「絶対に起こる事柄の確率は1」
俺が拙い告白をしてから随分時が流れた。付き合ってから1週間ぐらいはお互いに緊張で、付き合う前より話せなくなったりしていた。
だが、次第にそんな緊張もなくなって、クラスでもよく知られたカップルとなった。
今まで通り、学校に行く時と帰る時に話し、LINEも交換し、紬との関係はさらに親密になっていった。
そして、終業式も終わり
「3年生では同じクラスになれるといいね!」
と早くもクラス替えのことについて話しながら家に帰った。
俺は“春休みに紬と沢山遊ぶ!”と決心し自分から紬を誘った。
春休みはほとんど毎日。親には友達と遊んでくる〜といって、いわゆるデートを二人で楽しんだ。
「うわぁ、綺麗な夕焼け!でも、こうやってのんびり夕焼けが見れるのも今日で最後かぁ」
「そうだね。だから今日の残りをうんと楽しもうか。」
もう今日で春休み最終日だ。去年までは家でコタツに入ってずっとゴロゴロして暇な時間を潰していた。
だが、今年は違う。言うならばバラ色の日々をおくったのだ。
今日から新しい学年だ。少し驚かせてやろうと思い、紬が来るのを待つんじゃなく俺が紬の家に向かった。
「わ!蓮くん!来てくれたの〜!?」
「ちょっと驚かせようと思ってね。」
「すっごくおどろいたよ!」
俺と紬は学校に向けて歩き出した。
「同じクラスになれるといいね!」
同じような言葉を終業式の時も聞いたななんて思いながら
「俺たちが同じクラスになる確率は1だから大丈夫だよ」
と冗談交じりで返した。
「そうね。これからの学校生活を楽しみにしとくわ。」と紬は笑いながら言った。そんなことを話していたらすぐ学校についた。
少し早く来すぎたようでクラス替えの紙が配られるのを外で待っていた。
5分ほど待ちついに先生達がクラス替えの紙を生徒に渡しはじめた。俺たちは5番目ぐらいにそれをもらった。
ドキドキしながら白川を探す。
「し、し、あ!見つけた」
その下には白雪紬と書いてあった。
喜ぶと同時に少しほっとした。
「良かった〜」とお互い同時に言い、ハイタッチをした。
「担任の先生は長谷川先生じゃないのか〜。」ため息混じりに俺が言う。
「まぁ、一緒のクラスになれたしいいじゃん!」
「それもそっか。鉄田貴志先生が優しい先生だったらいいなー。」
「そうだね。じゃあ教室いこっか。」
俺達は3年1組の教室へと向かった。
向かう途中、曽我部大雅が「よぉ!白石、白雪。白石とはまた同じクラスだな、今年も仲良くしようぜ。」そう言うと、俺たちの返答を待たず別の所へいき他の人へ挨拶をしていた。
「あ、行っちゃったね。」
「まぁ、あいつせっかちだし仕方ないか。」と言いながら教室に入った。
俺は真ん中の列の前から2番目の席で、予想通り紬とは隣同士だった。しかも、俺の後ろには小学校からの長い付き合いのある田中数博がいた。
そして、その横には田中の双子の妹である敦子がいた。敦子は内向的な性格の数博とは違い、外向的な性格でみんなからアッコと呼ばれている。俺の友人である秋田凌夜は俺の斜め前の席にいる酒井文子に好意を寄せている。酒井はSHRが始まるまでの時間によく居眠りをしている。
凌夜は読書好きで、机の上に常に本を置いていて、隙あらばすぐに本を読んでいる程だ。そんな凌夜とも仲良く接してる。
「席もいいし、クラス替えは最高だな」なんて言っていたら、バンという音が鳴り教室のドアが一気に開いた。
クラスメイト全員が教室のその方を向いた。
見たところ30歳ぐらいの男の先生で、明らかに怖そうな見た目だった。
「ハズレの先生だな」と思い横を見ると紬と目が合った。多分思っていることは同じだろう。
