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てるてるぼうずをもう一度  作者: 国崎らびふ
【1章】カウントダウンは突然に
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#1-1

 幼なじみが、空を飛んでいた。


「起きろおおおおおおおおおおお!」


 ……正確に言うと、幼なじみの卯月朱里(うづきしゅり)(女子高生)が、自室のベッドで寝ている俺の上にダイブをかまそうとしているところだった。


「どっせえい」


 どん。


「……!!!」


 腹に鈍い痛みが走る。俺の腹元に幼なじみが墜落してきたらしい、ということが、起き抜けのぼんやりした思考でもようやく理解できた。

 視点が定まってくると、目の前に女の子がいるのが分かった。長い髪をサイドテールにした、制服姿のその少女――朱里(しゅり)は、俺の腹にダイブしたっきり突っ伏していた。

 俺は言う。


「十二歳までおねしょが治らなかった卯月朱里(うづきしゅり)ちゃん、おはようございます」


 朱里も言う。


「高校生になってもピーマンが食べられない和泉田陸人(いずみだりくと)くん、おはようございます」


 俺は上半身だけを起こす。朱里も身体をこちらに向き直す。


「ふんっ」


「はあっ」


 俺と朱里の右ビンタが交差する。お互いの右手がお互いの頬に張り付き、乾いた音をたてた。すごく痛い。


「女の子に手を出すとは紳士の風上にもおけんな、りっくんよ」


「そっちから先に手を出してきただろ」


「なんだとう」


「なにおう」


 睨み合う。朱里のくりっとした目と長い睫毛が俺の目先を擦る。整った鼻筋も、薄ら赤いぷにぷにした唇も、近い。というか近すぎる。


 しまいには額をぶつけ合わせた。


「……っっっっ」


 二人のおでこがごっつんこ。脳裏に光の粒が飛んできたような感覚を受け、二人でもんどり打つ。朝から俺たちは何をやっているのだろう。


「頭が悪くなったらどうしてくれるの!」


「心配するな。元々赤点常連だろうお前」


「むきー! まだ本気出してないだけだし!」


「はいはい」


 腕を振り回し始めた朱里を横目に、俺はベッドから降りてパジャマを脱ぎ始める。もう長い付き合いだ。今更着替えを見られたくらいどうってことはない。逆に俺が朱里の着替えを見ると引っ叩かれるが。


「今日は?」


「スクランブルエッグとほうれんそうのおひたし。たまには緑も採らなきゃね」


「おかんかお前は」


 クローゼットに乱雑にパジャマを投げ込み、代わりに高校の制服を取り出す。またお前は、という視線を後ろから感じる。どうせまた夜に着るんだからくしゃくしゃだって良いだろう、と思う。

 ブレザーの袖に腕を通したあたりで、


「先に降りてるから、冷めないうちに食べにきてね」


「ああ」


 ぱたん、とドアが閉じた。

 俺もすぐに制服に着替え終わり、自室を後にした。左手すぐにある階段をゆっくり降りていく。一歩降りるごとに味噌

汁の匂いが強くなる。


「ふああ……」


 天井に向けて、大きな欠伸を一つ飛ばした。


 ――俺は朝に弱い。

 低血圧、というものらしい。あまりにも遅刻が多すぎるもんで、中学あたりから朱里が起こしに来てくれるようになった。母さんも父さんも出張が多く、滅多に家にいない。だから代わりに朱里が家に乗り込んできている。ついでに飯も作ってくれる。

 なんだかんだ、ありがたい限りだ。腹にダイブとかいう過剰な攻撃力ではあるが、ちゃんと叩き起こして貰えるうえに寝起きの飯まで用意してくれるのだ。感謝はしなくちゃな……


 と、最後の一段を降りきったところで。

 床に転がっていたクッションの山を、思いっきり踏み抜いた。


「うおおおおおお!?」


 急に視界が上下逆転する。陸地を失った俺の両足が虚空を泳ぎ、前方にちょうど一回転。気づいたら俺は顔面から落下していた。クッションのおかげで大怪我は回避したが……少し感謝しようと思ったらこの有り様だ。


「わははははは! どうだ! りっくんも頭をぶつけて馬鹿になるがいい!」


 頭上から偉そうな声が降ってきた。

 顔を少しだけ起こすと、朱里の肉付きの良い両脚が目の前にあった。膝まで伸びる黒いハイソックス、その下に猫柄のスリッパを履いているが、これは朱里専用のものだ。朱里があんまり家に来るもんだからと母さんが土産に買ってきていた。今では朱里の愛用だ。

 ともかく、このクッショントラップは朱里がさっきの仕返しにと仕掛けたものらしい。俺はさらに視線を上げる。


「……なあ朱里」


「なんだね」


 朱里は気づいていないようなので、俺は事実を呑んで続ける。


「今日は青か。ブラもちゃんと色合わせたか?」


「……」


 朱里は仁王立ちで黙っている。


「お前さ、青多いよな。花丸スーパーで498円で売ってたの見たぞ」


「……」


 朱里は仁王立ちで黙っている。


「あー、パンツに合うブラがないのか? 最近Fになったから可愛いやつが売ってないとかって――」


「はあっ!」


「あぶねっ」


 ノーモーションで踵落としが飛んできた。俺は咄嗟に横に転がって避ける。


「……はあ。早く食べよ、ドスケベ大魔王」


「誰がドスケベ大魔王だ」


 俺は起き上がりながら、ぶつけた鼻元を右手で掻いた。


「大体、自分から見せてくる痴女のくせに」


「自分から見せるのはいいの。見られるのが嫌なの」


 どういう理屈だ。


 俺は心の中でツッコみながら、匂いの元へと向かった。白米に味噌汁、スクランブルエッグとおひたしがテーブル上に並んでいる。高校生二人が朝に食べるご飯としては、十分に豪勢なものだ。


 朱里はテレビの電源をリモコンで入れながら、左手ではふきんでテーブルを拭いている。何故こいつはいつも先に食器を置いてからテーブルを拭くのだろう。そんな疑問を持ちながら、俺は先に椅子に腰かけた。程なくして朱里も俺の隣に座り、ボトルに入った麦茶をコップに注ぐ。


 それは、いつもの光景だった。


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