ナノテロリズム
はじめまして。自己紹介としての一本目です。宜しくお願い致します。
どこかの国で自爆テロがあり、数十人が死亡したとTVから聞こえてきた。
物騒な世の中になったものだと、若い女はため息を漏らす。しかし、ニュースはどこか遠い国で起こった出来事であり、女には映画で観る爆発と何らかわらないように感じられた。
「よしっ!」
女は自慢の艶やかな黒髪を後ろで一つ結びにすると、気合を入れてキッチンに向かった。
爆弾--それを、一般人が手にする機会などほとんどないだろう。しかし、ネットが発達した今、爆弾は思った以上に簡単に作ることができる。検索すれば数万件の結果がヒットする。中には怪しいものもあるが、しかし、その中に本物のボムレシピが眠っているのも事実。
女は冷蔵庫を開け、品定めをする。目的のものを見つけると、それをつまみ上げた。
しっかりと冷やされたそれは、女の手の中で温度を取り戻していく。
「えっと、確か、これをーー」
一瞬思考をめぐらすと、女はレシピも見ずにそれをレンジの中に入れる。
「1分くらいだったわよね」
料理でもそうだが、我流で行うことはリスクをはらむ。ましてや、女がこれから作ろうとしているものを考えれば、慎重にやらなければならないのは道理。
しかし、女は危なっかしい手つきで、我流をつらぬく。
女は鼻歌を口ずさむ。
完成した作品を愛する人に渡す瞬間を考えると、心が躍ってしまうのだ。愛が人を殺すこともあるとは、露程も考えず、無邪気に。
時計を見やると、女は小さな悲鳴を上げた。
どうやら、待ち合わせの時刻が迫っているようだ。
女は急いで、完成した作品を箱に収め、風呂敷で包むと、簡単な手紙を添えた。
そして、玄関の扉を勢いよく押し開けると、走り出す。女は自身の手にもつバッグを揺らさないように慎重に、しかし足取りは早く、待ち合わせ場所に向かった。
公園には一人の若い男がベンチに腰掛けて、スマホをいじっていた。
女は男を見止めると、一呼吸置き、にやけるその顔を引き締め、「待った?」と声をかけた。
「今日はどこに行きたい?」
「プレゼントがあるの」
女は男の質問に答えず、バッグから風呂敷に包まれた箱を取り出す。
「なに?」
「愛情」
女は口から飛び出たくさいセリフに苦笑してみせる。
男は、添えられていた手紙をじっくりと読んで見せる。
「ここで?」
「うん」
男は戸惑いながらも、箱から取り出すと、それをまじまじと見つめた。
「私のこと好き?」
「え? うん、まぁ」
女は、男のあいまいな返事に、業を煮やす。
しかし、女の心は余裕ともとれる自信で満ち溢れていた。
もう少ししたら、この人の愛が一生手に入る。
女がここ一週間練りに練った計画は、一生この男の愛を独占することだった。そして女は、それを実行したのだ。
「早く」
「うん、わかった」
女は男の一挙一同を固唾をのんで見守る。
と、耳をつんざくような爆発音が轟く。遅れて爆発物の破片が女の顔に襲い掛かる。
男がベンチから倒れるように転げ落ちた。
女はパニくったように、おろおろと辺りを動き回る。
女は涙を流しながら、倒れた男に謝罪の言葉を口にする。
男は、ゆっくりと体を起こす。
「どうしてこんな真似を!?」
男は、女をまっすぐと鋭い目で見つめる。男は、次に発する女の言葉に注視し、彼女の真意を見極めようとしていた。
「私はただ……ゆで卵を作ろうとしたんだもんっ」
「どうやって?」
「電子レンジ」
「わざと?」
「わざとって何? てか、なんで卵が爆発するのぉ?」
泣きじゃくる女を見て、男は全身の力が抜けていくのを感じた。男は自然と笑い声を上げていた。
「次はレシピを見ような?」
「うん……」
男は、女の頭を優しく撫でた。