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9/9

平原の■■■■■ 続行







 ーー揺れが、収まらない。さっきから断続的に揺れが発生し続けている。一際強い揺れに思わず体のバランスを崩しかけた。


 「揺れてる……?地震かな?」


 「そうですわね、結構大きい地震のようです。立っていると危険です、しゃがみましょう」


 「ああ……これだけ大きな地震だと、しばらく動くのは危険ーー」



 その時、上昇した頭脳の補正値のお陰か妙な違和感を覚えた。いや、違和感は考えてみればずっとあった。それが、今繋がっただけで。



 ーーにしても、最近平原行ってる時地面揺れるよな……でかい地震でも来るんかね?


 ーーアブルっているだろ?あいつがこの前から行方不明らしいぞ


 ーー気力関知もぼやけた曖昧な()()しか関知していない。何にしても、これで終わりだった。



 記憶がぐるぐると駆け巡る。


 この地では何百年も地震は起こっていない。それなのに急に多発する揺れ。そして、恐らく平原を出て行方不明になったアブル。妙にぼやけた今も感じる曖昧な気力。



 ヴォーパルウルフを見る。死んでいる。


 そうだ、ヴォーパルウルフはもう氷の槍で死んでいる。なら、ぼやけた曖昧な気力は、()()()()ーー!



 その考えに至ったとき。目の前の地面が、()()()


 そして、割れた地面をまるで噴水のように吹き飛ばして、その中から巨大な()のような魔物が姿を現す。


 「………っ!全員、やつから離れろ!」


 正直、俺はその大きさに目の遠近感が狂ったんじゃないかと本気で思った。蛇のような魔物は体の半分がまだ埋まってるように見えるのに、露出してある部分だけで俺の身長四つ分もありそうだったからだ。


 身長四つ分。つまり、六ラード中程の大きさだ。もっと分かりやすく言うと二階建ての家ほどの大きさ。もちろん、当然大きさに見合う重量も備えているだろう。


 ーー端的に言う。こんなのとまともに戦ったら突進にかすっただけで昇天だ。間違いなく、()()以上の魔物……!



 容貌は完全に蛇のそれだが、口元に鋭利な歯が二重に生えている。噛みつかれたら骨も残らなさそうだ。

 目がない。ーー目がないのに、どうやって俺たちの場所を知ったんだ?



 そうだ、そもそも土の中にいてどうやって俺たちの位置をーーっ!?



 「っぐぅぅう」


 まるで、隕石のような衝撃。頭を俺に向けて振り回しただけ、それだけで危うく次の人生を始める所だった。


 「クルーダ、大丈夫!?」


 「大丈夫!ギリギリ避けられた!」



 ユファーナが心配そうにこちらを見ている、それに片手をあげて答える。が、これはどうするか……?



 首は太すぎて、刃の長さが足りてない。

 そもそも上級以上の魔物には再生能力がある事もある。迂闊に挑めば死しかない。「コラム」を読む時間が欲しいが、それにしたってこいつの名前が分からなければ意味もない!


 「誰か、この魔物を知ってるやつとかいるか!?返答は知ってるやつだけ答えればいい!」




 無言。軽く絶望した。誰も知らないとは……

 俺は中級の試験で何故こんなのと戦っているのだろうか。しかも連戦。この世の不運を集めたかのような不運だ。



 攻めあぐねた事に腹が立ったのか、蛇は下半身を土からさらに出す。その大きさは、圧巻の全長十三ラード。さっきまでは穴から顔を出していたので縦に長さがあったが、全身を出した蛇は横に長い。




 こんなのを対等なランクの冒険者は五人で倒すって言うのか?人間を辞めている。あまりにおかしい存在だ。




 ………魔力の反応が蛇からある。何をしようって言うんだ?蛇の鱗が、開かれて。ーーッ!



