学生の白衣は意外と丈夫 2
「あついなあ……」
安田は、ベンチに遠慮なくもたれ掛け、足を組みながらサンダルの踵をパタパタと鳴らしていた。そしてその隣では、目線を合わせることもない吉川が、ゆっくりとタバコを燻らしている。
静かな昼下がりに、何をするでもなくベンチに男女が二人。
時間だけがゆっくりと流れていった。
「熱い?」
不意に吉川が話しかけてきた。
安田は吉川の方を向いたが、吉川はタバコを呑んだまま、目を合わせてはいない。
「修造とどっちが熱い?」
「そこまでは……てか、『暑い』だからな、俺のは」
少しの静寂。吉川は、吸殻となったタバコを、持っていたグリーンの携帯灰皿に押し込んだ。
「やっさんて、ノリいいよね」
そういうと、きょとんとする安田に目を合わせた。
「……吉川が、突拍子な事を言いすぎんだよ」
少し、気まずそうに目を伏せる。
不思議な感覚。
吉川の目は、少しぼうっとして、どんな時にもまっすぐを向いていた。そして、そのきれいな顔立ちは話しているときにも、ボケている時にも、決して崩れることは無い。
まるで感情がうかがい知れない。
ボケているときでさえ、その言動がまるで真剣な物言いであるかのような錯覚さえ覚えてしまうほどに。
これをポーカーフェイスと言うのだろうか。
それで居て、怒涛のたたみかけを見せてくるのだ。表情も変えず、ただただ受け狙い丸出しのボケの連弾。そして、それに突っ込む安田。
傍から見れば滑稽で、不思議な二人。
この2ヶ月半、クラスの中ではそんな二人の関係が固定されつつあった。
「なあ」
今度は安田から吉川に話しかけた。
「金なら無いよ」
そして早速ボケで取って返される。
「違えよ。っつーか俺がそんな失礼に見えるか?」
「金あるの?」
「無えけど。この流れで金の無心は無いだろ」
「じゃあカラダ?」
「………俺はどんだけロクデナシなんだよ!」
「そうやっていつも私を弄ぶのね」
「傍から聞いたら誤解されるから、やめろっつーの!」
カランッ!
安田のツッコミが終わろうかという時に、不意に背後から乾いた金属音が響いた。
振り向くと、そこには青ざめた顔で呆然と立ち尽くす遠山と、その足元を転がる空き缶が居た。