捜査会議を始める!
ビーチでの自由時間を終えてホテルに戻ってきた私たち。
夕食を食べた後、私はロベール、ミシェルとエレーヌを私の部屋に呼んだ。
私の泊まっている部屋に入るなりロベールが言った。
「えぇ? こんなに広いの?」
何のことか分からないが、私の屋敷の部屋よりも小さい。広くはないはずだ。
「別に広くないと思うけど……」
「お嬢様、今の発言はいけません!」
珍しくミシェルが真面目な口調で言った。
どうしようもないクズ人間に怒られている感じ……なんて表現すればいいのだろう?
「みんなの部屋と変わらないんでしょ?」
「そんなわけないでしょ! 私の泊まっている部屋は……そうですね。そこのレストルーム(トイレ)くらいの広さです」
そういうとミシェルはレストルームのドアを開けた。
「そうそう、これくらいの広さ」と言いながらミシェルの怒りがこみ上げている。
「それに、相部屋です。このレストルームの広さにお姉と二人なんですよ!」
「僕も同じくらいかなー」
ロベールも話に乗っかる。
部屋の広さの話をしたくて3人を部屋に呼んだわけではない。とはいえ、気まずい……
私は話題を変えることにした。
「部屋のことはいいから……」
「よくないですよ!」
「ミシェル、うるさいわね! 部屋の広さはどうでもいいの!」
「ちっ……」
舌打ちする侍女ミシェル。イライラするけど捜査会議が先だ。
「よく聞きなさい。みんなに来てもらったのは他でもない」
ロベール、ミシェルとエレーヌが私を見た。そのタイミングで私は声高々に宣言した。
「今から捜査会議を始める!」
私は捜査会議を進めることにした。
「詐欺集団のアジトはどうだったの?」と私はエレーヌに尋ねる。
「あー、それですね。あの住所は単なる郵便物の受け渡しに使っているだけみたいです」
「拠点じゃなかったのね」
「まぁ、そうでしょう。でも、ルッツに一日中建物を見張らせたら、郵便物を取りにきた男がいました」
詐欺集団のアジトは手紙の住所ではないようだ。でも、手紙を回収するために男がやってきた。きっと詐欺集団のメンバーだろうから、男を追えばアジトの場所が分かるかもしれない。
「その男を尾行したの?」
「もちろんです。ルッツに後を付けさせました」
こんな性格でもエレーヌは警察官。仕事に抜かりはない。よしよし。
私はエレーヌに確認する。
「どうだった?」
「詐欺集団のアジトが分かりました。正確にはアジトなのかは分かりませんが、大勢の人が作業している場所です」
「アジトなのか分からない……どういうこと?」
エレーヌは困った顔をした。どういうことだろう?
「いやー、詐欺集団とかマフィアって、男の集団をイメージしますよね」
「そうね。黒い服を着た悪そうな男だね」
「でも、そのアジトの中にいるのは女性だけなんです」
「女性だけ?」
「ええ、ルッツの話では100人以上いたそうです。そして、その女性たちは机に噛り付いて、一日中手紙を書いているらしい……」
この事実は私が想定していた詐欺集団とは違っていた。
100人の女性が黙々と机に座って手紙を書く……そんな犯罪集団を聞いたことがない。国際ロマンス詐欺という特殊な詐欺だからか?
「なっ……じゃあ、ヘイズ王国の貴族夫人たちが受取った手紙は、その女性たちが書いたものなの?」
「そういうことでしょう。女性の方が女性心理は分かりますから。敵もよく考えたものです」
「へー。指示役はその建物にいるのかしら?」
「多分……いると思います。手紙を書く女性を取り纏める女性がアジトにいます。他の手紙を書いている女性はともかく、取り纏めの女性は詐欺集団の幹部かと」
エレーヌは「手紙を書いている女性は詐欺集団のメンバーではない」と言いたいらしい。
確かに、この詐欺集団は普通の詐欺集団とは違う。何か違和感があるのだ。それに、手紙を書いているだけの女性が詐欺の全容を把握しているとも思えない。
ただ、先入観を持って捜査するのは避けるべきだ。
私はエレーヌの根拠を確認する。
「本当に、手紙を書いている女性は詐欺集団のメンバーじゃないのかな?」
「全員がメンバーじゃないとは言い切れないのですが……ほとんどの女性は関係ないでしょう」
「どうして?」
「これです」
エレーヌは「これがアジトの前に貼ってありました」と私に紙を手渡した。紙には「求人票」と書いてある。
=====求人内容=================
手紙を書く簡単なお仕事です。
利発な女性を募集しています。静かな清潔なオフィスで私たちと働いてみませんか?
この仕事は、あなたの文章力、想像力で貧しい人を救う仕事です。
基本報酬に加えて、成功時には賞与も支給します。
勤務地:当社オフィス
勤務時間:午前9時から午後5時までの間で2時間以上
時給:〇〇
※勤務内容の詳細は面接時にご説明いたします。
なお、当社では採用試験(書類審査)を実施しています。履歴書、職務経歴書のほか、「貴女が想う人への恋文」をお持ち下さい。
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エレーヌが差し出した紙はどう見ても普通の求人票にしか見えない。
意味が分からない私はエレーヌに尋ねる。
「これって求人広告だよね?」
「そうです。手紙を書いている女性はこの求人で集めた一般人じゃないかと……」
「それにしても、時給高いわねー。まさに、高収入バイトだね」
私の言葉(高収入バイト)に反応して、ミシェルが求人票を覗き込んだ。
「これ、私の時給の3倍ある……ここで働こうかな?」と呟くミシェル。
「そうだよなー。警察より給料いいぞ!」と乗っかるエレーヌ。
高収入バイトに心が揺れるミシェルとエレーヌ。
「時給が高くても、犯罪だからね」と私が言うのだが、二人はこのバイトに応募するか話始めた。
――このままでは捜査会議が進まない……
困った私はロベールをチラッと見た。呆れている。
顎で二人を説得するようにロベールに指示を出す。
「うっぉほん! バイトに応募しなくても、事件を解決したら警察からボーナスが出るんじゃないかな?」とロベールは言った。
「警察はケチだからボーナス出ないと思うよ」と冷静なエレーヌ。
「お嬢様、そんなことよりも私の時給を上げて下さいよー」とミシェル。
困った顔のロベールが私を見つめる。
まるで……雨の中に捨てられた仔犬のような視線。
「仕方ないわね、事件を解決したら私が二人にボーナスを出しましょう! これでいい?」
「「はい!」」
これで捜査会議を続けられそうだ。
とにかく、話を進めよう……