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青の塔。日付が変わって滞在五日目の深夜。

交渉班の一行が、広場で銃の実演をした日の夜も更けた頃だった。

カナトコ亭の清潔なベッドの上で、アルマは目を開いた。

金属音と怒号のような声が微かに聞こえた気がして、すぐに寝床を出た。


——昨夜に続いて今夜もか。盗賊らも連日ご苦労なことだな。


隣のベッドで子どものようなあどけない寝顔で眠っているウーリャを一瞥して、アルマは静かに素早く剣と銃を身に付けた。チュニックとズボンで寝ていたので、服装はそのままで大丈夫だ。


部屋を出るが通路には誰もいない。そのまま宿の一階へ降り、誰もいない帳場の横を通って宿の外に出てみる。北の方角にある上流の橋のあたりが騒がしいようだ。


しばらくすると半鐘の音も響いてきた。半鐘で目を覚ました人々があちこちで動く物音が聞こえ始め、アルマらの部屋の隣の部屋からブライアが窓を開けて顔を出した。


「そこにいるのは、アルマか?」


ブライアは下の道路にいるアルマに気付くと一度顔をひっこめ部屋の中に向かって何か話していたが、続いてエースが顔を出した。


「行きますか?」


アルマが宿の前の道路から二階のエースを見上げて、端的に尋ねた。


「また北側か。上流の要塞橋のほうだな。行こう、すぐに降りる」


エースが北の方角を眺めたあと、アルマに言った。





ブライア、エース、ケンジとアルマの四人が北の橋のたもとまで駆けつけると、半鐘の音は既に止まり、襲撃者の影も見えなかった。しかし、壁のまわりでは警ら隊が右往左往していて混乱した状況が伺えた。


「私はタザランド城からの使いの者です。簡単な治療ができます。怪我人はいますか?」


アルマの問いかけに、そばにいた警らの男はとりあえず大声で確認をとった。


「あんた薬師か? ありがたい。 おーい、怪我人どこだ!治療するってよ!」

「壁の外に一人倒れてるの見たぞ!」

「ここにも怪我人がいるぞー!動けるが出血がひどいようだ」


アルマはとりあえず急を要しそうな症状の怪我人の方へと急いだ。

ブライアは警ら隊の詰所へ情報収集に行き、エースとケンジは人手の必要そうな場所へと散った。


ブライアが詰所で話を聞いたところによると、襲撃してきたのは昨夜とは違う集団らしく、最近台頭してきた盗賊団の頭らしき人物の目撃証言があるとのことだった。盗賊らはまず北の城砦橋の下を強行突破して、壁から最も近い武器商人の家を襲い、そこの武器類が軒並み奪われたということだ。武器商人の息子が一人行方がわからなくなっているそうだ。


エースとケンジが警ら隊の詰所に勢い込んで入ってきた。


「盗賊らを追跡しているんですか? 子どもが拉致されているかもしれないんですよね?」


エースがブライアに尋ねた。ブライアは北の警備を任されているキーガンという男から話を聞いているところだった。キーガンのところへは次々と各所から伝令が訪れて情報を落としていき、指示を得て出ていく。


「いや、壁の警備に追われて人員が割けない。被害の確認と襲撃の状況把握が先だ。奴ら襲撃のどさくさに紛れて壁に細工したりしやがるんで調査を優先する」


エースの言葉に答えたのはブライアではなく、ブライアと話していた警ら隊長本人のキーガンだった。


「子どもは殺されても仕方ねーってことか?」


詰所に入ってきた勢いそのままにケンジが発言した。


「ケンジ落ち着けって。キーガンさんすみません、俺らちょっと現場の雰囲気に呑まれちゃって興奮状態で……」


エースが顔を真っ赤にしてケンジの暴言を庇っている。

ケンジは憮然とした態度でキーガンを見つめているが、自分が冷静さに欠けている自覚があったのかエースの言葉を聞いて黙った。


「気持ちはわかるぞ天パの小僧。だがな、よく聞け。子どもだからって被害者とは限らねえ」


キーガンの言葉にケンジの熱が一気に下がった。


「今夜襲撃してきたのは『闇狩りの要塞(ギャリソン)』って奴らで間違いなさそうだ。頭を見かけた部下がいる。奴らの目的は金と剣と、闇の子どもだ。ギャリソンは闇の子で構成されていて、その名の通り要塞のように強固な組織を作っている。青の塔の岩場に潜んでいる、夜盗集団の中でも最も手強い奴らの一つさ。手際の良さから見ても深追いは無駄だ」


キーガンに諭されていると感じたケンジが、悔しげに下唇を噛んだが、何も言わなかった。





その時、少し離れた場所でどよめきが上がった。


「なんだ?」キーガンが訝しむ。


騒いでいる位置から、原因を察したエースとブライアが視線を交わした。


「すげえ!こっちは完全に傷が消えてる!」

「俺もだよ。全然痛くねえぞ!?」

「大袈裟な。私にできるのは応急処置ですから。深いほうの切り傷は塞ぐのが精一杯です。 暴れたら開きますよ。次」

「お、俺も頼めるか。右腕を切られた……剣が握れねえ」

「はい…………、もう大丈夫でしょう」

「おおお……。手が動くぞ! これでまた警備につける……ありがとうよ……!!」

「さすがに手足がなくなったら生やせませんし、死んだら終わりです。大事にしてください。はい次」


騒ぎを聞いて、治療にあたっているアルマのもとにキーガンが向かったので、エースはキーガンと並んで歩きながら、そこに着くまでにアルマのことをかいつまんで説明しなければならなかった。





✁ ✁ ✁ ✁ ✁





滞在五日目の朝になった。


今の季節、砂鉄採取の子らの朝は早い。

水はまだ少し冷たいが、日差しが十分に暖かくなってきたからだ。

川の本流の横に掘られた砂鉄採取用の水路型の小川にはたくさんの人が入っていた。三々五々、小川の中に散らばって砂鉄を採っては、岸に運ぶ作業を繰り返していた。


「おはよう!ケンジ。ふふ、今日も来たね」


河原で膝までズボンを捲り上げて、砂鉄採りの身支度をしていた女の子キャレリーが、やってきたケンジに声をかけた。キャレリーは朗らかでちょっと怖がりな性格の女の子だ。水に入るのが怖くていつも小川の最下流で堆積して水面から出たぶんの砂鉄をとっている。ケンジは無言でキャレリーに頷いて通り過ぎる。探している少年らの姿はもうすでに川の中だ。川の中で頭を突き合わせて川底をさらっている三人の少年を見つけると、ケンジはぞんざいな仕草でズボンを膝まで捲り上げ、道具も持たずに川に入って行った。昨夜の盗賊騒ぎで寝不足なのに加えて、キーガンという警ら隊長に小僧扱いされたことが、彼を朝までずっとイライラさせていた。


「ケンジが来たぞ。どうすんのオシン」

「うん。彼にも話そうと思う」

「まじか! あいつはタザランド領主と繋がってるんだぞ!? やばいだろ」

「だからギリギリまで待ってたんだよ。おはよう、ケンジ。待ってたよ」


オシンと呼ばれた細身の少年が、身体を起こしてケンジに笑いかけ、声をかけた。

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