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正義が必ず勝つ世界で私は生きる  作者: サラミ
第1章 黒と白
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#5 『先輩と商店街でお買い物』

私が住んでいる地域の駅前には小さな商店街がある。この商店街には飲食店が2件、八百屋、肉屋、魚屋が1件ずつしかなく、基本的に食材を買うことしかできないから、この商店街には高校生のような若者はなかなか来ない。

だから私はすこし浮いた存在だった。いや、正確にはそう感じていただけなのだけれど。


小さい商店街だからか、店の人と知り合いのようになるのにそう長い時間はかからなかった。

今では見かけてもらうとすぐに挨拶してもらえるほど顔を知られている。


「あら亜美ちゃん。今日は可愛らしいお友達を連れてきたのね」


私たちが八百屋の売り場に入ると、八百屋さんのおばあちゃんが私に声をかけてきてくれた。

だけど、今日の私は声を出すことができない。返答ができなくてあたふたしていると、隣の女性、白石明日香先輩が私の代わりに返答してくれた。


「可愛らしいなんて、そんな……錦野さん、今日は学校で声を出す授業があったんですが、喉をつぶしてしまったみたいで、私がお手伝いに」


いつも通りの笑顔を振りまきながら、白石先輩は平然と嘘をついた。

白石先輩がそんな嘘を言った後に「ね?」とこちらを見て同意を求めるので、私はコクリとうなずいた。

先輩がどんなことを考えているかわからないが、本当のことを話して無用な心配をさせてしまい、どこかに相談されてしまうのは私としても防ぎたいことだ。

ここは先輩の嘘に乗ることにした。


先輩が嘘を言っていることなど知らないおばあちゃんは、口を丸くして驚いている。


「あらあら、おばあちゃん驚いちゃった。亜美ちゃん、いっつも元気ないから少し心配していたのよ。でも、学校でそれだけ元気なら心配ないわね」


おばあちゃんは柔らかい笑顔でそう言った。少し心が痛むけど、仕方のない嘘だから。

私は苦笑いのようなぎこちない笑顔を見せながら会釈をすると、買い物を始めた。


先輩は相変わらずの読唇術で私が買いたいものをスパスパと手早く見つけてくれた。

しかも目利きも熟知しているらしく、きちんとおいしい野菜を選んでくれる。

買い物をしている最中、時折挟まる豆知識に私は「へえ」と感心ばかりしていた。


先輩のおかげで買いたかった野菜はすぐに見つかり、あっという間に野菜の買い出しが終わる。


「亜美ちゃん、喉を大事にねぇ」


と言ってくれるおばあちゃんにまた会釈をして八百屋を後にする。

なんだか心が温かくなった。今までは自分の体調などは何も言ってこなかったから、ああいった心配する言葉もかけてもらえなかった。


次に行ったのは肉屋。ガラスケースにいろいろな種類、いろいろな部位の生肉が均等に置かれている。

中には生肉ではなく、すぐに夕ご飯に使えそうなコロッケなどの揚げ物まで生肉とは別ケースに置いてあった。


「へいらっしゃい。おっと、亜美ちゃん。いらっしゃい。しかも今日はお友達もつれてかい? 別嬪さん二人もいるとおじさん困っちゃうなあ」


肉屋に居るのは30代くらいの若いおじさんだった。少しひげを生やしてダンディな雰囲気。巷でよく言うイケメンおじさん、通称「イケオジ」というやつなのだろう。

肉屋のおじさんの『別嬪』という言葉に私はピクリと反応してしまう。だが、そこは美少女の先輩、「言われなれてます」と言わんばかりに交渉に持っていった。


「別嬪さんだなんて、そんな……じゃあ、私たちに免じて、何かおまけしてください!」


「おういいぜ。おじさんの目の保養になった分、きちっとおまけをつけてやる。ただし、何も買わないでおまけだけもらうのは無しだぞー」


「了解です、お兄さん!」


「くぅぅ、そこの嬢ちゃん分かってるぅ! しかたねえ、いつもやるおまけより少し量を増やしてやるぞ!」


「やったー! ね、錦野さん!」


私はそうやって抱き着いてくる先輩に慌てて、ただおどおどとしていることしかできなかった。

ここまでできる先輩が本当に怖い。これだけ美少女を演じることができるのだ。怖いし、何より素晴らしいとしか言えない。

私なら、アイツが荒れていなかったとしてもこんなことできないだろう。

本当にいろんな意味で優等生なのだなと感じた。


肉屋での買い物は八百屋の時よりさらにスムーズだった。

それに、なんだか予定していたより2倍ほど量がある。冷蔵庫に入るか心配だ。


次は魚屋……だけれど。もうここまで来たのなら、ある程度察しがつくだろう。

