母と子
次回が気になった方は(そうでなくても)ブクマよろしくお願いします。あっポイント評価の方も忘れずによろしくお願いします。
「これも凄い!見たことがないよ!」
無邪気にデバイスを見て回っている剣慎を見て、巴は先程までの考えを一旦、白紙にして再び剣慎に近づいた。
「夢中なのは良いけど、こういうデバイスは危険な物もあるんだから余り触らないようにね」
「はい」
どれも見たことの無いもので僕にとっては楽しかった。あそこの屋敷でもあの人の配下の人が色々持っていたから見ることが出来たが、こうやって、はっきりと見たのはこれが初めてだった。
(部屋のは見せてくれなかったからな…)
屋敷の中にもデバイスが保管されていた部屋はあったがあそこは僕は立ち入り禁止だったから見れなかったんだ。
誠と雅の2人、そして璃乃とあの人はちゃんと許可をもらえていたが、『無能に見せる物は無い』と言って僕だけ部屋に入ることは出来なかった。
「これを今見せたのは、剣慎、貴方に才能があると思ったからよ。でも、予想よりも遥かにその片鱗を見るとは思わなかったけどね」
そう言うと、巴さんは僕の顔を両手で包むと、目の色が変わっていくのが見えた。元々黒い目だったのが輝きを帯びて、黄色いまるで宝石のように存在感があった。
「綺麗……」
ふと巴さんの瞳を見て僕が言うと巴さんは少し照れたように笑っていた。
「ふふふ…ありがとうね」
その瞳は不意に気を抜くと意識が吸い込まれてしまうかのように綺麗だった。
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「これが魔眼よ。私のは」
そう言うと巴さんはポケットから紙を取り出して上に投げると
ボッ!
と紙が一瞬にして燃え上がってしまった。
「え?どうして…」
「私の魔眼トパーズは言ってしまえば、対象を燃やしてしまうパイロキネシスの能力があるのよ。まぁ、他にもちょっとした能力もあるけど、この能力が1番分かりやすいからね。そして剣慎、貴方も魔眼持ちよ、それも常時発動しているようだけどね」
「僕が魔眼持ち?」
魔眼持ちは魔法使いの中でも稀有な存在で、僕は巴さんの他には、あの人に会いに来たという人の1人しか知らない。それに僕がそんなに希少な存在な訳がない。そういう思いで巴さんの方を見ると、彼女は哀しそうな顔をしてこちらを見ていた。
「貴方は紛れもない魔眼持ちよ。貴方は優秀な魔法使いですら見えないデバイスの術式回路が見る事が出来て、それにその回路の意味までも認識出来る実力もある。もし、私の思った通りならそれは私の魔眼トパーズよりも強力な魔眼よ。今度はゆっくりと目に魔力を集めて見て、そうすれば今度は違う景色が貴方には見えるはずよ」
巴さんは僕の瞳を真っ直ぐ見て言ってくれた。今まで、そんな事は無かった。母様、あの人の妻ですら僕をこんなにも見てくれたことは無い。
僕は次第に目が熱くなるのを感じながら魔力を込めた。
少しずつ見える景色が変わり、巴さんの魔力の流れ、そして、手を見ると僕自身の流れている魔力を視ることが出来た。それは今まで見えていた景色に魔力の流れというのが可視化されて、人だけでなく部屋を見渡すと僅かながらの魔力を流れも視る事が出来た。
それはとても幻想的でそして再び目が熱くなっていくのを感じた。
ふと、頬を熱いものが流れる感触が伝わってきた。
どうしてかは分からない。哀しい気持ちはない。辛い苦しさもない。ましてや彼らに見捨てられた絶望感でもない。そして真正面を見ると巴さんも何故か涙を流していた。嬉しそうな、そして申し訳なさそうな目で僕を見ると、いきなり抱きしめてきた。
「やっぱりそうなのね。ごめんね、私が貴方の事を早く見つけていればこんな事にはならなかったのにね。ごめんね。ごめんね」
巴さんは力強く、そして優しく抱きしめたまま何度も何度も僕に謝った。
「何で謝るんですか、僕は巴さんのお陰で自分の、この目の力を見ることが出来ました。でも、こんなのがあってもあの人達でも認めてくれない!」
僕も巴さんを抱きしめたまま力強くそう言った。
「違うの!」
巴さんはそう力強く言うと抱き締めるのを止めて、僕の肩を掴んだ。
「貴方のその魔眼は魔視の瞳と呼ばれる魔眼で、私の魔眼トパーズよりもクラスは上でこの国では貴方の他に1人しかいないのよ。そしてその魔眼があればいくら紅井と言っても貴方の重要性を再認識してくれるわ。それは今までの事を手のひら返してくるようにね。それにそれは……」
そう言うと、巴さんは言う前に抱きしめたまま固まってしまった。
でも、そんな事は僕にとってはどうでも良かった。
『もう思いっきり泣いても良いのよ』今まで耐えていたのに、裏切られた僕に優しく声をかけて抱きしめてくれた。
『貴方はこれから私の息子よ』両親にすら見捨てられ、そして僕を殺そうとした人達から救って、優しい事を言ってくれた。
『世界一の魔法戦士にしてあげる』そして、僕自身に生きる目的を、そしてその可能性を僕に示してくれた。
それが僕にとってどれだけ救われたことか、どれだけ勇気をもらったか、どれだけ彼女の期待に応えたいと思ったか、だからこそ僕は一度、彼女の腕から抜け出して、彼女の目を真っ直ぐに見た。
「僕はあの人達に捨てられました。最後に璃乃に会いたかったという思いはありますが、もうあの家に戻りたいとも思いません。僕は巴さんと一緒にこれからずっと暮らしていきたいです」
そして再び彼女の瞳の見て僕は笑って言った。
「母さん。これからもよろしく」
そう言うと母さんは僕をさっきよりも強く抱きしめてくれた。
「えぇ、これからびしびしと修行させて、貴方を強くするからちゃんと付いてきなさいよ!貴方は私の大事な大事な息子の剣慎なのだから」
この日僕は本当の意味で巴さんの息子になった。
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