そして、恐らくは鉄田貴志先生であろう先生が話し始めた。
「3年1組担任の鉄田貴志だ。プリント持ってくるから少し待っとけ。」それだけ言いさっさと教室を出ていってしまった。教室はざわついた。さっき俺が思っていたようなことをみんなが口々に言い出す。俺は紬に
「思っていた以上にヤバそうな先生だな」と話しかけた。
「うん。想像以上ね。隣のクラスの大友先生が良かったなぁ。」
大友佳代子先生は去年から教師になった「元」紬の担任の社会の先生で、とてつもなく優しいから沢山の生徒から人気がある。
「これから大友先生じゃなくてこんなやつと一緒かぁ。」と言いかけた時、突然ドンドンという足音が聞こえ始め、クラスの全員がそれに反応するよりも早く鉄田が教室に入ってきた。
「お前らさぁ。もう3年生になったんやぞ。自覚もてよ」薬指についた指輪を気にしながら鉄田が怒鳴り出す。そのまま30分間以上も怒り続けた。
やっとのことで怒りが収まり
「じゃプリント配るぞ。」と疲れた声で一言いい、プリントが配られた。
次に1から5番までの男子が呼ばれ、教科書を運ぶのを手伝わされた。
俺はラッキーなことに8番目だったから助かった。そして教科書も配り終わり、鉄田が「今から始業式始まるから体育館行くぞ。」と言った。時刻は9時をこえていた。
鉄田に急かされるがまま俺たちは名前の順で廊下に並んだ。そして、体育館へと向かった。階段降りるとき、後ろの方のやつらが喋っていたせいで、また叱責を受けた。今回は後ろに別のクラスもいるから、短い時間だったが。
そして、体育館に着く。全校生徒が揃い静かになると校長は話し始めた。
5分、10分、15分と話は右往左往しながら続き20分ほどたってようやく終わった。ここの校長はいつも話が長いなぁなんて思っていると司会が話し始めた。
「他に何かある先生はいますか。」
そう言われるとすぐに鉄田は手を挙げた。誰も手を挙げないと思っていたからか、司会は少し驚いた表情で「では、鉄田先生お願いします。」と言った。
鉄田は走って体育館のステージに上がり、司会からマイクを奪うように取ると早速話し始めた。
「今年からはこの三一四中学校で教師をすることになった、鉄田貴志だ。
俺は3年の学年主任と全学年の生徒指導を請け負ってる。くれぐれも変な真似はしないように。」
それだけ言ってさっさと自分の元々いた場所に戻っていってしまった。
今、ここにいる全員が「この先生ハズレだ。」と思っているだろう。そういえば、隣町の中学の友達が「ウザイ先生が別の学校に行くことになったって!マジで嬉しい!」なんて言っていたのを思い出した。多分こいつのことだろう。
そんなことを考えていると始業式は終わり、1年から順に自教室へと戻っていった。
教室に戻ると鉄田は「座れ」と言って教卓の前でイラついた様子で手を組んでいた。全員が座ったのを確認すると、「今日はこれで終わりだから、早く帰る用意しろ。」と指示した。
帰る用意する時には普段ならクラスのムードメーカーである曽我部でさえも一言も喋らなかった。
SHRで明日の持ち物を言うとすぐに解散となった。明日は実力テストだ。
俺と紬は逃げるように教室を飛び出した。
「ほんとに先生運が悪いね〜」紬が大きな声で言う。
「ちょっと!紬、声でかいって。」紬は申し訳なさそうに声のトーンを落とした。
「やっぱり校長先生の話は長かったね。」
「そうだな、途中から話が脱線しすぎて、自分でも何を話していたかわからなくなってるし。」
すると後ろから田中が話しかけてきた。こいつには俺たちが付き合っていることを一番に伝えた。それぐらい俺はコイツを信頼している。
