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平原のワイルドウルフ ②





 朝はパン派です。








 


 魔物はその危険度から六つのランクに分けられる。

 神話級、特異点級、災害級、上級、中級、下級。


 冒険者のランク制度もこれに対応するように六つのランクがあり、おおよそ同ランクの魔物一体と冒険者五人で同等の戦力と言われている。


 例外として下級の魔物だけは強さの幅が広く、下は最下級の冒険者でも一人で倒せるゴブリン。上は最下級の冒険者十人で同等と言われる火爪熊まで下級に分類されている。




 下級の魔物と言っても、大多数の人間にとって脅威であることに違いはなく。下級の魔物に村が一つ潰された記録も過去にあった筈だ。






 そこまで考えて、俺は意識を現実に戻した。


 眼前では雲一つない空と、風に煽られる草花がどこまでも広がっている。


 

 ...俺とユファーナが拠点とする町、アウラグティスは門を抜けると途端に広大な草原がその姿を見せる。


 アウラグティスは俺たちの国、フレディア王国の食料庫とも言われるほど肥沃な土地で、よく作物が実るいい土地なのだが、しばしば魔物に作物を荒らされたりする。




 今回受注した依頼も、平原に住む魔物...ワイルドボアが作物を荒らしたことにより困り果てた村人が発注した依頼らしい。



 下級の魔物とはいえ大多数の人間には脅威なのは変わらない。

 迅速に倒し村人に安心して貰うべきだろう。


 





 そんな事を考えながら、草を足で掻き分けつつ横目でユファーナを見ていると、視線に気づいたのかユファーナは口を開く。


 「どうしたのクルーダ?何か見つけた?」


 「いや、何も見つけてない。確か依頼書ではもう少し先の地点だったな、そろそろだろう」


 

 ...ユファーナはニコニコと俺の顔を見ている。昨日の夜の泣きっぷりを知る身としては現在のニコニコ顔は逆に心配になる。


 

 朝起きたら、ユファーナはもういつも通りだった。

 昨日の荒れた様子など欠片も無いが..やはり不安である。



 この幼馴染みの機嫌は読み取るのが大変だ。女は天性の役者とも言われているし幼馴染みに限らず女は大体こうなのだろうか?

 


 

 ...まあそれはいいとして、こうして依頼という実践を行って気づいたことがある。


 それは、探知系のスキルの必要性だ。


 不意打ちされて怪我を負ってしまえば、多少のスキルの有無など誤差にしかならないし、それ以上に基本性能で人間より遥かに上の魔物に対して作戦も無しに戦闘の開始を強制されるのは致命的だ。


 その点探知スキルを入手すれば逆にこっちから不意打ちを入れられるし、遠くから偵察を行って情報を手に入れられれば戦術の幅も広がる、良いことづくめだ。



 スキルの探求は奥が深い、頭脳ステータスが上がった影響かは分からないがこういう思考もなかなか楽しく感じる。



 「なーんか嬉しそうだね...」


 と、そんな事を考えていたらユファーナが不審に思ったらしく半目で俺にそう言ってきた。


 まあ一人でニヤニヤしてたら不審に思うのは当然だろう。

 だが、視界の端に巨大な影を発見したことで、どう言い訳するか考えていた思考は一気に吹き飛んだ。



 「っあれワイルドボアじゃないか?」


 指差した方向に二メートルほどの大きな四足歩行の獣、「ウィンドウ」のコラム曰くイノシンに似た魔物が存在していた。


 「え?あ、本当だ,.というかあんな遠くの良くわかったね、そんな目良かったっけ?」


 「お、おう、なんか昨日から調子良くてな」


 そうだった、隼の目の効果で俺の視力は二倍にまで上昇しているのを忘れていた。

 俺の元の視力は低くも高くもない程度だったが、それでも二倍にまで上がれば常人を遥かに超える視力になっている。



 下手な誤魔化ししか出来なかったが、一応ユファーナは俺の言葉を信じたらしく不思議そうな顔をしつつ口を開く。

 

 「まあ取り敢えずあれどう倒す?私の土の魔法じゃあ火力不足かも..」

 

