追放
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名門紅井家、かの一家は魔法使いの名門一族として有名であった。日本で対幻獣組織である魔法局にも彼らの配下は多くいた。そのため彼らにとって許せないのだ。才能の無い者は ……
「剣真、貴様はこの家から出ていけ」
紅井家当主、紅井斉元は彼の次男の剣真に向かって冷徹に告げた。
「!……僕に才能が無いからですか?」
剣真は恐る恐る聞いた。
「その通りだ」
先程よりも冷徹にまるでその声は機械の様に感情は無く、そして化け物の様な圧を剣真は感じて震えていた。
少し間を空けて言い放った。残酷な事を……
「魔力量に関してはお前はこの家、私よりも上だ。だが魔力強度、魔法発動速度に関してはゴミ以下だ。それがどういう意味か分かるか?魔法使い、つまりは戦士としては盾にすらならん、足手まといということだ」
魔力強度は体に纏う魔力の強さで、それが強ければ強いほど身体強化魔法による身体能力は高くなり、魔法の強さも上昇する。
そして魔法発動速度は文字通り魔法を発動するための速度で早ければ早いほど魔法使いとしては良く、魔法使いとしては必須である。
そして斉元は後ろを見て部屋を出ていきながら
「今日中だ。荷物をまとめて出ていけ、それと金輪際お前に紅井の名を名乗ることを禁止とする。もうお前は他人だ」
剣真は泣きながら、精一杯の気持ちを込めて言った。
「父様、お願いします。僕は頑張りますから。紅井の人間として一人前になってみせ」
「くどい、もう二度と顔を見せるな。贋作が!」
言い終わる前に放った、斉元のその言葉はまだ幼い剣真の心に大きな傷を与えた。そして剣真は喋ることは出来ず、その場でうつむいてしまった。
「お前達、そいつを庭にでも捨てておけ」
斉元は配下の者達に命令すると部屋から出て扉を閉めた。配下の男達は互いに剣真の腕を持ち、引きずって屋敷から剣真を庭に投げ捨てた。
「くっ…」
腕に擦り傷を負って苦しむ剣真の事など、彼らにとってはお構いなしであった。
「これからどうすれば良いんだ。母様…うううう…」
それだけではなく、地面にうつむき、泣いている剣真を気にしている者は、その場には誰もいなかった。
そして夕方に荷物をまとめた剣真が、家から出ようとしていると待ち構えていたのか、とある二人組がいた。
「よ!無能、まだ敷地にいたのかよ」
「あら、まだゴミがいるわね。さっさと出ていってくれるかしら」
「誠兄さん、雅姉さん」
呼び止めたのは剣真の兄の誠と姉の雅だった。
「お前みたいな無能に兄って言われたくねえよ!」
そう言って誠は剣真のお腹を殴った。
「がはっ…」
剣真が地面に座り込むと
「そうね、これはもう他人なんだから」
雅は剣真の顔を蹴り飛ばし、剣真は倒れてしまった。
「この無能が!」
「さっさと消えなさいよ!」
2人は散々蹴ったり殴ったり剣真を袋叩きにした。
「けっ、この程度でへばりやがって」
「じゃあね、無能。せいぜいのたれ死ねば」
倒れている剣真にそう言い残すと、彼らは屋敷の中に入っていった。
「くっ…ちくしょう」
剣真は砂を掴んで、涙を流しボロボロの体で立ち上がり、ふらふらと弱った姿で屋敷の外に停めてある車に向かった。
「おらっ!さっさと乗れよ」
僕は無理矢理車に押し込められ、車はどこかに向かって動きだした。
「はぁ、はぁ…」
そして殴られ、蹴られたことで全身に痛みが回り、意識は朦朧としていた。
ふと母親の事を思い出した。剣真の母は病弱で余り部屋の外に出る人ではないため今頃は部屋に寝ているだろう。
「はぁ、はぁ、母様…璃乃……」