魚屋の中年太りをしたおじさんにすら気に入られ、さらに肉屋に対抗意識を向けるようにおまけの量がすさまじかった。

もはやこの量はおまけではない。買おうとしていた魚は2尾だったはずなのに、最終的には6尾も手に入っている。

他の買う予定がなかった魚、新鮮だと言われるサザエも2つほど手に入り、もう凄いとしか言いようがなかった。

肉と野菜も合わせたら本当に冷蔵庫に入らないかもしれない。


「いつものおねえちゃんだー!」


商店街を出ていこうと歩いている時、そう言って小さな女の子が私に抱き着いてきた。

瞬間、腹部に女の子の頭が軽く当たり、「うっ」と声を出してしまう。


「お、おねえちゃん大丈夫?」


「ぇ……ぃ」


「平気」も言えない私は、思わず心が痛くなる。

すると少し遠くからお母さんらしき女性が慌てて走ってきた。


「すみません、うちの子が……あれ、亜美ちゃん。それにお友達も、こんにちは……あ、今の時間帯ならこんばんわかな?」


少し微笑んでお母さんらしい女性は私たちにあいさつした。

この人はよく商店街で会うお母さんだ。

一児の母と言うこと以外は何も知らない。


私は挨拶をしてくれたお母さんに会釈をし、先輩も「こんばんわ」と言いながら一礼した。


私たちの挨拶を見終わると、女性は目線を下におろし、女の子にやさしくむすっとした顔を向けた。


「もう、加奈。いきなり走っちゃダメでしょ、危ないわよ。それにお姉ちゃんたちに迷惑じゃない」


「ごめんなさい……」


女の子への叱りが終わると、私たちにも謝罪の言葉を言った。


「ごめんなさいね、うちの子が。元気なのは良いんですけど、元気過ぎて……」


「いえ、大丈夫ですよ。それにしても可愛らしい女の子ですね」


そう言って先輩は少ししゃがみ、女の子の目線になる。


「こんばんわ、カナちゃん。私、このお姉ちゃんの、お友達で、あすかって言います!」


そう言うと、女の子は私を使って先輩との壁を作るように先輩から遠ざかった。

お母さんがその様子を見て「あらら」と言葉をこぼしている。


「このおねえちゃん、こわい……」


私の後ろでボソリと喋った女の子には、なんだか同情出来た気がした。


「えーっ、それひどいよー」


先輩が泣いたような表情を浮かべて、ガクリと目線を下に向けた。

しばらくすると、とぼとぼと立ち上がり私の肩に顔をうずめてくる。


なんかこんな一面があるなんて意外。

そのころには私はもう、先輩の行動が演技かどうかなんでどうでもよくなっていた。


「いつものおねえちゃんは声、出せないの?」


いつものお姉ちゃん……私のことだろうか。

私は女の子のほうを向いてコクリとうなずいた。


「もうずっと?」


私はその問いに対しては首を横に振る。

これがずっと続くなんて考えられない。それに、きっと明後日くらいになれば治るから。

このやり取りを聞いていたのか、お母さんは「そうだったんですか!?」と驚いた。


「本当に私の娘がご迷惑を、ごめんなさい。喉を痛めてしまったのですか?」


そんなお母さんの問に私がコクリと首を縦に振ると、お母さんは優しく自分の体験談を踏まえた改善策を教えてくれた。

何を飲んだらいいかもしれない。こんなのは喉にやさしいから。これを食べると早く治るかもしれない。

詳しく状況を説明してないのに、何か症状に合えばいいなと思っているのか、様々な解決法を教えてくれた。

しばらく続いた後「あら行けない。早く帰らないと」とお母さんは慌て始め、その場を後にした。


「ばいばーい!」


白石先輩は親子に対して手を振ると、笑顔のまま「それでは、私たちもいきますか」と商店街を出るために歩き始めた。


先輩の影をみて私はつくづく思った。今日は先輩に助けられてばかりだった。

声が出なかったら普通の買い物にも苦労していたし……こんなに量をもらえることもなかった。

改めて自分たちが声をどれだけ使っているのか、それを実感すると同時に違うことも感じた。


どのお店の人も、通りすがった親子も、私を気にかけてくれていることを知った。

赤の他人である私を心配してくれていた。その温かさが胸に染みた。


あっという間に終わってしまった買い出しの後、

家へと帰る帰路を歩んでいる時、私が少し微笑んでいると白石先輩が「良いですよね、こういうところは」と話し始めた。


「人ってとても不思議で、一人ひとり考えていることって違うんです。自分のことしか考えていない人もいれば、周りのために行動できる人もいる。もちろんそれ以外の考え方をする人も。でも、あの商店街にいる人たちは一人ひとりをお客さんではなく、人としてもてなすことができる。とてもいい人たちです」


