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てるてるぼうずをもう一度  作者: 国崎らびふ
【4章】2ヶ月の恋人
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#4-2

 ちょっと教えたところ、赤也少年はすぐに作り方をマスターしてしまった。子供というのは覚えが早いもので、たちまちのうちに学習したかと思うと、俺よりも立派なてるてるぼうずを作り上げた。俺はいまだに進歩していないのかてるてるぼうずの顔はブサイクなままで、これではどちらが初心者なのか分からない。


「赤也、上手いな」


 そう褒めると、赤也は黙っているが、やはり笑顔を見せた。少し打ち解けてきたかもしれない。

 これなら、もっといろいろ作れるかもしれない。


「手足、つけてみるか?」


 目を見開いていた。意味がよくわからない、という顔だった。それもそうだ。普通はてるてるぼうずに手や足なんか生えていない。


「だから、こうやってだな……」


 俺は以前あいつがやっていたように、てるてるぼうずに布製の手と足を追加してやった。

 衣類用のワイヤーを針金代わりに骨組みを通したが、上手くつけられない。ものすごく不格好になる。あいつは……なんであんなに上手い造形の手足なんて作れたんだろうか。

 それでもなんとか完成させて、赤也に見せる。


「どうだ?」


 ぶんぶんぶんぶん。

 かつてないほど高速で首が振られた。

 そんなに否定することもないだろうと、冷静に見返してみた。……自分でもないなと思った。やはり俺のてるてるぼうずは化け物だった。腕はひん曲がってだらりと垂れているし、足はオー脚が過ぎて足の裏がくっついているしで、百歩譲っても子供が喜ぶ造形には見えない。さすがにみっともないので取ろうとして、てるてるぼうずの足に触れたところで、ふと手が止まる。


どんなに使い物にならない足でも、それだけの理由でむしり取るのはどうなのか、なんてことを考えた俺は、結局足を外すのはやめ、そのままにした。


 そして、俺が次のてるてるぼうずを作ろうと布に手を伸ばし、顔が描けるか布触りを確かめていた時だった。

 驚くべきことが起こった。


「……、……陸人にいちゃん」


 赤也が、喋った。

俺はかなり驚いたが、せっかく話しかけてきてくれたのに無視するのはかわいそうだと思い、とりあえず声を整えて返事をする。


「なんだ、赤也?」


「こないだ一緒だった、おねえちゃんは、どこ」


 多分質問しているのだろうが、声に抑揚がないせいで少し聞き取り辛い。ただ、それ以上に答えにくい疑問をぶつけられてしまったので、俺は狼狽した。


「あー……」


 なんとはぐらかそうか考えたが、少年の眼があまりにも真っ直ぐにこちらを射抜いてくるもんだから、俺は白状して正直に喋るしかなかった。


「……はは、兄ちゃんな、あの姉ちゃんと喧嘩しちゃっててさ」


 バツが悪く、頭を掻いてみせる。


「にいちゃんは、おねえちゃんのこと、すきなの」


 子供って訊きにくいことをズバズバ尋ねてきやがる。


「あのお姉ちゃんは、陸人にいちゃんのこと、すき」


「……!」


 その言葉は断定だと分かった。あどけないなりに強張った顔が、それを証明していた。

 赤也ですら分かっていたのか。

 なのに、俺は……。


「ぼく」


 イントネーションが、朱里のそれと同じだった。


「おなじクラスの、ななちゃん、すき」


 ななちゃん、とは女の子の名前だろう。この年で好きな子がいるなんて、随分マセたガキだ。いや、今時はこれが普通なのか?


「にいちゃん」


 まるで懇願するかのように、


「どうしたらいいの」


 そう訊かれた。赤也は顔をそらさずに、俺だけを見ていた。

 好きなら告白でもすればいいんじゃないか、と言おうと思った。台詞が喉まで出かかったが、とあることを思い、止まった。

 俺は?

