表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
てるてるぼうずをもう一度  作者: 国崎らびふ
【5章】てるてるぼうずをもう一度
36/40

#5-2

 秋田と言ったら米だろう。

 そんな偏見を抱えていたらしい朱里が、通過点の秋田に着くなり食事を摂ろうと言い出した。


 とはいえ、米なんてどこでだって食える。そう思って適当に入った店は……よりにもよって全国チェーンの牛丼屋だった。絶対米の特産地とか関係ない。我ながらそう思ったが、朱里は「りっくんが選んだところならそれでいい」と言い、反論することはなかった。


 店に入って、メニューを見ながら、俺は疑問に思っていたことを口に出す。


「お前、飯食えないだろ」


「いいの。りっくんが美味しそうに食べてるのを見たいだけだから」


「そうかい」


 俺は一番安い普通の牛丼を一つだけ頼んだ。牛丼屋とは凄いもので、頼んで二分もかからずにどんぶりが俺の前に置かれていた。恐らく朱里用と思われる取り皿を一緒につけてくれていた。何も知らない店員さんの心遣いなのだろう。


「なあ、朱里」


「なーに?」


 俺は牛丼をかっこみながら言った。朱里は首を傾げている。


「家に帰ったら、料理教室に通おうと思う」


 そう宣言した。

 俺にとっては、割と、でっかい志だった。

 朱里の反応はと言えば、


「無理でしょ! あっはっはっは!」


 大爆笑していた。


「鍋を焦がすりっくんが、料理とか! ……げほげほ」


 笑いすぎて、咳き込んでいた。瀕死の病人だってことを少しは自覚すべきだと思う。


「お前とは散々外食したけどさ」


 思い返せば、朱里が入院した後も色々食った。ラーメンだったり、オムライスだったり。今だってこうやって牛丼を食べている。不味いわけではない。ないのだけれど。


「結局、お前が作った飯が一番美味かったなって」


 俺が思ったままの事を正直に言うと、


「あれ、あれれ」


 朱里は顔を真っ赤にしていた。照れていることを顔中で表現しているのがよく分かった。

 別に、朱里から自立したいとかそういう気持ちがあったわけではない。ただ、もっと単純な話だ。朱里がいなくなったら、俺はもう朱里の飯を食べられなくなる。だから、自分の手で朱里が作ってくれた飯の味を再現したい、と思った。朱里の言う通り俺は不器用だから、何ヶ月……いや、何年もかかるかもしれないけど。


「それにさ」


 俺は牛丼を食い終わってから言った。


「何か熱中できるもの、あったほうがいいだろ?」


 部活を辞めてからの俺は空っぽだった。無機質に生きていた。でも、朱里のおかげでそんな生き方がつまらないものだと知ることができた。だから今度はちゃんと、前を歩いて生きていけるように。人生が楽しいと思えるように。些細な目標から始めていこう。そう思った。


「バスケは?」


「バスケは……まあ気が向いたらな」


 多分高校のバスケ部には戻らないと思う。いくら恐怖心を克服できたからって、俺が怪我して迷惑かけて、辞めたということには変わりない。


「でも、大学に入ったら、バスケのサークルには入ってもいいかもな」


「ふーん、大学行くんだ」


「そりゃ行くだろ。今時高卒で仕事探そうって難しいぞ」


「ま、それもそうか」


 朱里はぼんやりと窓から外を眺めている。その先にはちょうど、名前も知らない高校があった。


「今でも、学校に行きたいって思うか?」


 校舎をじっと眺めていた朱里に向かって、俺は訊いてみた。

 病院暮らしでだいぶ離れてしまっていたけど、朱里だって華の女子高生だ。JKだ。きっともっと思い出を作りたかったに違いない。

 しかし、そんな俺の予想に反して、


「別に」


 即答だった。


「あんなに勉強したのに?」


「まあ、勉強はきつかったけどさ」


 今になって分かったが、朱里は俺のことが好きだから俺と同じ高校を選んだらしい。俺は家からの距離だけで選んでたから、逆に申し訳なさすら覚える話だ。しかし、そこまでして一緒になった高校ならなおさら、行きたいと思う気持ちは強いのではないか?


「だって」


 朱里は俺の手を掴んで、言った。


「ぼくはりっくんと同じ場所にいたかっただけ。今それが叶ってるから、いいの」


 朱里は、にっ、と笑ってみせる。その笑顔がどうしようもなく、いとおしく感じた。


「バカップルみたいだな、俺ら」


「みたいじゃなくて、その通りでしょ」


「そうだな」


 一口飲んだ水が、妙に甘く感じた。


「俺さ」


 俺は口をナプキンで拭ってから言う。


「お前に告白する前、青葉姉に告られたんだ」


「あらまあ」


 おばさんみたいな口調である。


「なんでまた急に言おうと思ったの?」


「お前の気持ちそっちのけで、告白なんか受けてたからさ。今のうちに謝っとこうと思って」


「ふーん」


 興味無さげに、朱里は前髪を撫でた。


「ま、ぼくも学校で男の子に告白されたことあるし、おあいこみたいなもんだね」


「何回?」


 俺が軽い気持ちで訊くと、朱里は指を折り始めた。右手じゃ足りなくなって左手を出してきたあたりですでに驚いたのに、やがて両手でも足りなくなったのか、


「指貸して」


 俺の右手まで使って数え始める。


「えっと……十三回?」


「……マジか」


 顔がいいからモテるのは知ってたけど、思っていた以上に数が多かった。おあいこどころの騒ぎではないぞ、それ。


「全部断ったのか」


「うん」


「なんて言って断ったんだ?」


「好きな人がいるから、って」


「誰? って訊かれなかったか?」


「訊かれた。りっくんが好きって言ったら、あーって言って諦めてくれた」


 校舎裏で、朱里の言葉を聞いて、やっぱりかとうなだれる男子。容易にその図が想像できた。


「やっぱりそう見られてたんだな」


「そりゃ、あれだけ一緒にいて付き合ってないほうがおかしいでしょ」


「付き合ってなかったんだけどな」


「誰のせいだと思ってるの?」


「…………すまん」


 俺が謝ると、朱里は笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