「……」


本当に良い人たちだ。でもそれと同じくらいに、白石先輩もとてもいい人だ。

先輩の行動はどれをとっても、付き添いの私を気遣った物ばかりだった。

今だって、全く関係のない私の買い出しの荷物を半分持ってくれている。


でも、本当にどうして私についてきてくれたのだろう。


「(先輩はどうして私と一緒に)?」


「えっと、錦野さんとお買い物をした理由ですか?」


私が疑問を聞くと、先輩はクスリと余っている片方の手を口元にあてた。


「私、言いませんでしたか? 錦野さんを見守るためです。お買い物と偽ってどこか、怪しい場所に行かないか、心配していたので」


なぜ心配していたのだろう。私は確かに暗い印象を持たれるが、そんな人はほかのクラスにも何人かいるはずだ。

それに、怪しい場所に行くという点で言えば、私以外にもゲームセンターに行く男子生徒のほうが注意しなくてはいけないような。

そう思っていると、先輩はまた言葉を繋げた。


「錦野さんの体に『大小さまざまな傷、もしくは痣がある』ことは無意識にかばう仕草から容易に想像ができましたから。しかもそれを錦野さんは隠したがっている。何かあると思って同行させてもらいました」


先輩は変わらぬ陽気な笑顔で私にそう言った。

最初からお見通しだったのだ。私が痛がっていたことも、隠したかったことも。

だとしたら、私はこれ以上先輩と一緒に居てはいけない。


「(そうだったんですか)」


このままでは、私が隠したい本当の事実もバレてしまう。それだけは何としても避けないと。

そもそも、先輩はどうして私の家の帰り道に寄り添っているのだろう。このまま私の中を覗かれるわけにはいかない。

必死になっている私の気持ちとは裏腹に、先輩はまた口を開いた。


「でも、ここまで来れば安心ですね。もう家から近いみたいですし、私が錦野さんに同行するのはこれで終わりにします」


あまりに唐突な別れに、拍子抜けした気持ちだった。私から切り出す必要もなく、先輩は別れを切り出した。

先輩の家が近かったのだろうか、それとも時間的に帰らなければいけなかったのか、どれにしても私にとって良い状況であることに他ならなかった。

このまま終われば、私はいつもの生活に戻る。でもそれでいい。今より激化しなければ、それでいいんだ。


これで先輩を返しても大丈夫だ。私に後悔はない。

後悔をする必要すらない。だって、私は今の生活で十分なのだから。

アイツのことは『仕方がない』。それで済ますことができる。


さて、今日のご飯のことを考えながら残りの帰路を歩もう。


「(わ、分かりました。今日は本当にありが)……」


「――錦野さん」


名前を呼ばれた瞬間、私はいつものように俯いて下を向いていた視線を隣に居る先輩の顔に移した。

そう言えば私が学校の外で先輩の顔を見たのは、これが初めてだったかもしれない。

怖かったわけじゃない。ただ、先輩の隣に居るとリラックスしてしまい、いつも通りの目線になってしまっていたんだ。


そして私は、先輩の顔を見てリラックスしていた自分を後悔した。


「今、私が『終わり』って言ったらホッとしましたね」


夕日色に照り付けられたその顔は、獲物を捕らえた鷹のように鋭い目。そしてすべてが順調だと言わんばかりの怖い笑みだった。

迂闊だった。私は彼女の観察眼がどれだけすごいものなのかを今さっき認識していたはずなのに、警戒ができていなかったのだ。


いや、きちんと状況が理解できていても、彼女に嘘をつくことはできなかったのかもしれない。


『彼女に目をつけられた生徒は最後、その鋭いまなざしですべてをさらけ出してしまう。』


いつか、そんな噂が流れていたことを思い出した。

まずい、否定しないと。


――お父ううぅううさんのことを知られてわいけないっ。知られてえしまったらあ、おお父さんが捕まってしまうぅ。


どうしよう、まずい、どうすれば、どうしよう、いやだ、私、血が、だめ、これ、あら、いや、なんで、つら、いき、違う、どう、しよ、だめ。

コロ、だめ、これ、し、いえ、かえ、ちがう、みぎ、ひだり、め、ひと、から、だれ、あなた……


「に、錦野さん。大丈夫?」


分からせてはいけない。認識させてはいけない。解決させてはいけない。捕まらせてはいけない。殺してはいけない。暴力をふるってはいけない。わたしが先輩に勝てることはない。


わたしは、先輩には勝てない。なら――

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