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「もう入ってもいいですか?」


開いたドアの隙間から顔を出した若者が言った。


「エース、締まらないわね。ノックしたら返事を待つものよ。……いいわよ。入ってらっしゃい」


ウィリアムが呆れた口調で若者に向けて言ったが、その目はアルマを見つめたままだ。ウィリアムはアルマのあいまいな了承の返事を聞いて、ニッと口角を引き上げた。


エース、と呼ばれた若者が赤面しながら部屋に入ってきた。続いてレオネロ、その後ろから朴訥な印象の青年、の全部で三名が部屋に入ってきた。最後に入ってきた青年は大きな木箱を運んでいる。

レオネロが一同を見回して口を開いた。


「お待たせしてすみません。やっとひと段落ついたものですから」

「こちらこそ、忙しいところお呼びたてして申し訳ありません。早速ですが貴重なお時間ですから進めさせて頂きますね」文官のブライスがレオネロに答えながら二人に席をすすめた。


レオネロと青年の二人がアルマの斜向かいの長椅子に腰掛け、エースはウィリアムの後ろに控えた。


「アルマさん、お久しぶりです。工房で会って以来ですね。こちらはうちの工房の導具の組立てと霊力機構の組込みを任せているブライア・スミラックスです。腕のいい霊導具職人ですが、これからは武器専属の工員となりそうです。早速ですがアルマさんに試作品を見て頂きたくて。ブライア、箱を出してもらえますか」


ブライアと呼ばれた青年が運んできた箱をテーブルに乗せて、開いた。

箱の中には布が厚く敷かれ、長身の銃が二丁とそれらよりひと回り小さな銃が一丁入っていた。


レオネロは使い込まれたほうの長身の銃を手で示した。


「まずはこちらのお借りした銃をお返しします。後ほど部屋に届けさせますね。で、見て頂きたいのがこのアルマさんの銃の複製品と、さらに複製品を魔導具として改造した銃、我々は『ドリアグナ』と呼んでいます。意味は、我らの古い言葉で、竜の武器、です」レオネロが言った。

「竜の武器、ですか……。私の銃の複製品に比べて『ドリアグナ』の方は、ずいぶん小さいんですね……」

「ええ、照準を合わせた相手に対して追尾する機構を組み込んでいます。それで銃身を短くできました。加工には土の精霊力、威力には火の精霊力を使っています」

「試してみたいですね」

「ではこの後にでも。私も鍛冶士集団の説得のために『青の塔』にご一緒したいのですが、銃とドリアグナの量産のためには工員を出来るだけ多く訓練しなければなりません。この銃のことならここにいるブライアがなんでも分かりますので、どうぞ彼に詳細を聞いて下さい」

「スミラックスさんが交渉班に加わるんですね。どうぞよろしくお願いします」


アルマがブライアに手を差し出し、ブライアが神妙な顔で握手を返した。


「どうぞブライアと呼んでください。家名を呼ばれるのに慣れていないので。土の精霊力の使い手です。よろしくお願いします、竜の姫様」


アルマは無骨な職人の手を握りながらにっこりとブライアに笑いかけた。それから横に並ぶレオネロとその後ろに立つエースにもその笑顔を向けた。


「私のこともアルマと呼んでください。ブライアさん。エースさんもよろしくお願いします」


エースが慌てたように頷いた。一瞬でその顔が赤らんだが、その明るい茶色の瞳はしっかりとアルマを見つめている。


「ええと、ウィリアムさん。さっきレオネロさんが言った『青の塔』というのが、今回の?」

「ええ。話を戻してくれてありがとね、アルマ。鍛冶士の集団が住んでいる場所が、地図で言うとここ。パストラル山脈がこう南北に走っていて……その南の端ね。ここが青の塔と呼ばれる、非常に険しい山なの」

「山に、塔があるんですか?」

「いいえ、実際に塔が建っているわけではないの。塔みたいな岩山がいくつも聳え立つ場所のことを『青の塔』と呼んでいるの。連中はここの土じゃないと良い鉄が取れないとか言って、この断崖絶壁が林立する中に集落を作って生活しているのよ」

「わかりました。……それで、ブライスさん、交渉班の出立はいつごろになるのでしょうか」


アルマがウィリアムからブライスに視線を移して言った。


「明日です」


文官のブライスはキリリと顔を整えて言い放った。

ブライスの言葉にアルマが愛想笑いを貼り付けたまま、固まった。


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