 「そうだな、少し試したい事があるからユファーナは俺が危なそうになったらあいつの足場を泥にして動きを阻害してほしいんだ」


 「今日はやけに積極的だね...危なくなったらすぐ泥にしちゃうから、気を付けてね」


 ユファーナの魔法は土、足場を泥にしたり砂を飛ばしたり壁を作り上げたりと応用次第で高い効果を発揮できる魔法だ。

 弱点として直接的な火力が未熟な内は低いという点があるが、それでも強力な魔法だろう。






 ーーまあそれはともかく、今は気力操作を始めとしたスキルの実験ができるチャンスだ。

 実は朝にも寝ぼけながら使ってみたのだが、その時はステータスの上昇値は百十%で。最大効果を発揮することは出来なかった。


 もしかしたら、スキルには熟練度といったものが存在するのかもしれない。




 スキルの実験といえば、昨日は忘れていたのだが剣術のスキルを今日の朝確認してみた所、面白い事実が分かった。




 俺は剣術のスキルは剣の技量を上げる効果と思っていたが、技量を上げるとかそういった効果は一切無かったのだ。



 そう、剣術のスキルの効果は剣を持っている際、力のステータスに百五十%の補正を与えるというもので剣の技量は前と全く同一でしかなかった。



 この結果を見るに恐らくだが、ステータスに技量という値がない以上技量とは数値化できないものなのではないだろうか?


 剣の腕で上手い、下手の違いは誰でも分かるが、数値付けするとなると判断基準が分からないし、様々な要素が絡んでくる技量は己の手で育むしかないのかもしれない。



 まあ、考察はここまでで良いだろう。

 今やるべき事はーー。


 「あいつを倒す事、か」


 

 視界の先にいるワイルドボアを見据えて気力操作を発動する。


 ステータスに補正を掛け、上昇した速度で一気にワイルドボアとの距離を詰めた。

 が、ワイルドボアもこちらに気がついたようで、巨体を機敏に動かしこちらに対応してくる。


 「っ!危な!」

 

 ワイルドボアは急に距離を詰めてきた俺に対し、意外に機敏な動きでタックルをすることで牽制してくる。


 そのタックルを避けつつ、魔物の攻撃に無理なく対応出来ているのを今の交戦で実感し口角が上がる。



 ...確かに、ゴブリンとは比べ物にならない速度だが、隼の目により引き上げられた俺の目は無理なく追い付けている。





 最下級五人がかりで対等な魔物と、たった数個のスキル・特性で一人で互角。

 やはり、スキルや特性などの効果は強力だ。


 「フッ!」



 無造作に足の間接を()()()切りつけ動きを阻害する。

 上昇した頭脳のステータスの恩恵か何となくどこを攻撃すれば相手の構造に致命的なダメージを与えられるかが分かる。



 間接を切られて動けなくなった事に動揺したのか、ワイルドボアの動きが止まる。

 その隙を見逃さず頭部に剣を突き入れた。


 「...ふぅー何とか、勝てたな」


 剣を頭部から引き抜き、息を大きく吐く。

 ワイルドボアの報酬は高い、今夜は贅沢な物が食べられるだろう。


 と考えているとユファーナが驚いた顔で詰め寄ってくる。


 「クルーダいつの間にそんな強くなったの!?というか昨日もゴブリン五体倒したし、急に凄く強くなってない?」



 ...やばい、本来だったらいいところでユファーナに助けてもらう筈が思ったより上手く行きすぎて、調子に乗って一人で完勝してしまった。


 上手く言い訳しないと不審に思われるかもしれない、というか思われる。だって以前の俺はゴブリンの一体、二体と互角がいい所だった。


 それが今ではワイルドボアを相手に一人で完勝だ、流石に違和感もあるだろう。


 いや、そもそも言い訳する必要あるのか?確かにこれは誰にでも言っていい力ではないがユファーナは信用できる。


 一人くらいはこの力について知っている人がいいような、そんな気がする。

 話して、みるか。


 「実は、昨日のゴブリンとの戦いの時に不思議な声が聞こえてさ、それからなんかスキルとかステータスとか与えられてさ、それで色々な事ができるようになったんだ」


 「不思議な声...?神様の加護とかなのかな?」


 「どうかな、なんかそんな感じでは無かったような気もするけど...神様の声も聞こえなかったし」


 

