お互いの得意科目と不得意科目
「あれ、今日は本読んでないんだ?」
いつも通りふたりきりの図書室で、僕は珍しく参考書とノートを開いていた。
「次の外部模試でそれなりの結果を出さないと塾に入れられそうなんだよ」
「厳しいんだね。そういえば佐藤くんって成績良いの?」
「まぁ悪くはないよ。吉川はどうなの?」
「私は結構良いよ。国語も英語も社会も学年一桁!」
「え、すごいね。ちなみに数学と理科はどうなの?」
「……国語も英語も社会も学年一桁だよ!」
二人の間に沈黙が訪れる。
虚勢を張る吉川になんとなく気まずくなって目を逸らす。
「いいじゃん別に! 私文志望だから関係ないし!」
「まぁそうなんだけど、なんでも卒なくこなしそうなイメージだからちょっと意外だった」
「だってさ、ベクトル? インテグラル? 何なのそれ。もうちょっとわかりやすい言葉で言ってくれないとわかんないよ!」
「数学は言語だから吉川ならコツさえ掴めればすぐに出来そうなんだけどな」
「出たよ『数学は言語』! 数学得意な人ってみんなそれ言うよね。私としては伝えたいことも満足に伝わらないような自由度の低い言語は使いたくないんだけど!」
「……数学に何か恨みでもあるの?」
「高校生初めての夏休みの前半を補習でつぶされた恨みは忘れない……」
どうやら遺恨があったらしい。
「まぁこれから困ったときは僕が教えてあげるよ。こう見えて数学も理科も……ついでに英語も学年一桁だからさ」
「おー! さすがだね。ちなみに国語と社会はどうなの?」
「……数学も理科も英語も学年一桁だよ」
僕の言葉に吉川はくすりと笑った。
「なんでそんなに本読んでるのに国語不得意なの? そっちの方が不思議なんだけど。じゃあこれから国語と社会は私が教えてあげるね。私と違って受験で必要だろうし。数学と理科は定期試験前にちょこっと教えてもらおうかな」
吉川の暖かく見守るような目に気恥ずかしくなり、顔を背けつつ「よろしくお願いします……」と小さく呟いた。