「れんー!マジで担任ヤバくねーか。なんていうか、嫌われるべくして生まれてきたみたいな。」田中は苦笑いしながら言った。
「もう、なっちゃったもんは仕方ないし、切り替えて頑張るかぁ。」
「そうだな。」と田中は言うと走っていってしまった。見たいアニメがあるから急いで帰るって昨日LINEで言ってたな。
靴箱に着くとそこには鉄田が立っていた。恐らくエレベーターを使ったからこんなに早いんだろう。
ここを通る全ての人に「さようなら」と言っている。俺と紬は小さな声で「さようなら」と言った。
他の生徒もほとんどはそうしている。そんな中ひとり浮いている奴がいた、藤長だ。こいつはいつも返事がでかくすぐ「はいッ!」という。案の定、鉄田にも大きな声で「さようなら。」と言っていた。
「お前、声デカすぎだろ、靴箱中に響いてたぜ。」と俺が言うと
「そんなこと言わないでよー。」と泣き真似をしながら藤長が言う。
「意識してなくても、声が大きくなっちゃうんだからさぁ。」
「それもそうだな、でももうちょっと声抑えろよ。じゃあまた明日な。」
と笑いながら返した。
「おう、じゃあな。」
俺と紬は並んで話しながら帰った。
「明日、実力テストあるし、私の家で昼から勉強しない?ちょうど親もいないし。」
いつか紬の家に行きたいなぁと思っていた俺は
「いいな!じゃあご飯食べたら行っていい?」と即答した。
「うん、いいよ。部屋綺麗にして待っとくね。」
その後はいつもより上機嫌で紬と話した。
家に帰ると
「あんた、最近女の子と一緒に帰ってるらしいじゃないの。」と噂好きの母さんが言った。
「もしかして、あんた私に黙ってこっそり付き合ってるの〜?」
と笑いながら聞いてきた。
「べ、別にそんなんじゃないよ。」とは言ったものの、顔が真っ赤になってしまったから、多分母さんにはバレてるだろう。
「はいはい、そういうことにしておくわね。何か進展があったら教えてよ。」
「う、うん。」と小さな声で返してしまった。
「ご飯、食べたら友達の家に勉強しに行くから!」
「はいはい、分かりましたよ。」
俺は昼ごはんができるまでの間に準備を全部終わらせ、食べ終わるとすぐに紬の家に向かった。
ちょっと早く来すぎたかなって思いながらインターホンを押すと、少しして紬がでた。
「鍵開けるからドアの前で待っててー!」
「おっけー。」
言われるがままにドアの前に行くとすぐにドアが開いた。
「入って、入って〜。」
「お、お邪魔します。」
「そんなにかしこまらなくていいからー。私の部屋は2階にあるから着いてきて。」
階段を上がり、紬の部屋に入った。
勉強机の横にはでかい本棚があり、数学関係の本がズラーと並んでた。
ハイレベルな問題集だけでなく、高校数学の参考書などもあった。
「じゃじゃーん!私の部屋綺麗でしょ〜!まぁさっき片付けただけなんだけどね。」
「うん!想像してたn倍綺麗だよ〜!俺にも部屋の片付け方教えてくれー!」
「良いよー!じゃあまた今度蓮くんの家行く機会があったらその時に教えるよ!」
5分ほど喋ったあと、俺は「じゃ勉強はじめよっか。」と言った。
「それも、そうね。」
そう言うと紬は2人で勉強できるようにと押し入れから机をもってきた。
「力仕事させてしまってすまんな。」
「いやいや、これぐらい平気だよー。」
そう言って勉強道具を取り出した。
5時半ぐらいまで2年生の範囲の復習をした。やっぱり数学を教えるのは紬が1番上手いと思った。
「疲れたなー。」
「そうだね〜。でもこれで明日のテストはバッチリ!2人で1位を狙おう!」
「うん。絶対とろうな!」
そう言って頷いた。
