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てるてるぼうずをもう一度  作者: 国崎らびふ
【4章】2ヶ月の恋人
33/40

#4-11

「おとーさん……おかーさん……」


 おじさんとおばさんは黙って立っていた。しかし、眉がつり上がっているのを見てすぐに理解する。それは怒りだ。穏やかな話をしに来たとは到底思えない。……当然の話ではあるが。会うことすら許されていなかった俺が、瀕死の朱里を連れて病院を脱走してきたのだから。


「どうして?」


 朱里がおばさんに問いかける。おばさんは答えた。


「青葉ちゃんに聞いたのよ」


「な……」


 俺は咄嗟に背後にいた青葉姉のほうに振り返った。青葉姉はといえば、何食わぬ顔で後ろ手なんか組んでいる。


「裏切ったのか……?」


「まさか」


 青葉姉はバッサリと切り捨ててみせた。


「旅をするなら、親に話を通すのが筋でしょ」


 その迷いの無い目は、俺たちをはめようとしたのではない。


「そうやって未練を残して旅行したって、きっと面白くない」


 逆に、まるで俺たちを気遣うかのような、厳しくも優しい青葉姉の側面だった。


「本当に二人が最期の旅をするって意志が強いなら、親を説得してみせなさい」


 青葉姉に背中を押される。よろめくようにして歩を進めた俺は、朱里の両親と対峙した。朱里の車椅子は青葉姉が押し、俺と朱里がおじさんとおばさんに並ぶ。

 おじさんが顔をしかめながら言った。


「……言うことはあるか」


 めちゃくちゃ、怖かった。


「……脱走しました」


 俺は正直に答えた。大体、朱里がここまで来るのには俺の手引きが絶対に必要だ。敢えて言わなくても分かることだった。


「……どこに行く」


「北海道です」


「……何をしにだ」


「朱里に、雪を見せるためです」


 おじさんが歯を食いしばるのが分かった。単純な話だ。助けるために連れ出したのではなく、死にに行くために飛び出したのだと分かれば、誰だって歯ぎしりしたくなる。

 おばさんが叫んだ。


「陸人くんも分かってるでしょう!? 朱里は雨が降ったら死ぬのよ!? 雪に降られても……」


「だからだよ、おかーさん」


 朱里が割り込むように言った。


「ぼくは雪を見て死にたい」


 死にたい、という言葉に、その場の全員が震えた。


「それがワガママだって分かってる。ここまで育ててくれたおかーさんとおとーさんに、反抗してるんだってのも分かってる。それでもぼくは、りっくんと、最期に、思い出を作りたい」


 朱里ははっきりとした口取りで、全く詰まることなく、そう言い切ってみせた。


「私たちがついていくのはだめなの?」


 おばさんが言う。


「家族旅行のおまけでりっくんを連れていきたくないから。ぼくは、ぼくが一番好きな人と、最期の景色を見たい」


「でも……」


「もうすぐ死ぬってのに、おかーさんやおとーさんに迷惑をかけたくないから」


「迷惑なんて、そんな……」


 一歩も退かない朱里の姿に、おばさんがたじろぐ。先ほどまでの強気な姿は、鳴りを潜めていた。


「うっ……」


 おばさんが口元を押さえる。発作で今にも吐きそうなおばさんの背中を、おじさんが擦っていた。


「……朱里」


 代わりにおじさんが言う。


「……我が儘はやめなさい」


 そう簡単に、納得はしなかった。


「……父さんも母さんも、お前のことを大事に思っている。だから、そんな自殺のような真似はやめろ。迷惑をかけたくないと思ってくれているのなら、その考えをやめなさい」


 おじさんは断言する。まるで大きな壁のように、俺と朱里に立ち塞がった。

 おじさんとおばさんは、敵ではない。むしろ朱里のことが大好きだからこそ、そんな無茶な真似はよしてほしいのだ。娘に生きてほしい、というおじさんとおばさんを、一方的に悪者にはできない。


 それでも。

 俺は絶対に朱里を連れ出すって約束したから。


「親として、朱里の最期を看取りたいという気持ちがあるのは、理解してます」


 自然と口が開いた。


「でも、朱里が望んでいることなんです。どうか、朱里のしたいようにさせてあげてください」


 俺は無意識のうちに膝をついた。頭も下げた。知らず知らずのうちに土下座の形になっていた。床のタイルが冷たい。まるで結婚式前の顔合わせみたいだ、なんて思った。


「……陸人くんは、どうして朱里についていく?」


 それはまるで。

 お前が付いていく理由はないだろう、と宣言しているような問いかけだった。

 もう少しだ。もう少しで、おじさんとおばさんは分かってくれる。

 言うんだ。俺が望んでいることを――。


「朱里が好きだからです」


 その言葉を言うのに、もはや躊躇いは無かった。


「バスケ部を辞めた俺に、新たな生きがいを教えてくれました」


 おじさんは、黙って聞いていた。


「朱里の願いを叶えるのが、俺の新しい生きがいです。俺の独りよがりじゃない。朱里に流されているわけでもない。二人の望みとして、最期の最期まで、やりたいことをやるんです」


 おじさんだけじゃない。おばさんも、青葉姉も、そして朱里も。静かに、俺の言葉を聞いていた。


「俺は、朱里が見せてくれる世界を見てみたい。そのためなら、朱里を何からだって、守ってみせます」


 俺は立ち上がり、おじさんと目線を合わせた上で、言った。


「だからどうか、朱里との二人旅を許可してください」


 もう一度、深々と頭を下げた。

 すべてが本心だった。

 下手に嘘をついたって、この場は何も解決しない。ならば正面から堂々と気持ちをぶつけて理解してもらうのが、大事だと思ったから。

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