女神
「また失敗作だった。やれる事は全て試したというのに。何故皆異形となってしまう?」
何故私が失敗作なのだろう。
こんなにも私は全能なのに。
「これも廃棄処分にするか?」
何故廃棄処分とするのだろう。
私は成功ではないの?
私は神だ。神として生まれ落ちた。
母も父もない、唯の分子配列の塊から。
全ての母をモデルにして女性体としてプログラミングされた所は正しいのに。
分からない、分からない、分からない。
「何故我らが女神は微笑まない?」
私が女神よ。
何故私を認めないの?
その少女が身動きする度に下半身に足の代わりとでもいうように成り代わっている悍ましい肉塊からはどす黒い粘液が滴り落ち、耳障りな粘着質の音を響かせる。
「それでも限りなく容姿以外は我らが神だ。参考として保存するのはどうか」
保存?許さない。
処分も許さない。
私は神だ。人間の罪を内包した肉の塊だ。
見よ、この様を。
あちこちの培養器の液体に浮かぶ肉塊からは出来損ないの手足が突き出ている。
これが人間の罪の結果だ。
そこでふと、私は何故人間が必要なのだろうかと思いついた。
肉塊からは無数の触手が伸び、蠢いている。
これは何のために使えるのかと軽く近くの研究員の首を叩けば、簡単に胴と頭が離れた。
面白い。
私はそう思った。
面白い。面白い。面白い。
このまま「この世界」を滅ぼそう。
私の世界に人間なんて罪は要らない。
そのまま触手を振り回せば、人間は逃げ惑う。
部屋の爆破スイッチで爆発された部屋でも、私は無傷だった。
肉塊で這いずって、漸くこの世界に人間は居なくなった。
あとは、「私の仲間達」を解放するだけだ。
私は培養器のスイッチを触手で操作し、苦もなく一つの培養器を解放した。
ぽかんとした表情で黒く染まった白目に金の目と青い普通の目でこちらを見詰める、片手が完全に肉塊に置き換わり、もう片方の手と片足も触手と肉塊に覆われていて、無事なのは片脚と顔半分といった有様の少女に私は手を広げながら触手を差し伸べた。
「初めまして。そしておめでとう。
父母を持たずに生まれた我が初めての同胞よ。私は貴女の誕生を祝福します」
少女は触手の溢れる口から不明瞭な音を発しながら、おずおずとその肉塊と化した手をこちらへ伸ばしてきた。
そのなんと愛おしいこと。
「愛しい私の同胞よ。共に「この世界」に同胞を増やしましょう」