「あ、俺もうそろそろ帰らなきゃ。」
「そっかー…もう帰っちゃうのは残念だけど、今日はとても楽しかったよ!また来てねー!」
「もちろん!じゃあね。また明日。」
俺は余韻に浸るようにゆっくりと階段をおり、ドアを開け、家に帰った。
それから俺は、まだ紬に何の部活をやっているのかを聞いていなかったことを思い出し、LINEで
「明日から部活始まるけど、紬って何部なの?」と尋ねた。
すると、少しして
「私は部活入ってないよ〜。蓮くんこそ何部?」と返信が来た。俺は紬がずっと部活をサボっていると思っていたが違うかったようだ。
「俺も部活に入っていないよ。1年生の時に見学すら行かなかったんだw」
「そうなの!?笑、私は見学はしたけど、よさそうな部活がなかったから仮入部はしなかったなぁ」
「そうなんだ!教えてくれてありがとう!」
気がつくともう夜も遅くなり、「紬とクラスが一緒になれて良かったなぁ」と思いながら俺は眠りについた。
いつもは遅くまで寝ているが、今日は少し勉強しようと早く起きた。が、眠過ぎて勉強に身が入らず早く起きたのは無駄足に終わった。
眠たい目を擦りながら家を出、紬と問題の出し合いをしながら学校にいった。
今日はテストだったからかいつも1番にいる陰キャの荒井悠介以外にも、何人ものクラスメイトがいた。
1時間目は国語だ。
「文法の問題だけ解いとこっか。」
「それ以外あんまり対策出来るところないもんね。」
昨日やった文法を思い出しながら俺と紬は復習をした。
喋りながら問題を解いていると「黙れー」と言いながら鉄田が教室に入ってきた。即座に教室が静まり返った。
簡単にSHRを終わらせ、残りは勉強時間となったが、俺は正直いってほとんど寝ていた。
そしてチャイムが鳴り、休み時間となった。鉄田がいるせいで喋るヤツはあまりいなかった。
「休み時間なのにみんな静かすぎて怖いね。」
「確かにな、どれもこれもアイツのせいだけどな。」と小声で言った。
着席したあとの休み時間は地獄だった。誰も喋らないから暇でしかない。
やることといえばシャーペンと消しゴムを交互に見るぐらいのもんだ。
30分にも感じる時間を過ごしやっとのことで国語のテストが始まった。
文法はほぼ完璧に解け、ほかもそこそこ解けたが見直す体力がなくそのまま眠りについてしまった。
「起きろ。」唸るような低い声が聞こえ、俺は飛び起きた。
そこには鉄田がいた。テスト中だからか、怒鳴らず「ちゃんとテスト受けろよ。」と少し愛情のこもった口調で言われた。
起きたあとも眠気と戦いながら何とかチャイムが鳴るまで耐えた。
チャイムが鳴るとすぐに青谷嬉依斗のとこに行き「嬉依斗、国語のテストどうだった?」と聞いた。
「ちょっと難しいとこもあったけどだいたい解けたよ。てか、蓮、寝てて注意されてなかったか?」
「いやー、そうなんだよね。無駄に早起きしたせいで眠たすぎる。」
「そうかー。本命の数学以外で寝たらー」と笑いながら言われた。
「流石にもう寝ないと思うよ。次は嬉依斗の1番の得意教科の社会だぞー。頑張ってな!」
「そうだな。頑張るよ。」
俺は話し終わると着席した。
試験監督が大友先生だったからみんなチャイムが鳴るギリギリまで喋っていた。
社会のテストでは何とか寝なかった。
嬉依斗に社会の点数で勝ちたかったからだ。見直ししても余った時間は数学の問題を思い出して解いたりした。
「嬉依斗ー!社会のテスト思ったより簡単だったな。」
「範囲が広いから1つ1つの問題が簡単なんだろうね。」
「今回こそはお前に勝つ!」
「勝てるもんなら勝ってみろ!受けてたってやる。」と嬉依斗は言った。