 反応できたのは、奇跡だった。

 頭のスレスレを通る血弾に冷や汗が止まらない。もしあれに毒が含まれていたらかすっただけでも危険だ。


 血弾が触れた地面が溶けている。それを見て背筋が凍った。


 ふざけている、近よっても即死の突進。

 遠距離には血弾。


 極まった強みを傲慢に押し付けられている形だ。シンプル故に対処が出来ない。


 どうする、どうする。どうやって。


 思考がグルグルと回る。俺だけに攻撃が来ているわけでもない。血弾のばらまきは全方位に発射されている。

 このままでは………全滅する。



 「しまった!?」


 血弾に回避するのに集中して、突進の予兆を見切れなかったのかヴォルケが叫ぶ。


 絶体絶命、一人でも欠ければ動揺で全員が危うい。だが、突進がヴォルケに当たることは無かった。




 「全く!世話が焼けますの!」


  マスフィの魔法だ、幻惑によりヴォルケの方向を見失ったようで蛇は戸惑っている。


 「マスフィ、この魔法って何秒持つの?」


 ユファーナが問い掛ける。そう、魔物の級が上に上がるほど魔法の威力は減衰される。

 相手はおそらく災害級~上級だ、そう長くは持たない。


 「ほぼ全部の魔力を使いましたが……正直二分ギリギリ持つくらいでしょう」


 マスフィは苦虫を噛み潰したような顔だ。

 無理もない。魔力を使いきったら緊急回避の方法が一つ消えることになる。状況は悪くなる一方だ。




 ヴォルケが息を切らせながら口を開く。



 「マスフィ、たっ助かった……ハァ……ハァ……」



 息苦しそうな呼吸をしているヴォルケを一瞬見たあと、サテファが顔を上げて言った。



 「取り敢えず、今の隙に一度集まるわよ。策と言って良いかは微妙だけど、考えがあるわ」



 何かを思いついたらしい。策、策か。この状況って策でどうにかなるものなのだろうか。


 「それで、策とは一体……?」


 そう言うと、若干申し訳なさそうにサテファは俺の方を見る。ーーなんだ?何を言い出す気なんだ?


 戦々恐々としていると、サテファが遂に口を開いた。


 「クルーダの身体能力が高いのって()を操作しているからでしょう?」


 「そうだが……それが何だって言うんだ?」


 「気と魔力は通常反発しあう。だけれど、その二つを練り合わせて使用する技術があるのよ」


 ………知っている。スキルを探しているときに「相剋合一(そうこくごういつ)」というスキルがあった。


 通常どちらしか発動できない気力操作と魔力による身体強化を同時に行う技術。必要ポイントは驚愕の五百ポイントだ。


 思うに、必要ポイントと取得難易度はある程度関係性がある。その仮説から考えるとこの技能はとんでもない難易度なのではないか?

 そう簡単に使える技術だとは、思えない。



 「相剋合一の事か?俺は魔法の修行なんて積んでいないぞ」


 「えぇ、だから()()()()()()()()それを無理矢理取り込む事で発動させるわ」


 「どういう、事だ?」


 「つまりーーてわけ。」


 サテファが言ったことは、つまりこういう事だ。

 俺が気力を体外に集め、出す。そしたらその気力の塊に魔法使い四人が各々の魔力を混ぜる。そしたらその性質が均等に混ざるように俺たち五人で調整する。


 調整が終わったら、再び俺の中にその魔力と気力が混ざった力を入れる。


 だが………リスクもあった。


 力が合わさっているのは一分が限界。そして強すぎる力に体が耐えきれず自傷前提になる上効果が切れると反動で気力も魔力も扱えなくなるときた。


 何より、ぶっつけ本番でやった事がない事に挑戦するというのが最高にクレイジーを極めている。



 一人では難しい練り上げの作業を五人で行うことで簡素に、しかしその代わりに効果時間が短く切れたら反動もある……さながら急造相剋って感じの技術だろう。


 「正直、クルーダ頼みの博打だわ。どうなるか分からないし、そもそも相剋合一が完成しないかもしれない。それでも、やる?」



 「分かった、他に策もないし時間もない。」



 ーーやろう。

 

