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トリブ地方に上陸してからは、順調とは言えない旅が続いた。

来る日も来る日もどんよりと薄暗い日が続く。

二日目の終わりには大街道からバージア城が見えたが、大街道から外れて城下街に入りかけた時の状況が悲惨だったため、城もまともではなさそうと全員の意見が一致した。エースらは城には近づかず、バージアの城下町を離れた。そして大街道に沿って聖地のある東へと進路をとった。





城下街の状況というのはこうだ。

スケルトン、歩く腐肉、真っ黒い獣……薄暗く汚れた廃墟群の中を、廃墟と同じく薄汚れた者らがさまよっていた。そしてそれらはエースらの侵入に気づくと無秩序なままに襲いかかってくる。統率された動きではない。何の目算もなくただひたすらに襲いかかってきた。黒い獣のような生き物も、捕食行動かどうかすら怪しい、病魔におかされたかのような妄執ぶりで人を襲撃してきた。一体ずつはそれほど強くないし連携もなにもないので倒すことや逃れることは難しくない。しかし、常に予測不能な襲撃にさらされ続けることは避けたい事態だ。


アルマが上空からの偵察した時の報告から予測していたとおり、それからは毎日のように得体の知れない者たちとの戦闘が続いた。





「なぁ、ウーリャ。 聖地のっ! 中もォっ! こんなふうだったのか!? ……よぉっし、こっちは片付いたぞ」


アルマが飛びかかってくるスケルトンの化け物を薙ぎ払いながらウーリャを呼んだ。


「んな! わけ! ないでしょー! くッ、こっちも! もう終わるわ!」


「!」で言葉を区切るたびに火炎砲を繰り出して、あたり一面のスケルトンを灰に変えながら、ウーリャが答えた。ウーリャは問題なさそうだ。エースはどうだ?とアルマが視線を巡らせると、彼は大街道のわきにある大木の下で背にキャレリーを隠しながら、スケルトンの攻撃を防いでいる。こちらは精霊力ではなく、剣を振るっている。

アルマはすぐにエースの加勢に入り、まもなく二十体ほどいた全てのスケルトンが沈黙した。





市街地を避け、街道を進んでいても、たびたびこういうスケルトンたちの生息区域に入ってしまい、戦闘になった。 アルマが空から見つけたその不思議な形状の亡者たちは、友好的な性質ではなかった。


アルマの考えでは、最初は、スケルトンたちが敵対するかどうかは五分の確率と思っていた。なぜなら、上空から垣間見たスケルトンたちは、エースら侵入者がいないときはまるで人が生活するのと同じように呑気な様子で街の廃墟を彷徨っていたからだ。彼らは人間が生活を営むように、フラフラと気ままに集落を動きまわっていた。


あるスケルトンは家を建てるかのように建材に道具を振るっていた。またカフェだった建物のテーブルを見ると、料理を食べるかのようにカトラリーをカタカタと鳴らす、くたびれた正装のスケルトンが腰掛けていた。そのテーブルを挟んだ反対側では、朽ち果てそうな色褪せたドレスを身にまとったスケルトンが、薄汚れたグラスを持ち上げている、といったふうにだ。


またある場所には、犬だったと見えるペットの骸骨と一緒にリーシュを引きながら歩道を歩いているスケルトンがいたし、かつて理髪店だった廃墟の中には、かつて客だった者の頭蓋骨にハサミをあてている店主のスケルトンがいた。そんな、なんとも滑稽な光景を見てしまうと、もしかしたらスケルトンたちとは友好な関係を築けそうにも思えた。


しかし、スケルトンたちは、ひとたびエースらがテリトリーに侵入したことを察知すると、例外なく凶暴化し襲いかかってきた。


その身体は脆く、獲物もハサミだったりフォークだったりしたのと、動きが単調で予測がしやすいため簡単に無力化することができたが、数が多いために厄介だった。市街地ではトリブ地方の人々の暮らしの痕跡を調べたい想いもあったが、廃墟にはたいてい大勢のスケルトンや得体の知れない物がいるので、長居は無用だった。