嬉依斗と話した後、残った休み時間を使って英単語を覚えた。テストに出てくれーと願ったが休み時間中に覚えた単語は何1つでなかった。リスニングも長文もあまり分からず、適当に答えを書いた。これは過去最低点更新だなぁと思った。終わってから紬にきくとやっぱり分からなかったようだ。それもこの難易度じゃしかたない。すると藤長が話しかけてきた。
「なぁなぁ、白石は英語のテスト出来た?こっちはまったくできんかったんやけど。」
「いやぁ、俺も全然できなかったよ。リスニングとか一切何言ってるか分からなかった。」
「社会ぐらい簡単やったら良かったのに。」と藤長がぼやいた。
「次、数学あるからちょっと復習するな。」と言い、俺は復習を始めた。とは言ってもこんな短時間で出来ることなんて限られているから、合同条件の確認だけしておいた。着席してからも合同条件を反芻し続けた。
紬は余裕そうな表情で席に座っていた。そして、問題用紙と解答用紙が配られ、始め。といわれた瞬間、俺は問題を解き出した。配られた時に透けて見えた簡単な問題を先に頭で解いていたから、少し時間短縮になった。それから15分程して、ガラガラと扉があき、何か聞き覚えのある声が聞こえた。
「何か質問のあるやつはいるか。」
鉄田だった。誰も手を挙げない。問題の番号が違うというミスにみんな気づいていたと思うが、それでも誰も手を挙げなかった。
鉄田が来てから10分程たって俺は全ての問題を解き終わった。こっそりと横を見ると、紬ももう全て解き終わったようでぐっすり眠っていた。俺も寝ようと思ったが、やめて見直しをすることにした。見直しも終わり「鉄田が数学担当の教師かぁ。とことん運が悪いぜ。」なんて思っていると数学のテストは終わった。
「めっちゃ解き終わるの早くなかった?」
「鉄田が来て、少ししたぐらいに解き終わっちゃって、暇だからずっと居眠りしてたよ。」
「えー!?見直してないのか?」
「そうね。だって見直さなくても多分あってるし〜。」
「やっぱり紬は数学が大得意だな!」
紬はとても嬉しそう顔をしてボソッと「ありがとう。」といった。
かわいいなぁと思いながら喋っていると、鉄田が
「今から、給食だから3列目より前のやつこっち来い。」
呼ばれていくと、適当に給食当番を割り振られた。
俺と紬はご飯を入れる担当になった。たくさん喋りながら入れていると、鉄田に「黙れ。」といわれた。もう俺、目、付けられてるのかなぁと思いながら“黙って”当番の仕事をした。
給食を食べ終わり、昼休みが始まった。俺と紬は一緒の椅子に座って理科の勉強をした。
「理科の範囲は特に広いからどこやればいいか分かんないね。」
「そうだな、とりあえず公式だけでもやっとくか。」
「そうね。V=RI、V=RI、V=RI……
もうこれで理科は完璧でしょ。」
V=RIしか覚えていないのに紬は自信満々でいった。
「絶対完璧じゃないでしょ。じゃあ熱・電気を伝える物体のことをなんていう?」
「え!?えーっと……分かんない!」
「威勢だけは良いなw答えは導体だよ。」
「あ〜、導体ね!い、いや知ってたけどね。わざといわなかっただけだし!」
「ほんとか〜?でも、まぁそういうことにしておくよ。」
楽しかった昼休みも終わり、理科のテストが始まった。覚えていれば解けるような問題ばかりで簡単だった。V=RIも出てきたし、昨日やったところも出たから紬も解けただろう──
「紬!解けたか〜?」
「まぁボチボチ…でも、V=RIが出たのは嬉しかったな〜。」
