1章 友部内乱記 第3話
「あれから配下の者に調べさせましたところ、やはりあの女どもは他国の間者でした。」
※間者・・・今でいうスパイ。色々な人物に扮して各国の情報収集や裏工作をする者たち。
「一人は笠間、もう一人は千葉。あとの二人は友部家の家老殿が集めたようです。家老殿はすぐさま策を看破していたようですな、隠してはいたようですが。」
帰路である。並足で駆けながら小一郎が報告してくる。往時の鬱屈さは、いまは無い。
「策を見破ったはいいが、当人が論破してしまってはまた争いの火種になる。だから矢面に立たないように、裏工作を練ったと。」
「殿に嘆願が来たのも得心がいきます。殿の裁きであれば難癖の付けようがありません。ひとまずは落ち着きを取り戻すでしょう。」
左手には霞ヶ浦が見える。明け方に通った往路と違い、いまは午である。空から降り注ぐ日差しが、水面の一面を輝かせていた。
「友部に越してきた鹿島の姫だがな。その父御は大甘で蝶よ花よと育てたそうだ。だから飯炊きどころか床磨き一つ知らなかったであろうに。・・・何年もかけて覚えていったのだな。」
「まこと、母は強しにございますな。」
多江もそうなるのだろうか。そして自分もそうなのか。まだよくわからなかった。わからないなりにせめて、少しでも多くを子に残せるように、日々勤しむだけだ。
この戦乱の世であとどれだけ生きられるか・・・。胸の中でそっと数えていた。