 幻惑が解けるまで一分前後。

 グダグダしていられる時間はーーない。


 ーーーーーー


 


 俺は、静かに覚悟を決めた。




 ⏩


 相剋合一は気力と魔力の乗算不可能な性質を、乗算可能な性質にするスキルとして表現されている。本来、気力という生命由来の力と魔力という力は反発し合う。それらを個人の体内で反発することなく合成する事は非常に難易度が高い。


 この技術を入手したものは、生涯敗北を知らないとまで言われる。体外に気力を発し他の魔法使いの魔力と合わせる事で擬似的にこれを行うことが出来るが、本来のそれと違い持続時間、デメリットなどの問題点が多い。


 その上魔法などで体内の魔力濃度を変えられれば一瞬で解ける上、そもそもそんな力量を持った者がいるなら普通に戦った方がいい。


 それでも使う機会があるとすれば、己よりも格上の存在に一矢報いる時くらいだろうか。


 ⏩





 本来混ざらず反発するはずの力が一つになったのを感じた。


 

 ーー力が、沸き上がる。

 それと同時に、体から刻一刻と相剋の力が極少量ずつ気と魔力に分解され、淡い光となって俺の体から漏れ出てくる。


 「クルーダ………」


 ユファーナが魔力切れで青白くなった顔を見せながら心配そうに見つめてくる。


 「ユファーナ、勝ってくるよ。後を頼んだ。」


 できるだけ、不敵に見えるように微笑んだ


 制限時間は一分。余裕はない。俺は地面を踏みしめ、敵との距離を詰める。速い、自分で自分が出した速度に驚く。視界が一瞬で敵の近くにワープする。


 一瞬で空いていた距離は零となり、俺はやつと相対した。今さらのように動き始めるが、もう遅い。


 蛇の下半身を一撃で切り飛ばした。


 呆れるほどの火力とスピードだ、自分でも驚く。

 だが。



 「再生、持ちかよ……!」


 切断した断面が動き、癒着。

 蛇は再び万全な身体を取り戻して俺に尾を叩きつけようとする。


 ーーしかし。


 「それは!残像だっ!」


 返す刃でもう一度切り飛ばし、今度は癒着されないように遠くに弾き飛ばす。結局のところ。


 「再生されても、それが間に合わなくなるまで刻めば!」


 

 頭部をすり抜け、胴体を踏みつけ、牙を避ける。

 その全ての動作にーー斬撃を付け合わせる。残り三十秒。突進を避け胴体を切り飛ばした。


 「ッ!?」


 切り飛ばした胴体から血の雨が俺に降りかかる。それを死に物狂いで避ける。ーー微量なら耐えられる。だがこの量に当たったら骨も残るか怪しい!


 残り二十秒。

 血の雨を避けるのに距離が離れた。急いで頭部に向かう。蛇は血弾を出してくるがそれを死ぬ気で捌き接近戦に持ち込む。不味い、時間がない。


 残り十秒。

 頭部に近い首を渾身の力で切り飛ばした。しかし、超常の蛇は動くのを止めない。ーーこれで、死んでないのか!?


 冷や汗が浮かぶ、思わず顔が引きつるが、それを振り払い無我夢中で頭部に斬撃を打ち込む。


 残り五秒。

 頭部、その中に核のような何かを見た。消えかかっている気と魔力を強引に繋ぎ止める。最早必死すぎて何も分からない。



 残り一秒。

 真っ白な思考の中、俺は剣を突き出した。





 ーーーー新規エピソード「平原のワイルドウルフ」改め「平原の地を這う蛇」クリア!


 ーーーーボーナスポイント百入手!


 ーーーーネームドモンスター「地を這う蛇」討伐によりボーナスポイント六十加点!











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