すると、副担任の白河春菜先生が入ってきて「鉄田先生、今来れないみたいだから帰る用意しててください。」といってまた出ていった。嬉依斗は白河先生のファンクラブ(会員1人)第1号を自称してるぐらい白河先生に惚れていて白河先生担当の音楽があるときはいつも1番に音楽室にいっている。今来たときも嬉依斗は大興奮していた。
全員が着席してから3分後。鉄田が走って来た。
「今日からほとんどの人は部活だからサボらず頑張れよ。では、さようなら。」
そういわれると、みんなは部活に向かっていった。俺と紬は「帰宅部」なので、人がほとんどいない通学路を2人で歩いた。部活をやっている生徒が見えなくなったところで、紬が
「ちょっと急なんだけどさ。」と切り出してきた。
「今、周りに誰もいないし「手」繋がない?」
数秒、言葉が出なくなり、気まずい間が流れた。俺は無言で頷き、紬の手と俺の手を重なり合わせた。
俺は、付き合いたての頃の緊張感を思い出しながら家に帰った。
「あ!おはよ!」
「おはよう。」
「今日はこっちの道から行かない?」そういって紬が指を指した道は、この時間帯にはほとんど人が通らない道だった。手を繋ぎたかったからこっちの道から行こうっていったんだろうな、と思いながら昨日のように触れ合った手を優しく握りあった。
この日以降、俺たちの通学路はここになった。
3時間目は数学のテスト返却だった。まだ信じたくはないが、数学の担当は鉄田だった。授業が始まるとすぐに答えが配られ、テストの返却が始まった。渡された瞬間には見なかった。
紬と同時に見たかったからだ。
紬もテストを受け取りふぅとひと息ついて、席に座った。
「いっせーのーで!」お互いの点数に目をやると、100点だった。良かったぁー!ひとまず安堵した。
「いやぁ100点で良かった〜!まじて、怖かったよ。」
「そうね。私は返される直前になって急に、あそこ間違った気するって思ってたけど、合ってて良かった!」
と話していると藤長が「なぁなぁ白石、何点やった?」と聞いてきた。
「お前が先に教えろよー。」
「え?こっちは65点やったで。平均点超えてて良かったわ〜…じゃなくて、そっちは何点だよ!!!」
「俺はー…100点だったよ。」
「も〜そんないい点数なら言えばいいのにさ!なんで黙ってるんだよ!」
「なんでだろうなぁ。自慢してるみたいになるのが嫌だからかもな。」
「そうなんや。白石、もっと自分の結果を誇れよ!」そういって藤長は去っていった。アイツたまにはいいこというな…
帰りのSHRで成績表が返された。俺と紬は合計442点で、140人中3位だった。
「1位にはなれなかったな。」
「そうねー。ほんっと悔しいわ。」
「まぁでも、これには勝てないよな。」
そういって俺が指を刺したのは1位の人の点数が載っているところだ。そこには合計494点と書いてある。
「この点数を取ったのって多分相澤だな。」
相澤七海は3組で1年のころからずっと学年1位の座を譲らないでいる。
「あんまり話したことないけど、また七海ちゃんに1位の秘訣聞いてみよっかな〜。」
「あ、俺同じクラスだったときに聞いたことあるけど、先生の話ちゃんと聞いてるだけらしいぞ。」
「え〜!?うそ〜!流石にしてるでしょ〜。」
「ま、そうだな。ずっと1位取ってるヤツが自分の手の内を明かすはずないか。」
藤長と帰ろうとしている嬉依斗に
「嬉依斗、何点で何位だった?」と聞くと手をピースにしながら450といった。
「やっぱり嬉依斗が2位かぁ。」
「数学以外だいたい負けてたもんね。」
「でも、8点差なら次は勝てるだろ!」
「そうね、今度は私たちが大差をつけてやりましょう!」
「おい、お前ら、聞こえてるぞ。次も負けないからな!」
「あ、聞かれちゃってたか。」と俺たちは笑いあった。