本棚を見られるのは恥ずかしい?
「ねぇ、本棚を見られるのって恥ずかしいっていうでしょ? あれってなんでだと思う?」
ちょうど本を読み終わった頃、ふたりきりの図書室で吉川が尋ねてきた。
「そうだなぁ、吉川はどうなの? 恥ずかしい?」
「うちは家族で本棚を共有してるからあんまりそういう意識はないなぁ」
「なるほどね」
「佐藤くんはわかる?」
「うん、まぁちょっとわかる気がする」
「ほほぅ? じゃあ佐藤くんに教えてもらおうか」
確かに想像すると恥ずかしい気がするが、なぜかと問われればあまり考えたことがなかった。
漠然とした答えはすぐに見つかったが、雰囲気を言葉で語るのはなかなか難しい。
それから一分ほど考え、これなら伝わるかなといった答えがようやくまとまった。
「あくまでも僕の考えだけど、自分の本棚にはこれまで生きてきた軌跡みたいなものが刻まれているからなんじゃないかな、と思う」
「軌跡?」
「うん、本棚を見られるってことは、その人は本を読む人ってことでしょ? そんな人は多少なりとも読んだ本から影響を受けがちだと思う。そういうこれまでの自分を形成するものを一方的に見られるっていうのは……ほら、夕方の公園でなんとなくセンチメンタルな気分になって、普段は言わないようなことまで語っちゃったときの心境みたいになりそうじゃない?」
そこまで言って吉川を見ると、彼女は納得したような顔で頷いた。
「うんうん、よくわかったよ。確かにそれは恥ずかしい」
「わかってもらえてよかったよ」
なんとか伝わったことにほっとしていると、吉川が「ところでさ……」と呟いた。
「なに?」
「さっきの具体的な例えは、そういう経験があるのかな? 今はそっちの方に興味津々なんだけど」
「……うるさいなぁ」