エースらがトリブ地方を東に進み始めて、二十数日が経った。

距離にして、まだ聖地までの道程の半分未満の場所にいる。

やはり、当初考えていたよりは時間がかかっている。頻繁にスケルトンらの敵襲があるせいだ。


これまで、生きた人間は目にしていない。集落跡地ではスケルトンと、たまに動く腐乱死体に。市街地を離れると見たことのない黒い獣に出くわすことが増えた。例えば猪を黒くして汚し、さらに巨大化させ異臭を添えて、牙を増やし野蛮な形状にしたような生き物などは大街道沿いの森林に数多く生息していて、一日に何度も、それこそ昼夜を問わず襲われた。アルマが最初に話していた海の超・巨大生物も、時折遠くの海に見ることができた。もちろん、近づきたいと言い出す者はいなかったが。





大街道沿いの人家がない場所を選んで、一行は休憩をとっていた。

エースが軽くなった糧食の袋を眺めながらぼやいた。


「せめて樹の使い手がいればなぁ」

「そうね……」ウーリャが半ば諦めたような投げやりな口調で相槌を打った。

「樹の使い手がいればどうなるんだ?」アルマが首だけ二人の方へ巡らせて言った。

「そうか、そういうのもわからないよな……」エースが言った。そしてキャレリーに声をかけた。「キャレリー、旅をする時には樹の使い手がいると便利なんだ。どうしてか知ってるか?」


キャレリーはアルマと一緒に剣の訓練をしていた。青の塔の子どもらしく、キャレリーも木剣での試合ごっこが大好きで、小さな頃から自然に剣を振るすべを身につけていた。

キャレリーは憲兵のような服装のスケルトンが取り落とした、短めの剣を持たされていた。もちろん付け焼き刃で実戦がなんとかなるわけではないけれど、丸腰でいるよりはマシだろう、とアルマから護身用の剣の使い方を教わっている。まさにアルマとキャレリーが剣を突き合わせていたところだったが、エースに声をかけられたキャレリーの気がそれたので、彼女と切り結んでいたアルマは剣をおろした。


「わかる!アルマぁ、教えてあげるね! 樹の精霊力があるとね、植物の力を借りれるんだよ。それで、植物の力を借りるってことは……」

「あ、わかった。食糧か?」

「正解。果物や野菜なんかに困らなくなる」

「あー、エースずるい。私が正解って言いたかったのに!」

「ははっ、ごめん。キャレリー」


キャレリーがエースのところに駆け寄って抗議しはじめた。


「遠征だと、少なくとも一人はついてくるものなんだけどねぇ。今回は最初から樹の精霊使いがメンバーにいなかったわ」ウーリャが言った。

「本当は樹の使い手のハンホーって奴が一緒に来るはずだったんだけどな……」エースもぼやいた。

「どうせケンジのアホが下剤でも盛ったんでしょ」

「おい、ウーリャ」

「なによ。みんな言わないけど思ってることだわ」


ウーリャの出過ぎた発言をエースがたしなめている。

ふと、アルマが小さな声を出した。


「あ……」


アルマは、以前にもハンホーという名前を聞いたな、と考えていたところだった。

そういえば、そんな名前を名乗った者がいたような……。いつだっけ、緑色の瞳の、朗らかな感じの青年だった……。


「ああ!」


合点がいったアルマは、思わず剣で自分の膝を打った。


——シグルトがキースに出会った日、ヴィクトールの配下にそんな名前の人がいた。

そうか。本来はケンジじゃなくて彼が交渉班に参加する予定だったのか。……下剤を盛られるとは気の毒に。


それにしても、とアルマはケンジのほうに思考がそれた。一体、ケンジは今どこにいるんだろう。我々とどれくらい差が開いているんだろう。……こんな時に騎竜がいてくれたら、どこまでも飛んでいけるのに。そして、ケンジを見つけたらヒョイと掴み上げて連れて帰れるのにな。私が鳥の目で探すにも限界があるし。


「ほら、アルマ!続きやろうよ」


元気なキャレリーがエースのところから戻ってきて、アルマを促した。アルマはまた彼女に注意を向けた。キャレリーは真剣を扱っていることにも動じず、拾い物の短剣の鍔をかちゃかちゃと振り鳴らして催促している。どうやらボロボロのスケルトンと同じく、キャレリーが持っている短剣にもガタがきているらしい。


