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てるてるぼうずをもう一度  作者: 国崎らびふ
【4章】2ヶ月の恋人
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#4-9

 夜の病院。時刻は夜の九時。昼の明るさは鳴りをひそめ、今はライトの光だけが空間を照らしている。特別病棟の八階はもう消灯が始まっているようで、廊下はかなり暗かった。


 朱里のいる八○三号室の前には相変わらず警備員が見張りとして歩き回っている。当然だが、普通に入っていくことなどできやしない。本来、近しい身内であれば深夜面会も許されているが、俺は所詮血が繋がっていない上に、夜に無断で侵入した前科持ち。通してくれるはずなどない。だから、別のルートを使うことにした。


 朱里から聞いた情報だが、ついこの間、八○七号室のお婆さんが亡くなったらしい。膵臓ガンだったそうな。それで荷物は撤去してしまうのだが、痴呆症の爺さんとトラブルがあったらしく、爺さんがドアをぶん殴った拍子に鍵が壊れてしまっている。修理するつもりだったらしいのだが、お婆さんが急死してしまったせいで、後処理が遅れているようだ。

 八○七号室には見張りはいないので、こっそり侵入して窓から外に出て、縁を伝えば、朱里の部屋まで行けるというカラクリだ。八○三号室側の窓は、朱里を使って開けさせている。

 当たり前だが、バカみたいに危ない。ベランダなんて物はなく、ほとんど外壁に這うようにして進むしかない。一歩足を滑らせれば八階から転落。下には新たな死体が出来上がる。高所恐怖症の俺にはなおさら絶望的だった。それでも不思議と恐怖は無い。朱里に逢えるという希望が、些細な恐怖心を覆い潰していた。


 八○三号室の窓に辿り着く。俺は背中から吹き付ける風に少し身震いしながら、部屋の中へと乗り込んだ。


「よう、朱里」


「いらっしゃい、りっくん」


 電気が消えており、暗い病室。ベッドのそばにあるランプだけが明かりを放ち、朱里の顔を照らしていた。


「窓から入ってくるなんて、王子様みたいだね」


「迎えに来たぞ、お姫様」


 俺はキザったらしく前髪をかきあげて決めてみたのだが、


「うーん、ダサい!」


 笑ってそんなことを言われるもんだから、俺は急に恥ずかしくなって、誤魔化すように朱里の頭を小突いた。


「というか、すごいとこから来たね」


「一歩間違えれば死ぬとこだった」


「ぼくより先に死なないでよ?」


「どうせなら一緒に死ぬか?」


 冗談交じりに笑いながら、そう返す。


「やだよ」


 朱里もやっぱり笑いながら、はっきりとそう答えていた。

 俺は準備を始めた。まずは朱里の着替えや、その他の持ち物。とはいえ、衣類は最低限だ。荷物になるし、出先で買えばいい。


 そして、戸棚いっぱいにぎっちり詰まったてるてるぼうず。これをあらかじめ買ってきていた白い袋に詰め込む。多すぎるので、朱里が作ったものだけにした。クリスマスも近いし風情を出そうと思って雑貨屋でサンタのコスプレ用として売ってあったでっかいプレゼント袋を選んだ。でかすぎるかと思ったが、量が量だけにちょうど良かったかもしれない。そこらへんのスーパーの袋にしないで良かった。

 そうしてあらかたの荷物を詰め終えた後、最後に俺は朱里を車椅子に乗せた。よし、準備万端だ。


「でもさ、どうやって出るの?」


「大丈夫だ」


 胸を張って答える。


「作戦を考えてきた」


「作戦?」


「ああ」


 俺は頷いた。

 作戦はこうだ。

 特別病棟の中でも、八階は重病人だけが詰め込まれた場所だ。当然警戒も厳しく、ウロウロしていたら一瞬で見つかってしまうだろう。エレベーターも同じようにマークがきついし、一階の入り口なんて警備員が二人もいる。正攻法じゃダメなのは目に見えていた。


「じゃあ、どうするの?」


「――渡り廊下だ」


 今回の脱走にあたり、俺はこの病院の間取りを徹底的に調べた。目を付けたのは、一般病棟と特別病棟を繋ぐ渡り廊下である。各階に渡り廊下があるのだが、七階のものだけ、物資運搬のためか夜遅くまで人通りが多い。木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中、というやつだ。その人混みに紛れて一般病棟に渡ってしまえば、あとはスムーズに外に出られる、という寸法だ。

 幸い、朱里のいるこの八○三号室から、非常階段へはすぐそばだ。車椅子で階段を降りるのは一苦労だが、一階分なら俺が腕力で無理矢理階段を下ればどうにかいけるだろう。


「でもさ、ぼくの部屋の前、いつも警備員さんがパトロールしてるよ?」


「俺たち、問題児だからな……」


普通に階段を降りようとするのには、そこが問題になった。俺一人なら先ほどのルートで窓から伝って出入りすることはできるが、さすがに朱里を抱えて行き来はできない。万一落としでもしたら、朱里は病気の進行を待つ事なく天に召されるだろう。


 つまり、朱里だけでも真正面から病室を出る必要があるわけだが、その場合八○三号室の前にいる警備員を追い払う必要がある。なかなか難しいが……もちろん、その点も考えてきてある。


「この階の隅に、休憩室があるだろ?」


 各階の角に、飲み物やカップ麺などが売られている自販機に、テレビなどが備え付けられた部屋が存在する。病人や、その親族が一息つくために設けられている部屋だ。


「で、そこに緊急呼び出しのボタンがあるんだ。それを押して警備員をおびき寄せる。お前はその間に非常階段まで駆けこめ」


「犯罪だよ、それ」


 朱里は至極冷静にそんなことを言うが、


「分かってるよ、そんなの」


 俺は半分ムキになって、そう反論した。


「全部終わったら、この病院に謝りにくる。なんなら刑務所にぶちこまれたって構わない。でも、お前が何かをしたいって言うなら、俺はなんだってする」


 歯を食いしばった。朱里が願いを叶えられずに未練を残して死ぬのを見たくない。そう思った。


「時間もないし、手段も他にない。お前の願いを叶えるためだ」


「……うん」


 小さく頷いてから、


「共犯だね」


 朱里は笑った。信じてくれているんだ、ということは伝わった。

 俺は確認した。


「朱里、車椅子は押せるか?」


「……もうだいぶ力入らないけど、がんばる」


 朱里の頷きを見て、一応安心した。そこばかりは朱里に頑張ってもらうしかない。

 やるしか、なかった。

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