 たったそれだけのことに気づいただけで、俺は赤也に答えを返せなくなっていた。


「……兄ちゃんにも分からないんだ、ごめんな」


 回答に窮した俺はそれだけ言って、二の句は何を継ごうかとバタバタ考える。赤也はしばらく黙っていたが、


「うん」


 俺にこれ以上の答えを見込めないと、子供ながらに察したのか、


「……おしっこ」


 そう言って、部屋を出ていった。

 悪いことをしたな、と思いながら、俺は赤也が置いていったてるてるぼうずを手に取った。よくできている。まるで自分が育てたような誇らしさを感じた。

 と、ドアをノックする音が聞こえた。

 入れ替わりに、青葉姉が入ってきた。


「陸ちゃん、やっほ」


 風呂上がりなのか、髪が濡れている。石鹸の香りを纏っているのもあってずいぶん色っぽい。「どうした?」と俺が訊くと、


「連休中、泊まり込みで働かない?」


 そんなことを言ってきた。なんでまた? 俺は訊き返す。


「いやー、新作ができちゃってねー。これがまた売れるのよ。だから量産したいと思って」


 言いながら、青葉姉は、手に持っていたビニール袋から一枚のフリースセーターを取り出した。服は白だが、やたら派手な色の刺繍で「MAINITI IITENKI」と描かれている。その下には太陽の形を模したでっかいワッペンが激しい自己主張をしていた。

 控えめに言って、ダサい。

 これが売れているのか? いやまあ、これから寒くなるから服屋としては今が売り時なのかもしれないが、こんな激ダサセーターが売れるのか? 世の中の需要ってよく分からない。


「そんなわけで店番がいなくて、人手が足りないのよ」


「いやでも、俺は……」


「どうせ、行くとこないんでしょ?」


 ……見透かされていた。


「なんで分かった?」


「そんなの簡単よ」


 青葉姉はちっちっち、と指を振ってみせる。どこかで見た仕草だ、と思った。


「いっつも一緒の朱里ちゃんが隣にいないもの。何かあったんだなって分かるわ」


「あ……」


 そうだ。

 いつだって、俺の隣には幼なじみがいた。まるで二人で一つであるかのように。どちらかが欠けても、俺たちは不思議がられていた。


『どうしたの?』『卯月は?』『喧嘩でもしたのか?』『痴話喧嘩?』


 クラスメイトにはいつも、そんなことを言われて冷やかされていた。別に、付き合ってなんかいないのに。でも、ずっと一緒だったから周りにはそう思われていたのだろう。そしてそのことに対して、あいつが反論することは一度もなかった。ただ、笑って流していた。まるで受け入れているかのように。

 ……俺が気持ちの投げどころを失っているのを分かっていて、青葉姉は言うのだった。


「で、どうする?」


「……やる」


 俺は否定できない。自分では、心のモヤを晴らすことができなかったからだ。青葉姉なら、そんな迷いを引きずり回して拭ってくれる。そんな気がした。


「よし、決まり! そうと決まったらほら、陰気くさい顔なんて洗ってらっしゃい!」


「……そんな顔してるか、俺」


「鏡、見てみたら?」


 言われた通りに、俺はそばにあった全身鏡(服屋なので余るほどあるらしい)を覗き込む。

 正直、よくわからなかった。いつもの自分の顔だと思う。ちょっと髪がぼさついているくらいで、特に違和感はない。


「ね、ひどいでしょ?」


「わかんねえよ」


「分かるのよ」


 青葉姉はにやりと不敵な笑みを浮かべる。


「乙女だからね」


 無茶苦茶な理由だった。

 ともかく酷いらしいので、俺は顔を洗いに洗面所へ向かう。

 なんか俺、おちょくられてないか?

 俺が頭を掻きながら引き戸を開けると、


「……?」


 トイレから戻ってきた赤也が、疑問符を頭に浮かべて廊下に立っていた。

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