アルマは真顔でキャレリーに手を差し出した。そして「なに?」と不思議そうな顔のキャレリーから短剣を受け取ると、まじないで短剣の柄と鍔と刀身をしばって修繕し、またキャレリーに手渡した。


——また明日、鳥みたいなヤツの目を借りて探してみよう。後方も含めて、範囲を広げて……。気味悪い奴だから……あまり気が進まないな。でも、私がやらないと。


そんなふうに考えながら、アルマは剣を構えてキャレリーと再び向き合った。





✁ ✁ ✁ ✁ ✁





あいかわらず見るもの全てが不鮮明な薄暗がりの中で、アルマの意識が地上に戻ってきた。


かろうじて夜が明けているとわかる曇天の中、アルマは自分自身がぼやけた白光を見上げた姿勢のままだったことに気がついた。しばらく前に夜が明けて、十分な光量を確保できたと判断したたことから、アルマがまた怪鳥の目を借りて偵察を行ったところだった。


皆はもそもそと糧食を食べながら上がらない士気をかき集めているところだ。アルマが皆のところに戻り、偵察の結果を皆に話したが、特に何の成果もないということで、皆の士気がさらに上がることはなかった。


「ここより東へ徒歩二日ぐらい行くと大街道沿いに城らしきものがある。そのあたりまで見てきたけど、人影は見当たらなかった。城の周りには城下町や集落があるから、これからスケルトンたちの数は増えてくるようだ」アルマが言った。

「位置的にみてベノア城で間違いない。ようやくトリブ地方の中心地まで来たってことだな。二日分ってことは、五日分くらい先行しているはずのケンジたちは城より先まで行っている、か……? スケルトンだらけの城下に立ち寄る理由もないよな……」エースが考えながら呟いた。




「ところで、今回は見落としも考えられるかと思って、少し西に戻って飛んでみた。それで分かったんだけど」アルマが言った。そしてそこまで言い終えると喘ぐように息を継いだ。まだ、視界を借りていた怪鳥に対する不快感が拭えないようだ。今回も青ざめた顔をしている。「我々が破壊してきたスケルトンが、復活してまた以前のように廃墟を彷徨っていた」

「えー、本当かよ」エースがうんざりした様子で言った。


ウーリャはそれを聞いて、糧食を口に入れるのをやめた。アルマの話には返事をせず、黙ったまま考え込んでいる様子だ。

「ウーリャ?」アルマが彼女に声をかけようとすると、ウーリャはアルマを目の端で捉えて(わかっている)というようにみじろぎした。


「……よかった。……そうね、よかったのよね」


ウーリャの口から小さな呟きがこぼれた。

たまらずもれたようなその言葉に、アルマがちょっと首をかしげた。

ウーリャが気まずげに言葉を継いだ。


「ずっと考えているのよ。トリブ地方に残っていた人たちがどうなったのかなって。私たちがいるここが異相(いそう)なら、現実の世界が他にあるんじゃないかって。トリブ地方の民が生活している現実の世界が別の場所に存在するって信じたい。だけど、もしそうじゃなかったら。私たちが倒しているあのスケルトンが、元々はトリブ地方に残ったタザランドの領民だったらどうしようって。トリブ地方の領民の多くが山のタザランド側へ渡ったけど、故郷を見捨てられない人たちもたくさんいたから……」

「ウーリャ、お前、まさかあのスケルトンが町に残った人間だと思っているのか?」エースがウーリャの言葉に驚いて聞いた。

「そりゃ、私だって違うと思いたいわ。……でも、私たちに気づいていない時の奴らの行動を見てるとさ、妙に人間臭いじゃない? ……考えずにはいられないわ」ウーリャが弱々しく言った。


キャレリーが何かを察して、自分の持っている剣に目を落とした。


「スケルトンさん、これがなくて困っているかなぁ」

「キャレリーまで……。気にするなよ。奴らは何も考えていない、ただのバケモノだ。なんなら全員分の武器を取りあげればよかったくらいだ」


エースが重い空気を切るように強い口調でキャレリーに言った。


キャレリーが手にしている剣は、倒したスケルトンの残骸から拝借したものだ。剣を失ったスケルトンは、復活したあとはどうしているだろうか。キャレリーは悩ましげな表情のままだった。

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