学生の白衣は意外と丈夫3
忘れた頃に載ってます(^ω^)
「やっさん………」
遠山は、絶望を浮き彫りにした様な表情を浮かべ、立っているのもやっとな様子で小動物の様に震えながら、その一言をようやく口にした。
「ほらみろ!早速一人、解り易く誤解してんじゃねーか!」
食いかかる安田に、吉川は怯むことなく畳み掛ける。
「貴方の子よっ!」
「だからやめろって!」
「私が小テストで落ち込んだたった一夜の慰みが過ちの列車を走らせた貴方の子よ!」
「具体的なんだか抽象的なんだかわからん!」
「妊娠21週目なの……」
「出会ったの3ヶ月前だよな」
「便秘7日目なの……」
「それは知らん」
「ほら……お腹がこんなに張って……」
「まず、便秘が原因じゃね?」
「あ……動いた……」
「何が?」
「お腹の中で……ゴロゴロと……」
「便秘のほうだな。100パー」
「あの夜の様に産ませてよ!」
「どの夜だよ!?」
「コーラックががっつり効いたあの夜よ!」
「やっぱり便秘じゃねえか!」
「貴方の子よ!」
「ウ○コの親になった覚えはねぇ!」
「顔がそっくりだったじゃない!」
「お前、マジで訴えんぞ!」
汚い漫才が響く中、遠野はぽかんとそれを見つめているだけだった。
「遠野!誤解するな!おれはこのバカとは何の関係もねぇから!」
そんな遠野にようやく安田が弁明を向けた。
「え……そ……そうなの?」
遠野はそれでもまだ状況がつかめていない様子で、声を震わせながら安田を見つめている。
「当たり前だ。ってか、今ので何かあったとか誤解するのも、どうかと思うけどな」
「じゃあ……よっしーが妊娠したとか……」
「ないない。全部アイツの妄想だ」
「やっさんが認知しないでよっしポイ捨てしたとか……」
「そこまでは言ってねーし。ってか想像力飛躍しすぎな」
遠野は安田の弁明に、少しだけほっとしたように息を漏らし、笑顔を作った。
「ご……ごめんなさい。何か揉め事の様に聞こえたんで……」
「いつもの事だ。気にすんな」
今のやり取りを真に受けるのか。
安田は、参ったとばかりに頭を掻いた。
「んで、遠野の一服しに来たんか?」
学校内は処世の風潮どおり禁煙であった。更に言うなら敷地内全域が禁煙と設定されているため、喫煙者は学校に隣接されている公設の公園にて用を足す他にない。
「私は吸わないから」
ゆっくりと首を振る。
「じゃあ、何なん?」
「ううん。二人が居るかなと思って……」
微笑む遠野。
遠野はひどく引っ込み思案な女性だった。クラスの中でも目立たず、あまり回りの人間と賑やかに話したりする姿を見たことも無い。
何人かが、入学した勢いそのままに、遠野を遊びに誘ったりはしたようだが、遠野は決して乗り気を見せる事はなく、明るく気さくなコミュニケーションをとることは無かったという。
暗い女の子。それが遠野に対する、クラス内での一致した印象だった。
一部を除いては。
安田達の印象は、皆のそれとは幾分違っていた。
確かに遠野は自分から何かをするような積極性を持ち合わせては居なかった。しかし、決して「暗い」と言える性格とは言えない。
誰が見ても判り易いと評するノートを記する几帳面さ。引っ込み思案は、今時のノリに馴染めない古風さの裏返し。何かを話しかければ柔らかい笑みでじっくり聞き入ってくれ、返す言葉は決して相手を攻めない、優しい言い回しを含む。
それでいて、ちょっとした気の小ささが裏返り、微笑ましいくらいのボケを見せてくれる。
可愛らしい娘。
安田や吉川達は、遠野と付き合って一ヶ月の間にそんな印象を持った。