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「恋の証明」  作者: 全昇華
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「修学旅行編」

修学旅行編

6月某日から3日間、待ちに待った修学旅行が行われる。俺が一緒になりたいのは数博と荒井くん。そして、紬だ。

その思いのまま、ついに班決めの時間が始まった。まず、男女で別れて、好きなように3人組を作るらしい。それがわかった瞬間、俺は数博と荒井くんと組んだ。

男子も女子も18人ずつ、つまり3の倍数ずつの人数だったため余りは出なかった。言っちゃ悪いが、普通なら荒井くんと組みたがる人はいなかっただろう。しかし、俺が荒井くんと友達になったため、凌夜、数博と芋ずる式に俺の友達と荒井くんが仲良くなっていき、今回余らずに済んだのだ。恐らく、俺と組まなくても誰か別の人と組めていただろう。

あとは、どの女子のグループとくっついて班になるかだ。紬のグループは、アッコと、この2人と仲がいい立花 七瀬だ。荒井くんは自分より活発な、言い換えると「陽キャ」であるアッコと立花にすごく憧れている。傍からは、ファンみたいに見えるが、本人曰く好きという気持ちとは全くの別物らしい。

数博は兄妹のアッコと驚くほど仲良しだ。

いうまでもないが俺と紬はもちろん同じ班になりたい。俺たちのグループと紬たちのグループがくっついて班になるのがお互い1番最高の展開だろう。しかし、決め方はくじ引き。こればかりは完全な運だ。そこで俺は勇気を振り絞り、「班もグループを決めた時みたいに自由に決めるようにしましょう」と鉄田に進言した。

しかし、「いや、揉めたりする可能性があるからダメだ。」と言われてしまった。

「数博!いや〜、鉄田“先生”に聞いてみたけどダメだったよ。」

「まじかー、まぁでも鉄田だしそうだよな。」

「後は、ほんとに運を天に任せるしかないかぁ。」

そうこう言っているとくじ引きが始まった。絶対、鉄田がくじ引き好きなだけだろと思った。

荒井くんはとても運がいいらしい。全会一致でここは荒井くんにくじを引かせることにした。

男女で違うくじを引き、同じ番号になったグループ同士が班になるシステムだった。荒井くんは並んでいる列の後ろの方だ。

果たして、同じ班になれるのか……

荒井くんが引いた、と同時に俺と数博は荒井くんのところに駆け寄り番号を見た。

「5番」

そして紬たちの番号は……「4番」

終わった。と思っていると、凌夜が「今回こそほんとに取り引きしないか?」と言い、4番と書かれた紙を見せてきた。

「今回こそは本当みたいだな。分かった、交換しよう。」俺は荒井くんから借りた5番の紙と凌夜の持っている4番の紙を交換した。

「よしっ!数博、荒井くん、見ろ!取り引きでこれをゲットした。」

「おぉー!やったな!」

「おいおい、静かにしろ。鉄田にバレたらどうなるか分かんないんだぞ!」

「あ、そうだな。ゴメンゴメン。」

何とか鉄田には俺たちの不正がバレずにすんだ。凌夜は藤長や文子と同じ班になっていた。凌夜は文子と同じ班になるために俺と取り引きをしたんだろう、すごいな。

「つむぎー!一緒の班になれたなぁー!良かったぁ。」

「そうだね!」紬は屈託のない笑顔を浮かべた。少し後ろめたさはあったが

「それじゃあ、まず班長を決めろー。」という鉄田の一声で全てかき消されてしまった。そして、全ての班は話し合いを始めた。

俺たちの班はアッコが班長を担当することになった。アッコ自ら手を挙げ、それに誰も異論を唱えなかったからだ。

凌夜の班ではジャンケンで負けた藤長が班長になってしまっていた。とっても面白い。

「藤長ー!ドンマイだな!」笑いながら言うと、藤長が「ふざけんなお前!ずるいなー!」といつものように教室中に響き渡る声で叫ぶように言った。

「おい、そこうるさいぞ!」

鉄田だ。藤長が鉄田に注意された。俺は笑いが堪えきれず、小馬鹿にした目でニッコリと笑って藤長を見つめた^^

学校の校門をぬけ、「さようなら。」と挨拶を続ける鉄田の姿が見えなくなった頃。

「実はな……今日の班決め、凌夜と一緒に不正したんだ。」

「え?!ほんとに?!だから、引いた後、少ししてから喜んでたの?」

「そうだよ。凌夜の引いたくじと交換したんだ。荒井くん、運がめっちゃ良いからさ、引きに行ってもらったのに、紬と同じ班になれなかったからな。」

「そ〜ゆ〜ことね!ま、鉄田にもバレてないし、私たち一緒の班になれたんだから、気にしなくていいよね〜!誰にも話さないで2人だけの秘密にするよ!」

「凌夜と数博、荒井くんは知ってるけどなwでも、ありがとう。」

よみがえっていた後ろめたさもこれで完全に解消された。それからの毎日は瞬く間に過ぎていった。当日、体調を崩してしまわないか心配だったが、それも杞憂(···心配しないでいい事を心配すること)に終わった。

