プロローグ
一点の曇りもない蒼穹の空。
暑くもなく、寒くもなく、渇いた風が一陣舞い上がる。
ハァハァハァハァハァハァー
走れば走る程、真衣の心に空虚が鎮座する。
纏わりつくいい知れぬ気味悪さに、怖気を感じ白い腕にはぷつぷつと鳥肌が集り出す。
なぜ、あの日あんな事をしたのかーー。
ぞわりと、背中が震え、違うのだと頭を降り
影を求め、唯一の大木に寄りかかる。
息を整えるも、呼吸が浅く胸が押さえ付けられたかの様に重く息苦しい。
『よいでの根城 (ねじろ)』
この地方に伝わる民話がある。
土着信仰とも言える風習になぞらえた伝承。
物心着く前から、繰り返し聞かされる。
畏れを持つ様にと。
畏めとも。
けして、根城を越えてはならん。
禁域を侵すな。
宵・日が落ちて昏くなった時。
夜 ・太陽が地平線の下にあって昏い時。
・・・日没から日の出まで。
異 ・差異のあるもの。同一ではない。
・・・外の。別の。特殊な。変わっているなどの意。
出 ・外にあらわれる。いずる。いだす。
手 ・人体の左右の肩から出ている長い部分。
・・・突出して動くもの。
手、人体の左右の肩から出ている長い部分。 突出して動くもの。
手、人体であったものの肩から出ている長い部分。突出して動くものーー。
目に映る奇怪は、見なかったことにしないといけないよ。よいで様を暴いちゃ、いけないよ。
好奇心に駆られちゃ、いけない。
なぁに、怒らせなければ宵出様は優しい方だよ。土着の護り方様であるんだ。
怒りに駆られた夜異手様はーー
あ……が、ーーーーな、…………だからね。
待って!何て、何て言ってるの……おばあちゃん。
思い出せないよ。
私、怒らせちゃっ……た……。