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天啓

全部で五話くらいの短編の予定

太陽がさんさんと照りつける昼下がりのことである。今日も活気にみちみちた城下町を、王城のテラスから見下ろす青年がひとり。彼の名はテナン。やがて強大な王国を継ぐ第一王子であった。彼は城下を見やり、その騒がしさを感じて悦にひたるのが唯一の趣味だった。そんな彼の脳裏にふと、男の声が聞こえてきた。


(王子……王子よ……聞こえますか……)


テナンはあたりを見回したが、誰もいない。首をかしげていると、また声が聞こえる。


(テナン王子よ…わたしはいま、あなたの脳内に直接話しかけています……)


「なにっ、さては幻聴…幻聴では……?」


(幻聴ではないです……いうなれば神…ゴッド…ボーフ…)


テナンは思った。なんと嘘くさいのだろうか。こんなに威厳のいの字もない神が居るはずがない、と。


(あなたに天啓をさずけにきたのです……)


「えっ、天啓」


テナンは天啓が大好きだった。おとぎ話に良く出てくるからだ。


「続けて。どうぞ」


(いいですか…このまま行けばあなたにはひどい目に遭います…とてもとてもひどい目です)


「ひどいめ」


(そうです……具体的に言うと……武芸大会でぼろ負けしたり……輿に担ぎ上げられ内戦になったり……他国の介入戦争によって王国が滅びたり……ついでに妻は寝取られたり……そして悪魔の子という烙印を後生に語り継がれることになるでしょう……)


「思ってたのよりひどい…!」


(そうです……わたしはあなたを助けるために天啓をさずけにきたのです……)


「すごくうさんくさい……!」


(うさんくさくないです……滅びの未来を回避する方法は簡単です……逃げるのです……国を捨て……人を捨て……名を捨て……心を捨て……どこまでも逃げるのです……)


「なにか他に道はないですか…?」


(ないです……)


テナン王子は決めた。よし、逃げようと。この声が神とは到底思えなかった。されど、男の声には純粋な同情がこもっていた。テナンは思い切りの良い青年であった。手早く荷物をまとめ上げると、剣をひとふりたずさえて城を抜け出した。あては無かった。ただ、ここに居てはまずいのだろうという直感があった。


こうして、ある日の昼下がりにテナン王子は王国から姿を消した。誰にも行き先を告げず、何も残さなかった。人々はテナン王子が誘拐されたり、あるいは何かに巻き込まれたのだと、探し始めた。テナンはまず優しい人々から逃げねばならなかった……

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