そして、当日。いつもより相当はやく学校に集まらなければならなかった。俺は早起きは苦手だが、数日前から寝る時間を早くして早起きの練習をした。

「お〜!まだ結構暗いね〜!」

紬が来た。

「あんまりこんな時間に外を出るなんて慣れてないから新鮮だね。」

「そうだね!でも、まだ寝てる人も居るかもしれないから、あんまり大きな声を出しちゃダメか。」

そういって紬は声を小さくした。紬が自分から声のボリュームを下げられるようになるなんて!?俺はものすごい感銘を受けた。

「うん?蓮くん、なんか静かだけどどうかした?」

「いや、何でもないよ。ちょっと考え事してただけ。」

「え〜!何それ?気になるから教えなさーい‼️」

それを言わなきゃ、ここは通さんぞ!とばかりに体を精一杯広げて、俺の前に立ち塞がった。

「ん〜、仕方ないな。紬が自分から声のボリュームを下げるなんて成長したなぁって思っただけだよ。」

俺が答え始めると、最初はやったー!と笑っていた紬の表情がだんだんとキョトンとした顔になっていった。

「えっ?!それって…褒めてる…?」

「う、うん。もちろんだよ!」

「こら〜!それ嘘でしょ!謝りなさーい!!!」といって俺を追いかけてきた。中3になって測った50m走でも、ギリギリ9秒を切った程度の俺の足の遅さでは、50m走7秒台の紬からは逃げきれずすぐに捕まってしまった。

「ゴメンゴメン。やっぱり紬はめっちゃ早いね。」

「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど…」

走ったおかげで学校に少し早くついた。しかし、俺たちより早く登校している人は何人もいた。みんな張り切ってるのだろう。

それから時間は経ち、やっと全員が揃った。全員が揃うと前にいた鉄田が話し始めた。

「今日という大切な日が何事もなく迎えれたことを大変嬉しく思います。」

棒読みだ。

「浮かれてしまう気持ちもわかるがケジメをしっかりつけるように。」

鉄田らしく、一瞬で話が終わった。校長が話さなくて本当に良かったと思う。話していたら飛行機に乗り遅れていたことだろう。鉄田が話し終わると1クラスずつバスに乗り込んでいった。バスの中では映画が流れていたが、まったく面白そうでなかったから、俺は紬や数博、荒井くんたちと喋っていた。盛り上がりすぎて少しうるさくなりすぎてしまった気はするが、今日ばかりは鉄田も見逃してくれた。

1時間経って、俺たちは空港に着いた。荷物検査などを無事くぐり抜け、飛行機に乗り込んだ。ちなみに、俺は人生で初めて飛行機に乗る。ワクワクと恐怖が混ざりあった気持ちで飛ぶのを待った……

アナウンスが流れ、ついに飛行機が動き出した。汗が滲む。

「蓮くん、どうしたの?そんな強ばった顔して〜?もしかして怖いんでしょ!」

と隣の席に座っていた紬が笑いながら話しかけてきた。紬は何回も飛行機に乗ったことがあるらしい。「いや、全然大丈夫だよ。」そう言おうとしたのもつかの間。浮いた!?飛行機が浮いた!?体がふわっと浮き上がるような感覚。例えるなら、ブランコを漕ぎすぎた時のような、ジェットコースターが落ちる時のような…そんな感覚だ。思ったよりは怖くない。少しすると慣れてきた。良かったぁ。深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせた。

