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北関東の三英傑  作者: 餅之月継
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1章 友部内乱記 第1話

 小勢の供回りと共に、宗広は馬を駈っていた。朝もやが漂う霞ヶ浦を右手に眺めながら。あと一昼夜進めば友部家の領土に差し掛かるだろう。

 その友部家より、宗広の力を貸してもらいたいとの便りが届いた。取り次いだ小一郎が言うには、八方塞がりの状態らしく、一部では内乱の気配も見られるという。

 

 馬の動きに身体を預けながら、小一郎から聞かされた話を思い出していた。

 


『ご存じの通り友部家は興して以来、笠間家に半ば従属する形で運営しておりました。しかし5年前、次期当主を笠間筋にするか友部筋にするかで、大規模な内乱となり、友部家の館が焼け落ちるほどだったとか。

 その後、友部筋を幼年の当主に、後見人を笠間筋の重臣に据えることで決着いたしました。』


 その幼い当主とはまだ十にも満たない若さである。一見痛み分けのようにも見える結末だが、実質従属の続行を決めたようなものだ。当主が実権を握る前に、後見人が要所を押さえてしまえば、その従属関係はさらに続くことになる。


 『そしてこれはこの度の用件に繋がる事なのですが、当主は母御と生き別れとなっております。内乱の折りに行方知れずとなったようで。そこで領内が一旦落ち着いたので、母御を探しだし招き入れようとしました。これが難題となっているとの事。』


 では茨城守護の力を持ってして、その女人を捜し出せば良いのか?と聞けば、小一郎は歯切れ悪く答えた。


 『いえ、どうやら見つかってはいるようなのですが・・・うむむ。』


 何がうむむか、はっきり申せ。と、頭をペシリと叩いたが、一向に要領を得ない言葉が続いた。


 『何せ報告が余りにもふざけておりまして・・・。もしやからかわれているのでは、とも思いましたが。』


 頭を歳の数ほど叩いてやったが、とうとう詳細を話さなかった。実際にこの目でみましょう、なんてヌケヌケと言い放った。

 これで誤報であれば、あやつは帰りは徒歩だ。

 苦々しい顔で、宗広は心を硬くした。


 友部城の城門にたどり着くと、友部家の家老が出迎えてくれた。齢は五十手前だそうだが、憔悴した顔が一層老いを感じさせた。


「宗広様、この度は遠路より」

「前置きは良い、はよう本題を聞かせよ」


 事の次第を知らない宗広にとっては一刻も早く聞きたかった。ここに来るまではぐらかされ続けたのだ。宗広の好奇心と探求心は、もはや弾けんばかりに膨らんでいた。形通りの出迎えを制してうながした、はよう案内せい、と。少し考えるそぶりを見せてから、家老が城内を先導しながら話を続けた。


「使者よりお伝えした通り、主君の母君は内乱にて行方知れずとなっておりました。が、つい先日消息が知れて、城にお連れしました。」

「そこは聞いておる、それの何が問題なのか。」

「情けない話なのですが、母君の輿入れが終わって間もなく内乱が起きましての。顔を覚えているものが少なく、年月も経っておりますゆえ。」

「本物かどうかがわからぬ、と?」


 宗広様ご着きに、と言って家老が襖を静かに開けた。そこには幼い主と後見人、そして4人の女性が並んでいた。


「本物の母君が誰なのかわからないのです。」


 意味がわからない。いくらか詰問をすれば終わる話ではないのか。慌てて居住まいを正そうとする主を手で制して、婦人らに歩み寄った。すると、ほぼ一斉に4人が頭をたおやかに下げた。 


「そなたら、名をなんと言う。」

「小春でございます」

「小春にございます」

「小春と申します」

「Cow・・・holeデス」



・・・うん。



「生家はいずこか?」

「鹿島でございます。」

「鹿島にございます。」

「鹿島以外にあり得ませぬ」

「フロリダ、いいトこデス」


 皆が同じ仕草をし、同じ様な答え方をする。よくみてみれば座り方に始まり、話の呼吸、果ては首の傾き具合や目線の先まで同じである。あえてつっこまないが、一人だけ金毛碧眼で他よりも身体が二回り大きい。


「これはまた奇妙な四択であるな。」

「もはや三択と思われますが。」


 何か粗があれば候補を絞れるのだが、みな示し会わせたように似た答えを繰り返し、三つ子かと思えるほど動きはピッタリである。質問を変えても同じ。茶菓子を出してみても同じ。ただ一人だけは抹茶が飲めず、黒い豆を削って飲んでいた。

 全く進展のないままやがて日が暮れ、当主は苦悶の表情のまま眠ってしまい、家老が労るように抱き抱えて寝室へ向かった。全く要領を得ない母親問答に一行は疲れきっていたが、宗広は胸の支えがとれた分機嫌が良かった。

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