前説 締め
「やっさんの表面が怖がられてるわけじゃないと思うんだよな」
息を途切れさせながら、伊東は安田の顔を覗き込んだ。
「……なんだよ」
少し後ずさる安田。愛嬌すら浮かぶ、伊東のにやけた顔を間近で見ることになり、少しだけ慌てた。
「やっさんが皆を避けてるんじゃね?」
夕日が少しづつ濃くなっていく。
伊藤の言葉が、そんな夕暮れへの静寂に混ざる雑踏の音の様に、安田の心に響いた。
「……違うだろ」
一応、返事をするが、それは言葉を零した安田にも、驚くぐらい不自然に聞こえた。
違うだろ。
もう一度、心の中でつぶやくが、まるで疚しいことをしている様に、胸の中が嫌な気分で溢れる。
「そう?」
伊東が問い詰める。
違うだろ。
安田は自らを省みる。
別に避けているわけじゃない。
俺だって機会があれば喋るんだし。
モテるってトコまでは行かなくても。
せっかく学生するって決めたんだから。
だから、もう少し、
もう少し……。
やましさが、水の中で中々混ざらない絵の具の様に渦を巻く。
その色は何色なのだろう。
安田は、それを判断することも、それどころか見ることすら出来ないでいる。
「でも、遠野とは喋ったぜ」
その一言で、刹那に過ぎった想いを振り払おうとした。
「ゆっちーは、ねぇ」
伊東はにやにやを止めなかった。
「やっさんはあーゆう娘、どーなん?」
「んー……まあ…可愛い子なんじゃね?」
「ほっほー」
短い時間の中でにやにやを加速的に増す伊東に気づき、ふと、我に返った
「でも、タイプとかじゃねえぞ!?俺のタイプはもう動かねえからっ!」
「ああ、例の白衣の女神?」
「おうっ!ガチだかんな」
口を結んで、胸元でガッツポーズを作る。
刹那の戸惑いは、今の一言で忘れかけていた。
いや。
忘れようとしたのか。
それを見つめられない事を、今の安田に問うのは酷であろうか。
まだ迷うべき若者に、広がる夕焼けは、ただただ広すぎた。
「そーいえば明日、基礎看護技術論の小テストだっけな」
伊東の残酷な現実が、安田の顔色を変えた。
「あ!そーだった!やっべ!予習全然だよ!」
「……やっさん、懲りんねー」
「コウ!ノート!ノート写させてくれ!?」
「いいけど……俺のあんまり纏まってないぜ?」
「……遠野…またノート見せてくれねーかなあ?」
「それ最悪な」
「かなぁ……」
「やっさん、追試けってーい」
「あーっ!!!!」
安田の叫びと、伊東の笑い声は、偶然高架を跨いだ新幹線の轟音にかき消された。
「だれだよ!こんな看護学なんてモン作ったのは!?」
「んー……そりゃあアレだ。基本はナイチンゲールだろ?」
「そいつ死ね!いっそ死ね!」
「もう、死んでるって……」
居眠りと怠慢のツケ。安田はこの先、何度自分を呪う事になるのだろうか。そんなうんざりとする、おぼろげな未来が、安田の背後で笑っているようだった。
風薫る五月。
気持ち良い風が吹き、これからの季節に心躍る時期。
看護学生、安田尊仁20歳の苦悩は、まだまだ続いていく………
さて、一応コレで一旦終わりです。
やっぱ全然書ききれてないですね。駄文・乱文をお許しください。
設定も大筋も無く、ほぼ思いつきのアイディアで書いたわりには、最後まで纏める事が出来たな、と思ってますが、どうなんでしょうか?(^^;)
やっぱり文章を書くって面白いですね。
まだ続きを書いてみようと思っています。
今度はちゃんと設定を起こして、せめて矛盾が無いようにしないと。
今日までに100人近くの皆様方に覗いていただき、とても嬉しいです。
せめて、お目汚しにならない様、仕事の合間を縫ってコツコツ書いてみますんで、暇があったらまた覗いてやって下さいませ。
次回予告「学生の白衣は意外と丈夫」の巻。 書いておかないと忘れてまうんで(>↓<)
9月の天気の良い日 大室こん