「蓮くーん!蓮く〜ん!!」

「え?何!?…紬かぁ、ビックリした〜。」

集中しすぎていたせいで、紬の呼ぶ声に一切気が付かなかった。

「やっと気づいたね。私、さっきから呼んでたんだよ!やっぱりビビってたじゃん!」

「正直にいうと、、、めっちゃビビってたよ。」

俺はいつの間にか紬の手を握っていることに気がついた。怖かったからだろう。恥ずかしくなって、握っている手を離そうとしたが、しっかり握り返されていたため無理だった。

「うん?どうしたの?…あ、わかったぁ!恥ずかしいんだ〜。」

紬はニヤニヤした表情で俺を見つめた。

俺も、もう吹っ切れてより一層強く紬の手を握り返した。

耳がキーンとなる。いわゆる耳鳴りに少し苦しまされたが、それもすぐに収まりなんとか飛行機を降りられた。

「いや〜、楽しかったけど疲れたな」

「蓮くんは怖がってもいたけどね!やっぱりずーっと座ってたから腰が痛いよ〜。」

ん〜、と伸びをしながら俺たちは先頭の鉄田についていった。空港の中の人が少ないところに集まって諸注意を聞いたあと、近くの広場に向かって弁当を食べた。

何人かで集まって弁当を食べていると、少し雨が降り出してきた。小雨ではあったが、思っていたよりも服がビシャビシャになってしまい落ち込んでいると、紬が自分のバッグから「はい、これ!」と綺麗に折りたたまれたタオルを俺に差し出してきた。

「こんなに綺麗にしてあるのにいいの?」

「だって、私。物よく無くすから、この前もシャーペンがなかった時、貸してくれたでしょ!困った時はお互い様だよ!」

「そっか!…ありがとう!!」

その後は、平和学習が始まった。戦争を経験したおじいさんやおばあさんの話を聞いたり、平和記念公園に行ったりといった具合だ。

最初は興味深い資料もたくさんあった。しかし、全て見終わってしまい完全にやることがなくなってしまったのだ。集合時間までの間、俺たちの班はもう乾いたベンチの上に腰掛け鳩たちと戯れた。

集合時間の10分ぐらい前になってからやっと他の班が動き出した。その中でも藤長の班は特に遅く、5分程遅れてやってきた。凌夜いわく

「時計がなかったから他の班が行きだしたら、自分たちの班も行こうと思っているといつの間にか周りに誰もいなくなってたから全力疾走で集合場所まで向かった。」らしい。藤長は鉄田に怒られ、ただ「はい!はいッ!」と言い続けていた。

藤長たちのせいで遅くなったが、ついに民泊体験が始まることとなった!

班ごとに男女で別れて各家に泊まらせてもらうという感じだ。

俺たちは運のいいことに、海に臨む民家に泊まれることになり、紬たちはそのすぐ近くの家だった。

そして、紬との別れ際。

「夜の8:00ぐらいに家を抜け出してそこの砂浜で会わない?」

「お、いいねぇ〜!でも、どうやって抜け出すの?」

「ちょっと気分悪いから外の空気吸ってきます!これで大丈夫でしょ!」

「ま、私には授業サボりで培ったスキルがあるからね。余裕で抜け出してきてあげるよ!」

「そうだな、紬なら安心だ!じゃあ…また後で。」

「うん、後でね!」

そういって別れて、自分たちが泊まる家へと向かった。

俺たちを出迎えてくれたのは見た目は70才ぐらいに見える、がしかし元気そうで、優しそうな老夫婦だった。すごく良さそうな人だったのだが、一つだけ大問題があった。

この老夫婦訛りが強すぎて何を言っているのか全然分からないのだ!

老夫婦が夜ご飯の準備をしている間、俺たちはその事について話し合っていた。

「数博、荒井くん、あの2人がなんていってるか分かった?」

「いや、ぜんぜん。」

「僕もまったく理解出来なかったよ。」

「一応ちょっとはうちなー勉強したんだけどな。それが無意味になっちゃったよ。」

「で、どうする?」

「僕は適当に頷いとけば乗り切れると思うよ。」

「確かに、それぐらいしかないよな。」

「そうだ!紙に書いて伝えればいいんじゃね!漢字、多く使ったら流石に伝わるだろ!」

「いい考えだと思うけど…紙はどうするの?」

「それは大丈夫だ!俺、ノート持ってきてるし。」

と言って俺はバッグからほとんど使っていない綺麗なノートを取り出した。

すると、老夫婦が定番のゴーヤチャンプルを持ってきた。涎を垂らしてしまいそうなぐらい魅力的な見た目と芳ばしい香りだ。

俺たちは恐らく“食べてね”だと思われる言葉を老夫婦から受け取ると、我先にと「いただきます」といいゴーヤチャンプルを頬張り始めた。

そして、入浴もし終わると自由時間となった。俺は今夜“紬と会う”という計画を二人に告げ、協力を求めた。

「そんな面白そうなこと、1人でやろうとしてたのか!俺たちも一緒に行かせろ〜!」

数博が俺の肩を掴みながら言ってきた。

「わ、わかったからちょっと手、どけてくれ!」

「はいはい、でもどうやって抜け出すんだ?」

「それを相談したかったから言ったんだよ!お前らも着いてくることになっちゃったけどなー!」

「もう、直接、外行ってきますって言えばいいんじゃないですか?」

「言い出しっぺの法則っていうし、悠介言うのよろしくな!」

嫌がっていたが、畢竟(···つまるところ、結局)荒井くんが言うことになった。

「海とか見たいので3人で外に行ってもいいですか?」とシンプルにノートに綴っておばあさんに見せた。紙に書いて見せたことにより、自分たちの会話が伝わっていないことを察したのか、標準語に近い感じで「気をつけてね」と言った。

