーー!」
マリオの声を合図に、私は炎を消した。
“バッサーーーーー!”
ロベールが白金の鎧を纏った兵士に水魔法を放つと、急激な温度変化で白金の鎧はバラバラに砕け散った。
私は兵士のところへ駆けていった。
(回復)
これで死ぬことはないだろう。
私は門の方へ歩いていく。衛兵と使用人たちは近づいてくる私を避けて、ロベールに縋りついた。
「お願いです! 黒猫ポリスを止めて下さい!」
「死にたくないんです!」
ロベール経由で私を説得してもらおうという作戦のようだ。
パオラとガラン子爵もロベールの方へ走って行く。
「ロベール、黒猫ポリスを説得しなさい!」
この状況でまさかの上から目線……口のきき方がなってない。
イラっとした私は、パオラの近くに炎の塊を投げつけた。
「ひぃぃぃーーー!」と悲鳴を上げるパオラ。
「まだ降参しないの?」と私はパオラに問う。
「うるさい! 貴族は貧乏人に屈しないの!」
――ある意味、すごいな……
私(黒猫ポリス)を貧乏人だと勘違いしているパオラ。そろそろ正体を明かすときが来たようだ。
私はマリオに合図した。事前に打ち合わせしたセリフを言わせるためだ。
「皆の者、控えおろーー! このお方を誰と心得る。このお方はーーー」
私はマリオのセリフに合わせてサングラスを取り、周りを見渡した。
「えぇっ誰?」
「暗くて見えねぇ」
「誰か、灯りもってないか?」
炎が消えて私の顔が見えないらしい。
しかたないから、もう一度やることにした。
私はサングラスを付け直し、さらに、私の顔がよく見えるように炎を出した。
「もう一回!」とマリオに指示を出す。
「皆の者、控えおろーー! このお方を誰と心得る。このお方はーーー」
私は再びマリオのセリフに合わせてサングラスを取った。
今度こそ私の顔が見えているはずだ。
私は周りを見渡す。
「えぇっ誰?」
「誰か知ってるか?」
――まぢか……
そういえば、パオラとガラン子爵には会ったことがない。
ひょっとして私の顔を知らないのでは……
「うぉっほん! 皆の者、よく聞きなさい!」
私はできる限りの声量で庭に這いつくばる子爵と庶民に言う。
「私こそが、マーガレット・マックスウェル・ウィリアムズ! ウィリアムズ公爵令嬢でありウィリアムズ公爵家を継ぐ者!」
「知ってる?」
「いや、知らねー」
ざわざわする衛兵たち。ただ、さすがにパオラとガラン子爵は気付いたようだ。
「マーガレット様でございますか? なぜこのような下民の屋敷へ?」
「だーかーらー、『詐欺容疑で逮捕しに来た』って言ってるでしょ!」
「はぁ」
自分よりも高位貴族だと分かると、パオラの態度は急変した。
弱い者には強く、強い者には弱い。最低な奴だ。
「ロベール、警察官を何人か呼んできて」
ロベールが警察官を呼んでくると、観念したパオラとガラン子爵は大人しく連行されていった。