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平原のワイルドウルフ ④




 書くことないなぁ...









 カン、カン、カン。と鉄を打つ音が響く。

 


 熱気が籠る工房。鍛冶師の拠点であり陣地。

 暑い。こんな所で仕事をする根性は並大抵の物ではないだろう。

 


 そんな事を考えながら、俺は椅子に座ったまま頬を付きながらの姿勢で鉄を鍛える男を見た。


 五十代ほどの、長く生きてきた者特有の重厚感を持った武骨な男だ。


 男は、こちらをちらりとも見ずに口を開く。



 「最近、仕事も上手く行ってるらしいじゃねーか」


 「まあ、な。でも失敗もしている。昨日も他の冒険者といざこざを起こしてしまったよ」


 「構わんだろう。元々冒険者など落伍者の集まりだ。降りかかる火の粉は自分で払って、それでお仕舞いだ」



 男は、あくまで鉄から目を離さずに告げる。

 ...古い、知り合いの男だ。


 男の名前はバザヴィといって、俺の親が存命だった頃よく酒を飲む仲だったらしい。



 その頃のよしみか何かで未だに俺の世話を焼いてくれる。



 例えば、俺の携帯している剣はこの男の作品だ。

 銘を「揺光」といい、下級の冒険者が扱うには不適切なほどの切れ味を誇る。


 本来は上級冒険者が持っていてもおかしくないほどの逸品、それがこの剣の正体なのだ。




 そして、そんなのを料金も受け取らずに渡せるほどバザヴィは途方もない金持ちだ。


 いや、腕の良い職人は多くの国で高い社会的地位と金銭的余裕を持っているのが普通なのだが。


 ....ちなみになぜ職人が国にそれほどまでに優遇されているのかと言うと、それは彼ら「職人」の打つ武器は元の鉱石以上の頑強性や、切れ味を有するからに他ならない。



 職人の数イコール国力とも言われるほど、職人の作る武器・防具には説明のつかない()()が宿る。

 


 異常な腕の職人ともなると、魔法の力を持った剣をも作りあげることが出来るのだとか。



 バザヴィはフレディア王国の中でも一握りしか存在しない、魔法の力を持った剣、さすづめ魔剣を作り出すことの出来る職人なのだ。


 

 ...それはともかく、今日はサブウェポンとなる牽制用と、至近距離での隠し手を兼任する短剣を買いに来た。


 来たのだが、今日のバザヴィは妙に饒舌だった。


 「...知っとるかお主?黒い火を纏った鎧。あれの捜索が打ちきられたそうじゃ」


 

 「何処からの情報かは聞かないが...まあ妥当だろう。火の目撃者はいても鎧を見たのは俺しかいない。見間違いと結論付けられるとは思っていた」



 あの、ゴブリンとの戦いの日の事だろう。

 森にいた黒い火を身に纏う鎧...



 ギルドでその話を聞かない以上は、つまりそういう事なのだろう。



 「いや、違う。存在を確認したらしい。上級冒険者九名とミスリル級冒険者一名の団だったのだが、流石と言った所だろう」


 「そう、なのか」



 意外だった。見つけたこともそうだが、たかだか下級冒険者の報告にトップ層十人も動員するなんて普通じゃない。


 ...上級冒険者の依頼量は高額だ、それを十人分なんてまるで戦争のようなスケール感の話に思える。



 ギルドは慈善組織ではない、利潤の追求をシビアに考慮した組織だ。それが、不確かな情報にそこまでの大盤振る舞いをするなんて....どうにもキナ臭い。


 

 「そして、ある程度距離を近づけた所気づかれ、瞬く間に半数が死亡したとの事だ。」



 「ギルドは現時点の調査は不可能だとして、来年に()使()()を招いて大規模な調査を行うと決めたらしい。時期が来るまで、この話は無かったことにするとギルド本部は決めた」