「はーい」と3人で声を合わせて返事し、俺たちは目の前の砂浜へと向かった。荒井くんがつけていた腕時計によると少し早く着きすぎたようだ。

「ちょっとお前ら、紬が来てから邪魔しないでくれよ〜。」

「大丈夫だって。お前の彼女が来たら離れとくよ、な、悠介!」

「うん、田中くんが言った通り、僕たちはどいておくよ。」

すると紬…“たち”が来た。そう、アッコと立花も来たのだ。

「2人ともついてきちゃった。大丈夫かな?」

「いや、大丈夫だよ。俺の方も2人ついてきたし。」数博と荒井くんを指さして言った。

「え?アッコじゃん。こんなとこで何してんの?」

「数博こそここで何してるのよ。もしかして…白石くんについてきた?」

「そうだよ!じゃあ、アッコたちは白雪についてきたのか?」

「ま、そうだね。それじゃあ、私たち部外者はお2人の邪魔をしないよう、あっちの方いってますね!」とアッコが言うと4人は俺たちから見えないところまで遠ざかっていった。

「あぁ行っちゃったな。」

「うん、行っちゃったね。でも、2人きりで話せるしいいけどね。」

俺と紬は近くの岩の上に座って話を続けた。

「そういえば…今から、5か月前!蓮くんが私に告白したよね〜。懐かしいなぁ。」

「今となってはめちゃくちゃ恥ずかしい想い出だよー。」

「ねぇねぇいつから私を好きになった?」

「えっとな〜、一緒に帰ろ〜って俺が紬を誘って、結局帰れなかった日あったじゃん。その次の日、保健室で話したときにはもう心奪われてたと思う。」

「あの時は、約束してたのに忘れて、一緒に帰らなくて、ホントごめんね。」

「いや、もう全然気にしてないから大丈夫だよ。でも、これがあったからさらに好きになった可能性もあると思うし…気にしないで!」

「それなら、良かった。これからももっと好きになって貰えるよう頑張るね!」

その横顔にみとれながら、1時間ほど星を見つめ、この5ヶ月間の想い出、初めてあった日、告白、春休み、クラス替え、テスト、紬の家にいったこと、ぎこちなく手を繋いだときのこと、席替え、そして記憶に刻まれ、新たな想い出になるだろう、今日のこと、全てをはなし尽くした。

