夏休みの予定
「佐藤くん、もうすぐ夏休みだけど休み期間中はここにくるの?」
「来るよ。特に予定もないし、宿題も片付けなきゃいけないから一石二鳥」
うちの高校は宿題が多い。計画的にやらないと後で痛い目を見る。一年生の頃に経験済みだ。
この図書室は混雑もせず冷房も効いていて快適。本という誘惑はあるものの、種々の娯楽にあふれた自室よりはマシだろう。
「そっかそっか。友達とどこか行ったりしないの?」
「長期休み中にまでわざわざ会いたい友達はいないかな。少なくともここに来たら吉川には会えるわけだし。来るでしょ?」
「ま、まぁそうなんだけどね」
僕の言葉を聞いた吉川はなぜか顔を赤らめ、焦ったような様子を見せた。
「吉川こそ予定はないの? どこか遊びに行ったり」
「私の友達は部活やってる子ばかりだからなー。試合とかで忙しいみたいでほとんど予定ないよ」
「なんだ吉川も同じじゃん」
「そうだね。せっかくの高校二年生の夏休みなのにね。来年は受験生だからほとんど遊べなさそうなのに」
そう言ってしゅんと項垂れる吉川の様子は、そこはかとなく寂しそうに見える。
吉川にはこういう表情はして欲しくないな。
何か僕に出来ることはないだろうかと考え、一つ思いつく。
「そうだね……実質最後の夏休みにどこにも行かないのも寂しいし、どこか一緒に遊びに行こうか」
僕の言葉を聞いた吉川はぱっと顔を上げ、たんぽぽが咲いたような笑顔を見せた。
「うん! 行きたい!」
「じゃあせっかくだからこれからどこに行くか決めよっか。地域情報誌みたいなのはないかな」
「さすがにここにはないけど、パソコンがあるから一緒に調べようよ。――楽しみだね!」
てくてくと前を歩いていく吉川。その歩調は軽やかで浮き立っている。
こちらまで嬉しい気持ちになるが、追いかけようとしてはたと気づく。
勢いで誘ってしまったけど、これってデートってやつでは?
今さらながら感じた緊張を誤魔化すように吉川のもとへと急いだ。