 バザヴィの声は硬い。無理もないだろう全冒険者の一割...つまり実質的なトップ層を計十人も動員して、ろくな情報を仕入れることも出来ず半壊したと言っているのだ。



 それに加え、()使()()の動員、現存する唯一の加護の持ち主。



 ....壁に立て掛けてあった短剣を手に取る。

 小型の、肉厚な短剣だ。



 それに触れながら言う。



 「弓使いまで呼ぶとは、いよいよ神話の再演が現実味を帯びてきた話だな」



 「時代の変化を感じるのぅ、クルーダ。お前もいつの間にか軟弱なガキからそれなりの強さを持つ男になっていたし、世界のスピードは目まぐるしいものがあるわい」



 「バザヴィ、貴方は時代の変化を感じるほどには生きてないだろう」



 「カカッ、なあ知ってるかクルーダ?弓使いの加護の継承者、それの誕生から以降魔法使いの数が増えておる。そして各地で上級以上の魔物の動きが数百年ぶりに活発になっているとも聞く。これを時代の変化と呼ばずしてなんと呼ぶ?」



 ーーーワシには、まるで何かの予兆のように思えるよ。



 バザヴィは恐れるようにそれだけ言うと、会話は打ちきりだと告げるように鍛冶に集中した。


 もう長い付き合いだ、こうなると彼は最早こちらに何の注意も払わなくなる事が経験上分かっている。



 俺は一回バザヴィに礼を告げると、無言で代金の袋を置きその場を後にした。

 







 


 


 「何やってんのよ!この馬鹿!」


 「えぇえ!?そんな怒る!?確かに俺も悪かったけどさ!許してくれよぉぉお!」


 「いや、今回ばかりは私も庇えませんわ...スリにスられるなど、何をやっているのです」


 帰り道、はしゃぎ騒ぐ三人組を見つけた。



 茶髪で童顔の男と、青髪でキレてる女、金髪お嬢様っぽい女。

 顔つきからして俺とそう年齢は違わない歳に見える。


 


 背負ってる杖とマントから見て、最近冒険者になったと話題になっていた、魔法使い三人組だろう。



 (確か、この三人組はここ、アウラグティスの隣にあるケンディム領の魔法学生なんだったか)



 ケンディムにあるラルバルグ魔法学校は由緒正しい魔法学校で、卒業すれば王国官僚魔法使いにもなることができる名門だ。



 名門、なのだが魔法使いは出生の身分、つまり平民や貴族は全く関係なくランダムで生まれる。



 しかし平民の魔法使いは貴族向けに整備された、やたら高い制服や、教科書類そして学費を理由にお小遣い稼ぎをせざるを得なく、副業として冒険者になる者が多い。




 恐らく目の前の三人組もそうした人物なのだろう..



 放っておいてもよかったが、ある程度稼ぎを得た後はユファーナを

魔法学校に通わせる事も考えていた俺に取って、仲良くしておいて損はない存在だ。



 何より情けは人のためならず、最近人に対して冷たい考えが多かったが、ここらで一旦善行をするのも悪くないのかもしれない。



 そう考えて彼らに話しかけた。


 「君たちスリに財布取られちゃったのかい?宿に泊まったり出来なかったら不便だろう。これをあげるから、いつか出世した時にでも返してくれ」


 そう言って俺は三人でも確実に一日を越せる二万マルス(マルス=円)を渡した。



 彼らはそんな善意に溢れた俺を見て、怪しそうな顔をしながら口を開く。


 

 「あ、あんたってあれでしょ!ユファーナって魔法使いのヒモ!女に助けられて情けなくないの!?」


 イラッ


 「この男が噂の...魔法使いの女の子を使って依頼を達成しているとかいう軟弱者ですか」



 イライラッ



 「お前らせっかくお金くれそうな人に会ったのになんでそんな事言うんだよぉ!本当の事でも言って良い事と悪いことがあんだろ!」



 容赦なく放たれたとどめの一撃に、俺は泣いた。

 




 俺は周りの人にこんな風に思われていたのか?というか助けようとして何故ここまでフルボッコにされなければならないのだ。


 

 そんな風に叫ぶ心を抑えながら(コイツらどう始末してくれようか)俺は努めて冷静に礼節を保って口を開いた。





 「くたばれ貧乏人共め」


 