「この時間が永遠に続けばいいのにな」

「この時間が永遠に続けばいいのにね」

「あれ?今同時にいったよね!考えてたことは一緒だったんだ!永遠なんてないと思ってたけど、私たちならずっと繋がっていられる気がする。」

「そう、そうだ!俺たちならきっとできるさ!」

「うん、そうだね!…あ、もう1時間も経ってる!もうそろそろ戻ろっか!」

「そうだな、あの4人を探すとするか〜。」

歩き続けること数分。砂で遊んでいる4人を見つけた。

「あ、蓮。やっと来たか〜、結構待ってたんだぜ。」

「スマンな。楽しくて時間を忘れてたってヤツだ。」

「相当、楽しかったみたいね。それじゃ、みんな戻ろっか。」

喋りながらゆっくり家を目指していると、一軒一軒まわって、生徒がきちんといるかを確認してると思われる鉄田が見えた。ヤバい、もうすぐ俺たちの所までくる。

「みんな、走ろう。」

砂に足を取られながらも、鉄田が確認に来るより先に家に戻ることが出来た。

「ふぅ疲れたなぁ。」と声に出そうとした瞬間。鉄田が戸をノックした。

「荒井と白石と田中はいますか??」

ほとんど聞くことの無い鉄田の丁寧語だ。すげ〜…いや、そんなことを考えている暇はない。俺たちは今の今まで家にいたかのように装った。

靴には砂がたくさん付いている。下を向かれたら終わりだ。俺は鉄田の目をよく見つめて、何とか下を向かせないよう努力した。

鉄田はまだまだ確認に行かねばならない家が多いからか、俺たちが全員いることを確認し、少し話をすると直ぐに別の家に行った。

「うわぁーまじでバレるかと思った、焦った〜!」

「僕たちの靴には砂がつきまくってたからね〜、危なかったね。」

「蓮が気づいてくれたおかげだよ、ありがとな。」

「どういたしまして。あと少しでも気づくのが遅かったらバレてたな。」

玄関で喋っていると、おばあさんから部屋の中に入りなさいと手招きされた。

促されるがまま部屋に入るともう布団が敷かれてあった。もう寝ろということか。

俺たちは仕方なく布団の中に体を押し込んだ。だがしかし!俺たちが素直に眠るはずがない!

明かりは消されていたが、こっそり持っていたライトを使い布団の中でUNOをした。あまりにも熱中しすぎたせいで、いつの間にか深夜になってしまっていて、リビングの明かりも消えていた。


ん?外がもう明るい。知らぬ間に寝てしまっていたようだ。数博と荒井くんも同時に起きた。夜更かしで睡眠時間が削られたせいでとても眠く、頭が働かない。「おはよう。やっぱおやすみ

。」とだけ呟いてそのまま2度寝しようとしたが、数博にたたき起こされた。

「ん?数博なんだよ〜。もう少し寝かしてくれぇ。」

「いやいや、だめだって!集合時間まであまり時間がないんだぞ!」

俺はもう一度倒しかけた体を何とかおこした。

「分かったよー。それじゃご飯食べて準備しよか。」

大あくびをしながらリビングへ行き、そのままゴーヤチャンプルを食べた。来るのが遅かったからか、ゴーヤチャンプルはほんのりと暖かさが残る程度にまで冷めてしまっていたがそれでも美味しかった。食事が終わると俺たちは集合場所へ向かう準備をした。

「短い間だったけど、ありがとうございました。」とお礼を言うと焦燥に駆られるまま、家を飛び出した。

めちゃくちゃバテたが、何とか間に合った。やはりシャトルランの記録が20回の俺には辛すぎる距離だ。どうやら、俺たちが1番最後に来たようで俺たちが座ると鉄田は話し始めた。

「ようやく全員揃ったようだな。今から水族館に向かってそこの近くで昼食を食べる。そして、水族館を見学だ。分かったらさっさとバスに乗り込め。」

疲労からか、みんな重い足取りでバスに乗り込んでいった。バスが走り出してからもほとんど喋っている人はいなかった。これは寝るのにうってつけだ!と思った俺は窓の方にもたれかかって深い眠りについた……

気がつくともう残り5分ほどで目的地に着くぐらいの時間となった。まだ眠たい目をこすり、自分の体を目覚めさせる。何やら右腕に重みを感じるので右の方を向くと、紬が俺にもたれかかって眠っていたのだ。さっきまでの俺とまったく同じ体勢をしている!起こしてあげようと思ったが、その寝顔を堪能するために、もう少し、もう少しだけ!そっとしておくことにした。

バスが目的地に到着すると、紬が起きた。

「ん〜!あれ?私、もたれかかっちゃってた?ごめん、ごめん!」

「いやいや〜全っ然あやまることじゃないよ。むしろ、ありがとう。」

「む…し…??最後なんて言ったの?」

「あぁ、何も言ってないから気にしないで!!」

口が滑っていってしまったのをなんとか言い訳し、俺はバックを担いでバスを降りた。

俺たちはうまい昼食を味わった後、水族館に入っていった。水族館の中では班ごとに自由に回ることができた。鉄田からの好感度を上げるため一緒に話をして一緒に水族館中を巡った。実は鉄田はよく笑う奴で意外にいい奴なのかもしれないと思った。生き物を見るのはあんまり好きじゃなかったが、魚たちの生命力あふれる泳ぎや、思わず見とれてしまうような姿を見るとたまには水族館に行ってもいいなと思わされた。最後におみやげコーナーにたどり着き、そこで俺たちの班は全員で、おそろいのキーホルダーを買った。鉄田も俺たちと同じキーホルダーを買っていた。中には大金を使って一つの大きなぬいぐるみを買ったりキーホルダーを持ちきれないぐらい買っている人までもいたらしい。

朝までの疲労が嘘のようにみんな満足そうにしていた。

次にその近くにある植物園に行った。そこには赤、青、黄、緑······、色とりどりの花がいくつもありはっと息を飲んでしまうほどの美しさだった。しかし、さすがに一時間以上も植物ばかり見ていると見飽きて、退屈してしまった。早く終わらないかなと待っていると鉄田が「集まれー」と呼びかけ始めた。俺たちは「よっしゃー!」と思い我先にと、一番乗りで集合した。

