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旅程もすすんだが、薄暗さもありベノア城はまだ姿をあらわさない。しかし、アルマの鳥の目がもたらした情報では城下町まであとわずか、という場所でひとまず夜を明かした。


「これで最後だ。ちびちび食ってくれ」


エースが皆に干し肉と豆のようなものでできた(ほしい)を配っている。

デュトワを発って二十日あまり、食糧はむしろよくもったほうだろう。


「これからは現地調達だ。ベノアの城下で何か手に入れられればいいが」

「それかあの黒いやつを食べるか、ね」


ウーリャがあとを続けた。

ちょっと頬のあたりが細くなったウーリャの顔をアルマは眺めた。みんな覇気のない表情をしているが、さすがに日頃の鍛え方が違うのか、朝には一定の体力を回復している。一方で、あきらかにやつれたのは小さなキャレリーだ。度々浄化のまじないをかけているので身綺麗ではあるが、わずか十歳の子どもにしては細身で、二つ結びにしていた髪の毛の紙紐もどこかで一つ無くしてしまった。今はひとつ結びに髪を結んでいるが、後れ毛の束が顔の横にこぼれている。


ウーリャの言う「黒いやつ」というのは、市街地に現れるスケルトンとは別の存在だった。森の近くなどで頻出する獣の類いで、その名のとおり全身が真っ黒い。よく出くわすのは暗がりに隠れてエースらを狙う中型の肉食獣だが、黒いやつは一種類ではなく、大型から小型までいろいろな形状のものがいる。小型のものには草食性の種類もいるのかもしれないが、どれも黒い獣毛に覆われていて凶暴な性格をしていて、人間をみかけると大小もれなく襲いかかってくる。


「試してみてもいいかもしれないな」


ぽつりと呟いたのはアルマだ。

それを聞いて、ウーリャは嫌そうにアルマを見た。


「それに、ここの植生だけはまともな感じがする。食べられそうな野草を使って獣肉のスープにしてもいいかもしれない」


ウーリャの視線を気にせずアルマは続けた。


「まともか? これで?」


エースが長靴を持ち上げて見せながら言った。エースの靴の先端は両方とも弾けたように破れて修繕した跡がある。数日前に、森のそばを通った時の被害だ。落ちている白い小さな木の実を踏んだら破裂したのだ。

「だからそれ、ハゼイの実だ」


数日前にやったやりとりを、またアルマが繰り返した。


「爆発するハゼイの実なんてないわよ」


絶対に違うと思っているエースは返事もしない代わりに、ウーリャがアルマに答えた。ハゼイとは、秋に赤い葉と白い実を落とす広葉樹の種類だ。タザランドでは一般的な樹木だが、もちろんその実は爆発などはしない。踏んづけたら小さくパチリと音を立てる程度だ。

キャレリーが数日前の出来事を思い出して小さく笑った。


「あの後大変だったよね。黒いやついっぱい出てきたよね」


可笑しそうに笑いながらキャレリーが言った。

木の実の破裂音を聞きつけて、森から黒い獣がたくさん出てきたため、エースらは戦わなければならなかった。しかもそこらじゅうに白い実が落ちているので、敵味方問わず避けきれずに木の実を踏みまくった結果、爆発する音が景気よく響き渡り続けて、大騒ぎの戦闘になったのだ。牙のあるもの、爪の鋭いもの、高く跳躍するもの。騒ぎに惹かれて次々と湧いてくる獣を倒していくのは、思いのほか手間と時間がかかった。


「なんか今も身体から匂いが取れない気がするもんな」


エースもくたびれたように笑いながら言った。「黒いやつ」はとにかく臭気がすごかった。鼻が曲がりそうな匂いは奴らの一番の武器と言ってもいいだろう。全員の気分が閾値を下回った状態ながら、なんとか耐えて戦闘を終えると、まずは速やかにその場を去った。もちろん、一定の距離ができるとすぐにアルマが全員を浄化したのは言うまでもない。皆のボロボロになった靴や足を縛りのまじないで修繕したのもアルマだ。




「浄化しながら処理したら、なんとか美味しい肉にならないかな……」


アルマが黒いやつを調理することを想像しながらつぶやく。

ウーリャが嫌がるのも、その臭気のせいだ。そこをなんとかすれば、なんとか食料になるのではないか。毒があるものもいるだろうか? 自分が解毒できるレベルならなんとか……。


「ちょっと捌いてみたい気もするし。目が六つもあるやつとか、どうなってるのか気になる」


そんなアルマをウーリャが一歩引いた眼差しで見ている。

異形の獣を毒味するのはアルマの役目になりそうだ。


「というか、どうしてアルマはそんなにふつうなの」


キャレリーがニコニコしながらアルマに言った。

たしかに、アルマだけはやつれていないどころか、旅の初めの頃に比べてわずかに肉付きが良くなっている。


「え? ……三食ちゃんと食べてるからな」


なんでもないことのようにアルマが言った。


「これで三食って言えるのか……」


エースがため息まじりにつぶやき、ウーリャがそっと自分の手の中にある食べかけの糒を見つめた。






「今日はあの丘を目指そう。あそこまで行けばベノア城が見えるんだよな? アルマ」

「ああ。あの丘から城下町の廃墟が見渡せるはずだ。丘までにも廃墟がいくつかあるからスケルトンとの戦闘もあるはずだ。丘に着くのは早くとも夜だろうな」

「丘の下をぐるっとまわっている街道沿いは集落跡が多いから、丘の上で野営するほうが安全そうだな」


エースとアルマが遠くに見える一際大きな丘を眺めて話している。


「このまま行くと大街道はベノアの城下町に入るはずよね。 スケルトンだらけの城下町に入るか、避けるかはあの丘で決めるのね?」


ウーリャが糒を食べ終えて手を払いながら言った。


「そうだな。おそらく回避することになるだろうけど、おおよその迂回ルートが丘の上から把握できればいいんだが」


エースがウーリャに答えた。

アルマがさっさと立ち上がり、野営道具を片付け始めた。

今日も一日、(かち)の旅だ。

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