優しい母親と可愛い妹を思い必死に耐え、朦朧とした意識の中呼び続けていた。
いつかきっと僕達3人で笑って過ごせる日が来る。そう剣真は信じていた。そういう日が来ると思えたからこそ僕は兄達に殴る、蹴る等の酷い目にあっても決して諦めずに生きてきたのだ。だからこそ思ったのだ。
(僕が頑張れば、母様、璃乃と再び一緒に暮らせるんだ。だから僕は最後まで諦めないんだ…必ず僕は、3人で……)
だが彼の願いは呆気なく壊れてしまった。
車は数時間程進むと、人気の無い山奥に停まり、助手席の人は無理矢理剣真を車から降ろした。
「それじゃあ、お前には死んでもらうな」
「え?」
助手席にいた男は剣真に右手の手のひらを向けると
「炎波」
すると手から炎が現れて、剣真に向かっていった。彼はとっさに避けたが
「ぐっ…熱い」
炎は左肩を掠り火傷を負ってしまった。
剣真は既にぼろぼろの体で尋ねた。
「どう、して……」
すると男達は笑って隣を向いていた。
「どうして、どうしてだってよ!傑作だな!」
また、隣の運転手の男も同調して笑った。
「はははは、決まってるだろ。無能なお前を消すためだよ。そういう指令を受けてるんでな、炎波」
そして彼も剣真に攻撃をしてきた。
だが、剣真は今度は防ごうとして魔法を使った。
「シールド」
前に魔力の壁を敷いて、防ごうとしたがそれは呆気なく壊れてしまった。
「うわぁぁ!」
剣真は全身に火傷を負おって、満身創痍であった。もう既に満身創痍であったのだが立ち上がる気力も無かった。
「馬鹿だな、こんなのも防げないからお前は捨てられたんだよ!」
そして思いっきり蹴られ、宙を舞った。
「ぐはっ…ぐっ」
彼は笑っていた。そして話し出した。それは彼にとって残酷な話であった。
「そうだな、どうせもう死ぬお前に最後に教えてやるよ。お前を殺すように命令したのは紅井の者達だよ。それに当主自ら許可したんだよ」
そう言いながら再び剣真を蹴りあげた。
「がはっ…」
(そうか…僕は父様に捨てられたんだ)
血を吐きながら、朦朧とする意識の中彼は母親と妹の事を考えていた。
「そしてな」
「おい!これ以上は」
「安心しろ、どうせこいつはもう死ぬんだからよ」
少し揉めていたのか彼らは少し話していたが、すぐに剣真の方を向いた。
「ぐっ……」
そして、最初に攻撃してきたその男は、剣真の頭を掴むと耳元で先程より残酷な事を話し出したのであった。
「良いこと教えてやるよ。お前の母親もお前を殺す事に賛同していたぞ。お前、父親だけでなく、母親にも捨てられたんだよ!はははは!」
(そんな事は…)
「う」
「あ?なんだって?」
「う、そだ。かあさ、まはそんな、ことい、わない」
「そう思っているのはお前だけだよ。それじゃあ、俺達は要らないお前をさっさと処分してやるよ」
再び、右手の手のひらを剣真に向けると
「終わりだ。炎波」
炎が剣真に直撃しようとすると
「シールド」
その声が響き、剣真の前に透明な壁が出来て、彼を炎の波から防いだ。
「「誰だ!」」
彼らが叫ぶとすると向こうの木々から人が現れた。
そして姿を現すと彼らに向かっていった。
「ショット」
そして2発の魔法の弾丸を撃ってきた。
「「炎壁」」
とっさに防いだ2人であったのだが、それは一時的であった。
―――バタン
声の主の放った弾丸は正確に彼らの魔法と頭を貫通し、一撃で死に至らしめた。
「この子は……」
その声の主は地面に横たわって生死の境にある少年を背負って、闇夜に消えていった。
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