「よし。今回は早く集合できたようだな。今から宿泊施設に向かう。忘れ物をしていないか確認したら、順にバスに乗り込んでいけ。」──

宿泊施設に着くと事前に決めていた部屋に入った。室員は俺、数博、荒井くん、凌夜、藤長、嬉依斗、つまり俺と藤長の班の男子で構成されたメンバーだということだ。入室してから夕食までの少しばかりの自由時間を俺たちは存分に楽しんだ。部屋の中に置いてあったお菓子を食べ尽くし、芳香剤を撒き散らし全て使い切った。部屋全体がそれの匂いで充満し、とても過ごしにくい空間が完成してしまった。だが俺たちはそこで、藤長の持ってきたトランプで残り時間を遊び尽くした。

楽しい時間はあっという間。その言葉の通り、気がつくと夕食の時間が差し迫っていた。

「もう、そろそろ食堂行った方がいいかな?」

「そうだね。遅れて鉄田に怒られるのだけはいやだから、そうしよう!」

俺達は嬉依斗の意見に同意し、食堂に向かった。続々と他の班も食堂に到着し、鉄田に怒られることなく食事を始められた。夕食にはかなり長い時間が割り当てられていたため、俺は豪華な食事に感動を覚えながらゆっくりと味わって食べた。

「ごちそうさまでした。」

夕食が終わると、次はすぐに入浴しなければならない。バスタオルなどを部屋に取りに行き、すぐさま大浴場へと向かった。

「うわ!?なんだこれ、めっちゃ広いなー!」

「大人数で来ることを想定しているからかな?それにしてもひろ〜!」

結構温泉が有名な宿だったからそりゃそうだが、それにしても広かった。

しかも鉄田が居ない完全な治外法権。俺たちは湯船に浸かり、お湯を掛け合い、掛け合い、はしゃぎ尽くした。

風呂を出てからは完全に自由時間となったが、自分たちの部屋から出るなと言われた。しかし、俺は「他の部屋に遊びに行く」のと「枕投げ」がやりたいのだ。その気持ちを藤長たちに共有した。今から全ての部屋の室長を集めて室長会が開かれる、藤長には悪いが室長会をしている時間がチャンスだ。

「藤長、頑張って室長会を長引かせてくれ!俺はその間に楽しみたいからさ!」

「なんだよそれ〜、こっちもそうゆうのしてぇーよぉ!まぁもういいや、仕方ねぇからやったるわ!その代わり絶対誰にもバレんなよ!」

「分かってる、分かってる。ありがとな、藤長。」

「室長会する部屋は結構離れてるからな。それが終わったら、わざと大きい足音を出して戻るから、それ聞こえたら先生たちが戻ってくるより早く部屋に戻っといてな。」

「了解した!!」

「うわ、やばっ!?もう行かなあかん時間やわ。」と藤長は言うとすぐに駆け出していった。そして、俺たちは作戦会議を始めた。初めは乗り気でなかった凌夜も、紬もいる酒井文子のところに行くつもりだと言うと、目の色を変え、作戦会議に参加してきた。

「でも、蓮。アッコたちは俺らが行くこと知らないんじゃないか?」

「それは問題ない。夕食の時、紬に計画を書いた紙を渡しておいた。」

「おぉー!それは用意周到だな!」

「問題は“どうやってそこまで辿り着くか”だ。かなり離れているし…」

「一組と二組の男子の部屋がある廊下の途中にトイレがありますよね。一旦何人かずつに分けてトイレまで行って、全員揃ったら更に奥にある立花さんたちの部屋に行けばいいんじゃないですか。」

「それはいいな。じゃあ早速やろうか。」

俺と荒井くんと数博、凌夜と嬉依斗の二手に分かれてトイレに向かった。トイレに入って、誰もいなかったから凌夜たちに合図を送り、合流した。最後にもう一度本当に誰もいないことを確認し、ノックをして紬たちの部屋に入った。

「お〜ホントに来れたんだねー!」

「いやー、何とかな。バレなくてよかった〜。」

俺達は家の中に上がらせてもらい、楽しく喋りながらUNOとかをやった。あんまり喋ったことがない子もいたが、この時間でここにいる全員が互いに仲良くなれたと思う。思い出話、悪口、噂話、そして恋バナ、ありとあらゆる話がここで飛び交った。こんなに楽しいところに会えないとか、藤長、かわいそうに^^