 加護...古くは神話の時代にまで遡る(さかのぼる)、時代の節目に神から与えられる力で、それを与えられたものは人間とは思えないような力を発揮できるようになるらしい。


 現代でも弓の加護を持っている人物が一人いて、何でも山を消し飛ばすほどの矢を放つことができるとかーー。



 確かに、俺の力は加護のそれとも思える力だ。

 でも加護が与えられる際には神と話をする機会があるらしいが、俺の時にはあの音声が聞こえただけで話をしたってわけじゃ無いから違うと思うのだが、どうなのだろうか。



 全能力が爆発的に上昇する。という事しか加護の説明にはないのが文献によって伝えられているが、加護も古代から現在までの五百年間で授かった人が三十人程度と人数が少なすぎて研究が進んでいないのが現状だ。



 ...まあ加護にしろ「ウィンドウ」にしろ謎が多い事に違いはない。


 「にしてもスキルって初めて聞く単語ね、どんな意味なの?」


 「そうだね、コラムって言うスキルによると技能、能力の事らしい。俺が今取ってるスキルは剣術と気力操作なんだけど、二つとも技能の名前だしね」


 「へー強そうなスキル...そういえばその二つってどんな効果があるの?」


 「剣術は剣を持っている際力を百五十%上昇させて、気力操作は十分間の間力、耐久、速度を百二十%上昇させるんだ」



 ユファーナはそれを聞いて何だか微妙そうな顔をしている。

 気持ちは分かる。加護と比べてスキルやステータスはやたら複雑なシステムなのだ。


 まるで強くなる方法を自発的に俺に考えさせ、多くのスキルの組み合わせを試行錯誤させるようにーー。


 その性質は与えて終わりの加護と明らかに異なる点だろう。

 

 「ま、まあそのお陰でワイルドボアをこんな簡単に倒しちゃうんだから凄いよね。」



 「そうだな、俺も実際に試してみるまでここまで強力だとは思わなかった」


 そう、正直百二十%、つまり五分の一増やしただけでここまで変わるとは思っていなかった。隼の目など組み合わせた物は多いが一つ一つの倍率は低い。


 でもそれでワイルドボア相手に完勝できた。

 これから先多くのスキルや特性を得たとき自分はどこまで強くなれるのだろう...


 考えて、思わず身震いした。

 このままいけば、特異点級の冒険者も夢じゃないほどの強さを身に付けられるかもしれない。



 「なんにしても、これで依頼は完了だ。肉とかも売れるし解体して荷車に積もう」


 そう言うとユファーナは了解っと手を振ってくれた。


 ワイルドボアを解体し荷車に積み込む。

 この草原は土が柔らかくて、荷車を楽に移動させることが出来るのが魅力的な狩り場なのだ。


 「陽も丁度もう少しで暮れそうだな」

 

 「そうだねぇ、ねぇ今日って夜ご飯行ってみたいお店あるんだけど行ってみない?」


 「いいけど、ユファーナから言ってくるなんて珍しいな?どんな店なんだ?」


 「うーんとね、フレンチスカのカフェって店なんだけど、ポールピッグのお肉が入ったらしいんだけど食べてみたいでしょ?」


 

 そんな事を話しながら帰っていると、もう町に着いた。

 昨日と違い何事もなく一日が終わった事に安堵する。


 まあ、昨日みたいな異常事態なんてそうそうあることじゃない。だが、何事もない一日の大切さを知れたという意味では、昨日の危機も案外悪くは無かったのではないだろうかーー



 夕暮れに染まる町の門を視界に捉えつつ、そんな事を思って苦笑しながら町へと入っていく。


 上空では、橙色の空が俺たちを見守るように、労うように照らしていた。



 












ワイルドボア


地球でいう猪に似た魔物だが、全長二ラードを超える個体も珍しくない巨体でその食欲からしばしば農村の作物を食べ荒らす。

 下級の冒険者五人がかりでようやく対等に戦えるスピード・パワーを持つ。




フレディア王国


一定期間を除き温暖な気候を有した土地に建てられた海に面した王国で、七十九万ダロ(キロ=ダロ)ラードもの面積を誇る。

 隣国とも表だった不和はないようだが...?




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