 俺は綺麗に指で首をかっ斬る動作をしながら、颯爽と回れ右してその場を去ることにしたのだった。



 「待ってぇえ!悪かった!悪かったから!コイツらには後で言っとく!俺が責任もって口の開き方を教えるから!どうかお恵みおぉ!」



 茶髪の男が叫びながら粘りついてくる。


 俺は内心驚愕した。恥を知らない男だ、俺には町のど真ん中で初対面の男の足に粘りつくなど絶対に出来ない。



 その恥知らずさにうすら寒い者を感じる。



 ーー古代から言われる事だが、この世で最も強い者はプライドがない相手である。通称・無敵の人は失うものがないゆえに何でもできる。



 タロットカードの始まり、無限と表裏一体の愚者にも似た特性だ。心底恐ろしい。



 「わかった!わかったから立ち上がってくれ!視線が痛い!」


 「ほんと!ありがとうございます!」


 次の瞬間には立っていた。

 天才と馬鹿は紙一重ーーそんな言葉が脳裏をよぎる。



 「はーまあいいよ...ただしこれあげるから後で俺の聞きたいことに答えろ、いいな?」



 「ありがとうございます!ありがとうございます!」



 彼は滝のように涙を流して俺に感謝していた。

 

 声が地味に大きい。さっきから道行く人の視線を総取りしている。

 俺は早くここから消えたかった。



 このままでは道路の主役だ。

 そのうちスポットライトが当たっても不思議ではない。



 「あ、俺ヴァルケ・トインスって言います!ほら!お前たちも頭下げて名前名乗るんだよ!」


 「仕方ないわね、私はサテファ・ブラウよ、後でお金はしっかり返すわ」


 「まあ施しを受けたのは事実ですものね...私はマスフィ・ノルディックと申しますの」



 「俺はクルーダだ、返すのはいつでもいい。まあもしかしたら昇進試験で会うかもしれないが...もうスられたりするなよ?」


 


 その後その場を自然にさりげなく離れた。

 もう、あいつらのテンションにはついていけなかったからだ。


 ヴァルケはありがとうございます!と手を振っていた。



 

 ....なぜちょっと善行を積んだだけでこのように疲れるのか。

 俺は言い様もしれない心労に見舞われながら宿を急いだ。




 「ポイント増えてる...あいつらの相手は強敵との相対に近しいものがあるのだろうか...」



 宿に着くとユファーナがマフラーを縫っていた。

 俺が帰ったのに気づくと笑顔で近づいてくる。

 

 それを見て俺はなるほど、これが癒しか。と納得したのであった。










 夜、夜ご飯も食べ、寝る寸前の時刻。「ウィンドウ」を開いた。


 ⏩


 

 名前・クルーダ

 身長・百六十五

 年齢・十三

 所持ポイント四十三




 ステータス


 力・G 

 耐久・G 

 速度・F 

 魔力・G 

 幸運・B

 頭脳・F



 スキル


 剣術F 死中に活 気力操作G 

 気力関知G ハイエナの嗅覚



 特性


 隼の目



 ⏩



 気力操作を一つ上のランクに上げる。


 ⏩


 スキル・気力操作F


 効果・力・耐久・速度に二十分間百六十%の補正。

    再使用に一定時間(最大一時間三十分)が必要。


 text

 一人前一歩手前となった気力操作のスキル。

 このスキルを最大まで上げると、仙力への道が拓ける


 ⏩


 

 百六十%、なかなかの数値だ。

 速度に至っては素の身体能力の倍に近しい。


 ポイントが貰えたという点では、あの三人組との出会いも悪くはなかったのかもしれない。...いや、無理があるな。




 恐らく、もう少しで昇進試験があるだろう。

 中級の魔物とどこまでやりあえるか....



 実は少し楽しみでもある。

 そういえば後一月もすれば夏に入る。


 ゴブリンの件から早一ヶ月。

 俺とユファーナの誕生日もなかなか近い。


 依頼、もっと多く受けようかなぁ、と考えて眠りについた。


















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