作戦決行から1時間ぐらいたった。その時、どんどんという音が上から聞こえだした、藤長だ。

「ヤバい、もう先生来るから部屋に戻るよ。」

「いやでも、何人か別の足音も聞こえるからもう近くまで迫ってるはず。今から戻っても間に合わない可能性が高いから、一旦トイレに逃げ込もう。」

現状を冷静に分析した荒井くんの意見に賛成し、「じゃあなー!」と少しだけ控えめに言って、俺たちはトイレに逃げ込んだ。するとそこには曽我部がいた。

まずいと思って後ろを振り返ったが、廊下を先生達が歩いているのが見えた。何か策は……

それを考えようとした瞬間、曽我部に見つかった。

「ん?何だ、お前ら。4人でトイレか?何か怪しいなぁ。男子の部屋がある方とは逆からトイレに入ってきた気がするし〜。」

にやにやしながら曽我部が言ってきた、こいつ多分俺達が別の部屋に行っていたことに気がついているんだろう。

「いや、俺たちは普通にトイレに来ただけだ。」嬉依斗が言い返した。

「そんな言い訳は通用しないぜ、俺が鉄田に言うのが怖いんだろう。」

「まったく怖くないぞ、だっていや、悪いことしていないんだから。」

「嘘を言うな!もし先生に言って欲しくないんだったr」

「証拠はあるのか?」俺は曽我部の言葉を遮って言った。

すると、「アッコってどんな人がタイプ?」という立花の声が聞こえた、その周りからは「気になる気になる〜」といった、紬や文子の声が聞こえてきた、俺と嬉依斗はニヤリと笑った。

「えっとね、私は定番だけど優しい人がタイプだな。“弱みとか握ったりしない人”。」

曽我部は一瞬動揺した後、「チッ。覚えとけよ。」と言い捨ててトイレから出ていった。

数博と凌夜は困惑した様子だったから教えてやった。

「今ここに荒井くんはいないだろ。

何とか隠れて曽我部にも鉄田にも見つからなかった荒井くんがアッコたちを呼びに行って、ああ言わせたわけだ。知ってると思うが曽我部はアッコのことが好きだからな。」

「そんなことがあったのか……」

「それが分かってたから、嬉依斗時間を稼いでくれたんだろ?」

「そういうことだ。もうちょっと遅かったらダメだったと思うから、ナイスタイミングだよ荒井くん。」

ちょうど荒井くんがトイレの中に入ってきた。

「褒めてくれてありがとう。曽我部がアッコさんの事を好きなのを思い出したから、アッコさんたちにセリフを言ってもらったら、うまく成功してみたいで良かった。」

協力してくれたアッコ達たちや荒井くんたち全員とハイタッチをして自分たちの部屋に戻った。

「思ったより足音が響かんかったんや、すまんな。どうやったん?成功したか?」

「最後の最後で曽我部に絡まれたけど荒井くんのおかげで乗り切ったぜ。」

「え?まじか〜。荒井すげーな!でも、こっちも結構会議引き伸ばしたんやで。褒めてくれや〜。」

「そうか、ありがとう。」

「ん〜なんか素っ気ないなぁ。ま、いいや。よし!今から枕投げ始めるぞ!こっちの枕投げしたくてうずうずしてたんやからな!」

「おっけー、じゃあやろう。」

俺たちは俺、数博、荒井くんのチームと藤長、凌夜、嬉依斗のチームに分かれて戦った。

お互いボールなどを投げれるタイプの人がいない。ドッチボールをしていても常によけ続けるだけの俺たちだ。そのせいで一試合一試合が非常に長くなってしまった。まだ四試合目が始まったというところで、隣の部屋から鉄田の声が聞こえた。枕投げをしていたせいでぐちゃぐちゃになってしまった布団と枕を急いで元の位置に戻し、何事も無かったかのように床に座り込んだ。すると、鉄田が入ってきた。

「1、2、3、4、5、6、よし全員いるな。ん?なんかこの部屋匂いがきつくないか?」

「えーっと、それは…芳香剤を使ったんですよ。枕の匂いが、ちょっとあれで。」

「嫌な匂いだったという事だな。分かった。」と言って鉄田は出ていった。

もうじき消灯時間だから、枕投げもできない。特にやることもないから少し喋って俺は寝ることにした。が、他の5人は「朝まで起きてやるぜ」と意気込んでいた。

──トイレに行きたくて起きた。もう日付は変わっているのだろう、真っ暗で目の前のものもほとんど見えない。さっきまで意気込んでいたあの5人はもう死んだように眠っている。トイレをし、真っ暗な廊下を通って部屋に戻ろうとすると、後ろに人影が見えた。あやうく悲鳴をあげかけたが、それが紬だとわかって一安心した。

「わっ!」

「え!?紬、こんなとこで何してるの?」俺は少し声を抑えて聞いた。

「私もトイレに行って戻ろうとしたら、蓮くんの部屋から誰か出てきて、

見守ってたら蓮くんだったからおどかしたんだー!」

「紬だと分かったからあんまり驚かなかったけどね。」

「ちょっと喋っとかない?」

「いいよ!」

それから30分ぐらい紬と喋った。「明日」いや日付が変わっているから「今日」が楽しみだな、という話を主にした。しかし、次第にウトウトしすぎて話に身が入らなくなっていた。

「もう眠過ぎて、これ以上話せそうにないから…部屋戻ろっか。」

「そうだね。じゃあおやすみ!蓮くん。」

そして俺も、他の5人の「墓地」へと紛れ込んだ………

朝起きると枕投げのしすぎで全身が筋肉痛。それだけでなく真夜中にに30分以上も雑談をしてしまったせいで、寝不足がさらに進行してしまっている。

寝不足と筋肉痛はみんな共通だったようで、俺たちはまるで老人でもなってしまったかのようにゆっくりと、食堂に向かった。

朝食を食べた後、俺たちは休む暇もなく、部屋の片付けと荷物の準備をさせられた。

「片付けとかダルすぎるー!!ずっと寝ときたいよー!」凌夜の嘆きが聞こえる。

「それはそうだけど、これが終わったら国際通りに行って、自由に買い物ができるし、もうちょっと頑張ろ!」

と励ましてやった。

……ん?藤長がいない…もしやと思い

「ちょっと俺、トイレ行ってくるー」と言って、トイレの個室を確認しにいった。

「おーい!藤長いるか〜!」

と問いかけてみると、すぐに反応があった。

「こっちは腹が痛いねん!邪魔すんなー!」

俺は「そうか」とだけつぶやき、とぼとぼ自分の部屋へと戻った。徒労だったな。

「みんなー、気づいてたかもしれないけど藤長はトイレにいたぞ。」

「あれ?本当だ、藤長いないじゃん。まったく気づかなかった…」

「おいおい、凌夜、いつも藤長と一緒にいるのに気づいてなかったのかよー。」

「まぁ仕方ないなということで……ところで、もうすぐ出発時間だけど藤長どうするの?」

「そりゃあ、呼ばないといけないけど…でも、俺が行くのはちょっと気まずいから、お前らが呼んできてくれ!」

「じゃあ、僕が呼んでくるよ。」

「お、ありがとな。凌夜。」

凌夜は5分もすると藤長をつれて戻ってきた。

「連れてきたよ!」

「おいおい、お腹痛いのに連れてこられた、こっちの気持ちも考えろよ!」

「まあまあ。誰にも呼ばれず、遅れちゃうよりかは早く連れて来られた方がいいだろ?怒られたくもないと思うし。」

無理やり藤長を説得し、全員でホテルの1階に集まった。鉄田がいつもより長い話をし終わると、国際通りに向かった。

国際通りでは各班自由に行動ができて、昼食もそこで好きに食べることができた。

早速適当な店で昼食を済ませ、買い物を始めた。それが美味しかったのは言うまでもない。俺たちはシーサーグッズや面白いことが書かれたTシャツ、紅芋タルト、ミサンガなど、たくさんのお土産を買いあさり、バッグはパンパンになってしまった。

でもまだ俺はマシな方で、普通より多くのお金を持ってきた人たちは更に荷物が増えていた。

荷物の量が今回の修学旅行での満足度に比例しているのだろうか?いやそんなことは無い、俺たちが1番楽しんでる!

あっという間に時は流れ、気がつくともう空港にいた。

何人かの人は空港まで見送りに来ていた。その中には俺たちがお世話になった、あの老夫婦も混じっていた。

俺たちは老夫婦に向かって大きく手を振り別れを告げた。

そして俺達は飛行機に乗り込んだ。最後にもう一度手を振ると、飛行機が発進しだした。もう飛行機が飛ぶ時に恐怖は伴わないと思っていたが、ちょっぴり怖かった。でも大丈夫。

だって俺の隣には紬が、俺が感じていた恐怖を打ち消してくれた、紬がいるのだから。

「いつもありがとう、紬。好きだよ。」周りの人に聞かれないようにそうささやく。

「うん、私も!」

こうして、俺の長かったような短かったような修学旅行は幕を閉じた。

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